第252話 ヒロインがピンチに陥るのはテンプレよ

 あっさりとした幕切れにルドルフは不満げであった。もっと多脚式移動砲台の実戦データが欲しかったからだ。なのに、たった一度の砲撃で戦意を喪失し白旗を揚げるなんて思いもよらなかった。


 しかし、結果だけを見れば王国の損害は小さい。一部のアホが先走ってしまったが、それを除けば王国の被害などほとんどないようなものである。

 対して帝国はどうだ。大軍勢を率いていたのに、多くの犠牲者を出し、最終的にはほとんどが捕虜となった。


 ちなみに司令部の方はベイナードが自ら出撃して幹部達を取り押さえた。その時、帝国の方では王国の最高戦力であるベイナードが帝国軍陣地に向かってると知らされて大慌ててだったそうだ。

 守備を固めようにも大半が捕虜となっており、残った部隊だけではベイナードを抑えることが出来ずに敗北。


「つまらん……。などと言うのはさすがに憚るか」


 今回の戦争は良くも悪くもベイナードにとっては衝撃的なことが多すぎた。今までであれば、主に剣と魔法による戦い方だった。

 しかし、今回は砦の内部から魔法陣を起動させ、帝国のように科学兵器を用いた王国の歴史を覆す戦いであった。


 勿論、悪いとは言わない。負ければ死ぬか隷属させられるかの二択であったからだ。禍根を残さない為に皆殺しすらも有り得た。

 だが、果たしてこれが正しかったのかと問われればベイナードは明確に答えることは出来ない。


 でも、勝ったのは王国だ。ならば、何も恥じる事はない。胸を張って戦勝報告を王都に届ければいい。そうすれば民衆は王国軍を称え、貴族達は大いに喜ぶであろう。


「はあ……。戦後処理か」


 勝利して終わりではない。これから後始末をしなければならない。具体的には捕虜の扱いに帝国への要求だ。まあ、幹部達の多くが貴族なので身代金を要求する事になる。


 その辺りに関してはベイナードではなく文官の仕事である。


 では、なぜ溜息を吐いているかと言えば今回の戦争で亡くなった騎士の遺族への対応についてだ。

 今回の戦争で圧勝はしたが一部の貴族の暴走により少なくない犠牲者を出してしまった。


 責任はその貴族にあるのだが、軍の最高責任者としてベイナードは亡くなった騎士の遺族へ誠意を示さなければならない。


 面倒だとは思っていないのだ。ベイナードは騎士団長として多くの騎士を看取ってきた。魔物の討伐任務で何人もの騎士が亡くなっていくのをベイナードは経験している。

 だから、残された遺族への報告が一番辛い。まだ若い騎士が志半ばで散っていった事を遺族に報告するのは何度経験しようとも慣れるものではない。


 時には責められることだってある。どうして、助けてくれなかったのだと。どうして、守ってくれなかったのだと。


 理不尽であるが大切な人を失ってしまったら感情を制御できる人間などいやしない。だから、行き場の無い怒りを別の何かに向けるのだ。


 それが全くの無関係な人間であっても。


「……少なくともあの時俺がもう少し強く言っておけば」


 たら、ればの話をしても無駄である。既に起こったことを変えることなど誰にも出来はしないのだから。


 さて、ベイナードが戦後処理に追われている中、屋敷で寛いでいたシャルロットは戦争が終わった事に気が付いていた。


「ふ〜ん。まあ、当然と言えば当然の結果ね。むしろ、あれだけの用意があって負けるのなら帝国には一生勝てないけどね。それにしてもレオルドは不憫ね〜。残っていれば必ず勝てたのに」


 優雅に紅茶を飲んでいるシャルロットは今頃帝都で戦っているであろうレオルドのことを思いクスリと笑った。


 すぐ側に控えていたイザベルが空になったカップに紅茶を注ぎ、シャルロットへと質問をする。


「シャルロット様は遥か遠方の地まで見通すことが出来るのですか?」


「ええ。まあ、使い魔を通してね。でも、あんまり離れすぎるとわからないんだけどね」


 言葉の通り、シャルロットは遠くの出来事を使い魔を通して知ることが出来るが、距離が離れすぎると分からない。実際、レオルドが転移魔法を復活させた時も名前や居場所までは特定出来たが顔までは特定できなかった。

 これは距離が離れていたせいである。もう少し近かったらレオルドの顔も特定できていた。流石は世界最高の魔法使いである。幅広い知識だけでなく、リアルタイムでの情報も取り扱えるとは恐ろしい。


「では、レオルド様が今どうなっているかを知ることは出来るのですか?」


「ここから帝都まで遠いから難しいわね〜。まあ、その気になれば出来るけど」


 つまり、今のシャルロットは片手間に戦争の様子を見ていたということだ。その事実に気が付いたイザベルは戦慄するかと思いきや、特にこれと言ったリアクションはない。


「なるほど。では、見ようと思えば見れるわけですね」


「まあ、そうね。もしかして、知りたいの?」


「いえ、特に心配はしておりません。ただ……」


「ただ?」


「姫様が知ったら聞いてきそうだなと思いまして」


「ああ、確かに。あの子なら飛びついて来そうよね」


 それは間違いない。レオルドが死地に向かうと知って居ても立っても居られずに王家直属の諜報員などを貸し与えたりするくらいなのだから。


 その話題のシルヴィアに今危機が迫ろうとしていた。

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