第251話 大人だから出来るんだ
ベイナードの指示によりマルコは完成している二十機もの多脚式移動砲台を工場から運び出した。帝国軍がすぐ側まで迫っているという知らせを受けて大忙しである。
ガシャンガシャンと音を鳴らしてゼアトの砦に向かう多脚式移動砲台は異質な光景であった。ゼアトに駐屯している騎士は特に驚く事はなかったが、王都からゼアトの防衛で派遣された騎士達は大層驚いていた。
「ま、魔物か!?」
「何だ、アレは!」
「アラクネの新種ではないのか!?」
多脚式移動砲台はルドルフの案により魔物がモデルとなっている。見た目はアラクネと呼ばれる蜘蛛の魔物だ。エロゲゆえに蜘蛛の上半身は裸の女性となっているが、見た目に反して強い。
上半身の女性は魔法を行使してくる上に下半身の蜘蛛の部分は糸を吐いてくる。厄介な魔物である。
そのアラクネにそっくりな見た目の多脚式移動砲台が列を成して砦に向かっているのだから驚くのも無理はない。
それに事前に知らせたとしても誰が信じようか。少なくともレオルドの事を詳しく知らない限りは誰も信じないだろう。
騎士達が驚いている中、多脚式移動砲台の配置が完了する。砦の外に出て横一直線に並び、土の壁で隠れるように配置されている。
後は帝国軍によって土の壁が破壊されるまでは待機である。
その様子を見ていたルドルフは満足げに頷き、横にいたベイナードは腕を組んだまま黙っていた。
(完成はしていたと言っていたが、果たして帝国軍相手にどれだけ戦えるか。数は二十機。はっきり言えば勝ち目などないだろうが……)
チラリとベイナードはルドルフを覗き見る。そこには、今か今かと子供のように待ち侘びているルドルフの姿があった。
早くどのような結果になるのか見たくて堪らない様子だ。ベイナードはそんなルドルフを見て、複雑な思いを抱く。
(この様子ならば先日と同じような結果にはなるだろうが……心配だ。一体どれほどの力を秘めているのだろう)
安心感と同時に心配するベイナード。願わくば先日のように味方すらも戦意を失くすようなものでは無いようにと祈るばかりであった。
そんなベイナードの祈りを木っ端微塵に吹き飛ばすように戦闘は始まった。帝国軍が門の代わりにと作った土の壁を破壊した。
土の壁が崩れ去り砂煙で視界が塞がれてしまい、戦場を確認出来ない。どうなっているのかを確認する為に風魔法で土煙を振り払ってもいいのだが、そうすると帝国の持つ魔道銃の的にされてしまう。
土煙が自然に収まるのを待つしかないと思われたが、土煙が少しだけ晴れた所に多脚式移動砲台に乗っていたマルコが照準を合わせて発射ボタンを押した。
砲身の内側が青白く光ると閃光が、帝国軍兵士達の頭上を駆け抜けて後方に控えていた指揮官の頭をぶち抜いた。
それを確認したマルコはガッツポーズを見せ、概ね予想通りの結果にルドルフは年甲斐もなく大はしゃぎだ。
「素晴らしい! レオルド様より教えていただいた
ただレオルドも詳しい原理を知らなかったので簡単に理科の実験を行ってルドルフに教えたのだ。その際、シャルロットも参加したのは言うまでもない。
はしゃいでいるルドルフの横ではベイナードが大きく口を広げて目を見開いていた。
「……なあっ!?」
マルコは騎士でもなければ魔法使いでもない。ただの技術者だ。
つまり、戦う力は皆無と言ってもいい。そのマルコが多脚式移動砲台に乗っただけで、いとも簡単に後方に控えていた帝国軍の指揮官を倒してしまった。
ルドルフの言うとおりである、最早、帝国軍など敵ではない。たったの二十機と言ったが訂正しよう。二十機もあるのだ。目にも止まらぬ速さで砲弾を撃つ事のできる兵器が。これは本当に歴史を塗り替え、世界を驚愕させることになる。
そう確信したベイナードは遠く帝都にいるであろうレオルドに向かって一言述べる。
「レオルド。お前は本当に凄い奴だ」
それと同時にこれだけの偉業とも呼べる事を成し遂げたレオルドの事をどのように陛下に報告しようかとベイナードはまた頭を悩ませるのであった。
対して帝国軍の方は大騒ぎである。土の壁を破壊したら、いきなり指揮官が死んだのだから。とは言っても一時的なもので別の指揮官がすぐに指示を出して騒いでいた兵士達を黙らせる。
しかし、先程の光景は大きな影響を与えた。防御する暇もなくいきなり光が飛んできたと思ったら指揮官が死んだのだから兵士達は動揺している。
もしも、あの光が今度は自分達に向けられたらと思うと足が動かない。先に進もうとしていたはずなのに、今では恐怖で後ずさりをしてしまいそうだ。
先日の件も相まって帝国軍は既に戦意喪失である。出撃前は勇ましく仇を討つと意気込んでいたが、もう無理である。
いくら帝国が数で勝っていようとも、未知の兵器、未知の魔法の前では数など無意味に過ぎなかった。
それに加えて最高戦力であるゼファーが今になっても姿を現さない。それはすなわちゼファーが敗北したと言う証拠。
これ以上の戦いは双方にとって、いや、帝国にとっては損害しかない。ならば、ここで白旗を揚げるのは当然の事であった。
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