第253話 最強の盾

 ゼアトで防衛戦が終わっていた頃、夜の王都ではシルヴィアがレオルドの無事を祈っていた。自室の窓から繋がっているバルコニーで月夜を見上げ遠く離れたレオルドの事を想っていた。


 そのようにシルヴィアがレオルドの無事を祈っている時、魔の手が忍び寄る。

 皇帝が差し向けた暗殺者がシルヴィアにゆっくりと忍び寄っていた。


 祈りを捧げているシルヴィアに暗殺者は静かに凶刃を振るった。


「そうはさせないよ」


 しかし、その凶刃がシルヴィアに届く事はない。背後からシルヴィアを突き刺そうとしていた暗殺者の前にとある男が立ちはだかったのだ。


 暗殺者は目の前に立つ男を見て驚愕に声を出してしまう。


「リヒトー・ラインバッハ!! どうしてお前がここに!?」


 驚きの声を上げている暗殺者はリヒトーが本来ならここにはいないことを知っていた。暗殺者はリヒトーが国王の懐刀であり護衛だと言う事を事前に調べていたのだ。


 ならば、何故ここにいるのかというと話はレオルドが帝都へと潜入する前にまで戻る。


 ◆◇◆◇


 レオルドは帝都へ向かって出発する前に国王にあることを持ちかけていた。


「陛下。戦時中はリヒトー殿をシルヴィア殿下に付けて頂きたいのです」


「なぜだ? シルヴィアにもレベッカという近衛騎士が常に護衛でついているぞ?」


「それでは足りないかもしれないのです。帝国もシルヴィア殿下のスキルについては調べているでしょう。恐らくは殿下を亡き者にしようと刺客を送り込んでくるに違いありません」


「ふむ。確かにお前の言う通りではあるが、レベッカも近衛騎士に選ばれる実力の持ち主だ。そう易々と負けることはない」


「陛下。帝国には我々が知らない古代の遺物があるのはご存知でしょう。もしも、その中に暗殺に適した遺物があれば、いかに近衛騎士と言えども後れをとってしまうやもしれません」


「その可能性はあるが、そこまでする必要が帝国にはあるか? それにシルヴィアのスキルは有用性が高い。殺す必要などないはずだ。少なくとも私なら生かして利用するぞ」


「それはそうなのですが、考えてみて下さい。現皇帝からすればシルヴィア殿下のスキルは魅力的でしょうが王国を侵略するに当たって非常に厄介なはずです。それにこちらには、転移魔法があります。シルヴィア殿下のスキルで篭城しつつ転移魔法で物資を供給すれば半永久的に戦う事が可能です。そのような厄介極まりない敵を果たして生かしておくでしょうか?」


「む……。そうだな。そう言われると先に潰しておきたくはなる。大陸統一を掲げている皇帝からすればシルヴィアのスキルは邪魔にしかならんか。神聖結界は強力なスキルではあるが欠点も多い。対魔物ならば無敵だが対人ならばほとんど意味がない。魔法は防げても剣や弓矢などは防げないからな。しかし、本当に狙ってくると思うか?」


「分かりません……。確証は何もないので」


「つまり、お前の予想というわけか」


「はい……」


 ただの予想で王国最強と呼ばれるリヒトーを王国最高の権力者である国王から外す事は出来ない。これから戦争になるのなら尚更だ。


 しかし、国王はレオルドの今までの実績を考慮し結論を出した。


「わかった。レオルド。お前の言うとおり、リヒトーを戦時中のみだがシルヴィアの護衛をさせよう」


 その言葉に暗く沈んでいたレオルドの表情が明るくなる。


「ほ、本当ですか。陛下!?」


「ああ」


 思わず聞き返してしまったレオルドに嘘ではないと頷く国王は笑みを浮かべる。


「ところでそんなにシルヴィアが心配か?」


 先程までの雰囲気とは違い、親戚のおじさんが甥っ子の恋愛に興味津々のようにニヤニヤとレオルドへ話しかける。


「え? いや、それはまあ、心配ですよ」


 これは心の底から思っている言葉であった。レオルドはエロゲの攻略知識でシルヴィアが死ぬ事を知っている。だが、それはゲームでの話だ。

 この世界は紛れもない現実。ならば、ゲームとは違い別の要因で死ぬ事は普通に有り得る。


 だから、レオルドはもしも自分が皇帝だったらと考えた。その結果、もっとも厄介な敵になりそうなのがシルヴィアだと思ったのだ。

 なにせ、神聖結界スキルが非常に強力だからだ。魔にまつわるものなら拒む結界は魔物に限らず魔法すらも跳ね除ける。なのに、結界の内側からだと外に向けて魔法を撃つ事が出来るのだから反則な能力だ。

 いくら数で押したとしても王都は落とす事が出来ない。神聖結界で守られ強引に突破しようにも魔法で邪魔される。


 そのような無理難題に挑むなら暗殺者を送り込んでシルヴィアを殺した方が早い。誰だって同じような事を思い浮かべるだろう。


 だから、レオルドはシルヴィアに死んで欲しくない為に貴重な魔道具をプレゼントしていたりする。それでも足りないと感じたので今回国王に無理を言ってリヒトーを護衛に回して欲しいと願ったのだ。


 ただ、そのような事を知らない国王はレオルドがシルヴィアに心惹かれつつあると思って心配かと訊いたのだが、特に照れる様子もないレオルドの反応に肩透かしを食らう。


「そ、そうか」


「はい。殿下にもしもの事があれば大変ですからね」


(シルヴィアよ。どうやら一筋縄ではいかないようだぞ)


 シルヴィアの想いを知っている国王はレオルドの様子を見て察した。恋愛方面には疎いのだと。

 その後、国王はリヒトーに戦時中のみという限定でシルヴィアの護衛を任命したのだった。

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