第247話 赤子の手は柔らかいんだよ
「ふう……。では、行きます!」
「別に声を掛けなくてもいいのだけど?」
とんとんと軽く跳ねたゼファーは真っ直ぐにシャルロットに向かって駆け出す。風魔法を上手く利用して常人離れした速度でシャルロットの近くにまで踏み込んだが、それ以上は進めなかった。
シャルロットは常に障壁を自身の周りに張っている。その数は日常だと六枚重ねだが、戦闘時には倍の十二枚の重ね掛けである。
ほとんど破られる事はないが、レオルドやギルバートは一枚、二枚破っているので相応の力があればシャルロットの守りを突破する事は可能だ。
だからと言って、障壁を全て破壊すれば勝てると言うわけでもない。それに障壁を破壊されても、また増やせばいいだけの話だ。
「障壁か! なら!」
ゼファーの接近を拒むかのように障壁が張られている。ゼファーはその障壁を破壊しようと自慢の風魔法を放った。
パリンッと音を立てて障壁が砕け散る。シャルロットの障壁を破壊したゼファーは自分の力も通用するのだと笑みを零した。
しかし、シャルロットの方は特に焦る事もなく涼しげな表情である。たかが、一枚破壊された程度ではシャルロットが焦る事はない。
その事に気が付いたゼファーは眉間に皺を寄せるが、シャルロットが世界最強の魔法使いだと言う事を理解しているので、すぐに納得した。
「だったら、これで!!!」
一旦、距離を取り離れた場所からゼファーが風魔法を放つ。先程の魔法よりも強力な魔法だ。まともに受ければ障壁の一枚や二枚は簡単に貫く。
木々をなぎ倒し、地面を抉りながら風の砲弾がシャルロットに襲い掛かる。シャルロットは避ける素振りも見せず、ただ悠然と立ったまま。
その様子を見ていたゼファーは侮っているのかと僅かに苛立つ。ゼファーの思っている通り、シャルロットは侮っているのだ。避けるまでもない。障壁が全て破られないと絶対の自信を持っているのだ。
ゼファーの魔法とシャルロットの障壁がぶつかる。衝撃で周囲の木々や地面を吹き飛ばしたが、シャルロットの障壁は破壊する事が出来なかった。
正確に言えば、十二枚の内四枚は破壊した。これは普通に自慢できるレベルだ。なにせ、シャルロットが展開した障壁は並大抵の魔法使いでは破壊できない。
それをたったの一撃で四枚も破壊したのだから、誇ってもいい。
「……さすがですね」
「まあね。でも、貴方もやるじゃない。私の障壁を一度に四枚も壊すなんて中々出来る事じゃないわよ」
「それは……喜んでいいのか、悔しがればいいのか、わかりませんね」
「喜べばいいわ。だって、そこら辺にいる魔法使いじゃ絶対に壊せないから」
「……それは、まあ、なんというか複雑な気持ちになりますね」
「そう? レオルドも一撃じゃ三枚くらいが限界だったし、十分すごいんだけどね」
比較対象にレオルドの名前を出してもゼファーにはいまいちピンと来ない。ゼファーが持っているレオルドの情報は古いので凄さをあまり理解できていない。
「ま、いいわ。それより、まだ続けるのかしら?」
「当然!」
一度や二度、魔法が防がれた程度でゼファーが諦める事はない。これは最強への挑戦なのだから、ゼファーが諦める時は全てを出し尽くして自分が納得し満足するまでだ。
挑戦される側としては迷惑な話ではあるが、シャルロットの場合は暇潰しにはなるので問題はないだろう。あるとすればシャルロットが飽きた時だけだ。
「はああああっ!!!」
気合を入れるように声を張り上げながらゼファーが魔力を高める。どうやら大技を出すらしい。シャルロットは止める様子もなく、ただ見ているだけだった。
「さて、どんな魔法で来るのかしら?」
楽しげな声で微笑むシャルロットは今も魔力を高めているゼファーを見詰める。
「吹き荒れろ、
この世界というより、
ゆえにゼファーが放った魔法はとてつもない威力を秘めており、シャルロットでさえも無事では済まない。
と言いたいのだが、ゼファーが放った嵐の剣は対象を風で閉じ込め、風の剣で敵を八つ裂きにするといった魔法なのだが、障壁に守られているシャルロットには効果がない。
いや、シャルロットが相手だから効果がないと言えよう。普通の魔法使いであれば障壁を張り巡らせようが、ゼファーが放った嵐の剣の前には成す術もなく死んでいる。
単にシャルロットが強すぎるだけだ。ゼファーが弱いわけではない。相手が悪かった。それだけの話である。
「無傷……っ!」
「いい魔法ね。風で逃げ道をなくして、風の剣で敵を切り刻む。悪くはなかったわ。私の障壁も破壊していたからね」
褒めてはいるがゼファーの顔は優れない。なにせ、自信のあった魔法だったから掠り傷の一つくらいは負わせられると思っていたからだ。それがまさか無傷の上に、まるで提供した料理を品定めされたかのように言われるのだから、ゼファーのプライドも傷ついた。
「ふっ……これが世界最強の魔法使い。今のは自信があったんですけどね」
「大丈夫。私には効かなかったけど、十分強いわ」
悪意はないのだろうがシャルロットの物言いにゼファーは頬が引きつるのを隠せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます