第249話 切り札はとっておくものさ

 さて、ゼファーとシャルロットが一騎打ちを行っていた頃、ゼアトではゼファーに破壊された砦の門の修理作業に騎士達は追われていた。


 土魔法を使ってバリケードを作ってはいるが大した防衛機能はない。まあ、あるだけマシといったレベルだ。


「急いで門を修理しろ。門が破壊されたことは既に帝国軍にも伝わっているはずだ。これを機に攻めてくるかもしれない」


 ベイナードの指示の下、騎士達は門の修理作業を進める。


 その一方で帝国軍はゼファーが単独で出撃して門を破壊して砦内部に侵入した事を知る。

 偵察部隊からの報告を受けた上層部はこれ幸いにと出撃命令を下した。


 先日の魔法があるのではという声も上がったが、そう何度も使えるような魔法ではないと推測して、無理矢理出撃させた。


 当然、帝国軍が進軍すれば王国軍も動き出す。偵察を行っていた騎士が帝国軍が進軍を開始した事をベイナードへと報告する。

 報告を受けたベイナードは門の修理を急がせるが、帝国軍の進軍速度は今までの比ではない。


 帝国軍もゼファーが切り開いてくれた絶好の機会を逃すまいと必死になっているのだ。それに前回の魔法も警戒しているので使われる前に砦に押し入ろうとしているから自然と速度が上がっている。


「ちっ! ルドルフを呼べ! 聞きたい事があると伝えろ!」


 門の修理が間に合わないとベイナードは判断して舌打ちをする。ゼファーという強大な戦力がいなくなったのは嬉しい誤算だが、門を破壊されたのは手痛い。


 しばらくすると騎士に連れられてルドルフがベイナードの下へとやってくる。無理矢理連れて来られたせいでルドルフは息を切らしており、今にも倒れてしまいそうな顔をしている。


「大丈夫か? 喋れるか? ルドルフ」


「しょ、少々、お待ち頂けたら……」


 ゼエ、ハアと荒い呼吸を繰り返しているルドルフの息が整ったのは五分ほど経過してからであった。


「ふう、お待たせしました。私に何かご要件があると伺ったのですが、なんでございましょう?」


「ああ、その事なんだが、先日使った魔法は使えるか?」


 ベイナードは門の修理が間に合いそうにないので、先日の魔法をもう一度使うことを決めていた。だが、先日目にした魔法はそう易々と連発出来るものではないとベイナードは推測している。

 だから、ルドルフを呼んで確認をしたのだ。もう一度先日の大規模な魔法が使えるかどうかを。


「申し訳ありませんが、先日の魔法は魔力の充填がされてませんので使うことは出来ません」


「では、どれだけの魔力があれば使うことが出来る?」


「レオルド様が魔力共有を行って、莫大な魔力を要したので恐らくは魔法使い数千人分は必要かと」


「なっ……魔法使い数千人分の魔力だと!? そんなもの用意できるか!」


「まあ、レオルド様お一人でも規格外の魔力を持っておりますし、そこにゼアトの住民分の魔力を共有しておりますのでそれくらいだと思うのですが」


「そうは言うが……」


 ベイナードは現在王国軍に所属する魔法使いの数に苦虫を噛み潰したような顔をする。魔法使いは騎士に比べて数が少ない。なので、貴重な戦力なのだがルドルフが述べたように先日の魔法陣を再起動させるには数千人分の魔力が必要と言うではないか。

 王国軍に所属する魔法使いも無能と言うわけではないが、先日のレオルド達が開発した魔法陣は今回の戦いを確実に有利な方向へと進めてくれる。


 どうするかと悩んだベイナードだったが、答えは決まった。


「魔法使いを集めて魔法陣を再起動させる。そうすれば門が破壊されていようとも帝国軍はこちらに手を出せまい」


 最も有効な手段をとったベイナードは魔法使いに招集をかけようかとしたら、ルドルフが声を掛けてきた。


「ベイナード団長。少しよろしいですか?」


「なんだ? 見ての通り急いでいるんだが?」


「お困りのようですから、打開策を一つ提示しようかと思いまして」


 またろくでもない事になるのではと考えてしまうベイナードだったが、先日の一件で学んだことがある。

 頼りになるのは間違いないと。


「聞こうか」


「では――」


 ベイナードとルドルフが作戦会議を始めた時、帝国軍の方では先日の魔法が襲ってこない事に安堵していた。それと同時に上層部の予想は正しかったのだと証明されてしまった。


「指揮官。砦前に土の壁が現れたとの報告です」


 部下から報告を受けた副官が指揮官に報告する。その報告を受けた指揮官は命令を下した。


「砲撃部隊を先行させて土の壁を破壊。その後、歩兵部隊を突撃させて砦内部に侵入する。すでに門はゼファー殿によって破壊済みである。だから、楽な仕事と言いたい所だが、今の王国にはなにがあるか分からない。警戒を怠らないように進軍せよ」


 指揮官の言葉を受けて帝国軍は進む。先日、散っていった同胞達の為にもこの戦いに勝利して見せると意気込んでいる。

 ただ、残念ながらその思いが報われる事は決してない。新たな犠牲者が生まれ、惨たらしい悲劇が再び襲おうとしている。帝国は知る事になる。自分達が一番でないのだと。

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