第245話 そりゃ信じられないもの、現実が
出撃した軍が文字通りの全滅となった帝国軍本部では緊急会議が行われていた。
「なんなのだ……。一体、アレはなんなのだ!?」
「分からないが一つ言えるのは我々が知っている王国ではないと言うことだけだ」
「悪夢と言われても納得出来るぞ……!」
「それよりもどうするのだ!? どう陛下に報告すればいい! 見たことをそのまま報告しても、納得されないぞ!」
「そのような事を言われても、事実としか言い様がないぞ……」
「ああ! どうすればいいのだ……!」
「今は陛下にどのような報告をするか悩むよりも王国軍への対処が先ではないかね?」
「そんな事はわかっている。だが、どうしたらいいのだ! 剣と魔法だけしか能がない連中だと思っていたのに、ここまでの魔法を使えるとは情報にはなかったぞ!」
「待て。シャルロット・グリンデが関係しているのでは? 確か、情報ではシャルロット・グリンデはレオルド・ハーヴェストにえらく執心的だと聞き及んでいるが」
「おお、確かに! それならば納得できよう!」
帝国軍の上層部は碌に調べようともせずに、王国にいるとされているシャルロットのせいだと言う事にした。そうすれば、皇帝も納得するだろうと言う考えがあっての事だった。
しかし、根本的な解決は何も出来ていない。シャルロットの仕業だと言う事にしたのはいいが、何一つ打開策がない。
数の暴力で攻めればいいだけであったのに、その優位性も失われてしまった。撤退も視野に入れてはいるが、格下である王国相手に尻尾を巻いて逃げたとなれば、皇帝は黙ってはいないだろう。
「だが、どうする? 攻めようにもシャルロット・グリンデが関わっている以上、攻めることは出来んぞ」
その言葉に誰もが口を閉ざす。攻めることは出来ない。ましてや、退くなど言語道断。打つ手はなしかと思われたとき、今まで沈黙を貫いていたゼファーが会議の場に姿を現す。
「僕がシャルロット・グリンデを引き受けよう」
どんよりとした曇天に一筋の光明が差したかのように会議をしていた幹部達の顔が晴れる。
「おお! 帝国守護神のゼファー殿が動かれるなら、我々も王国軍に集中できましょう!」
「ええ! これは勝ったも同然でしょう!」
「うむ! 残った戦力を投入すればゼアト砦を一気に攻め落とせましょう!」
帝国最強の戦力である帝国守護神の一人、禍津風のゼファーが動くと聞けば幹部達も自然と気が大きくなる。負けたばかりだというのに、既に勝った気になっているのが、その証拠だろう。
そんな様子をゼファーは冷めた目で見ている。
(愚かな人達だ。現実を見ようとしていない。まあ、仕方がないか。半分近い戦力を一気に削られたんだ。理解したくないと言う気持ちは嫌でも分かるよ)
指摘したところで彼らの考えが変わるかは分からない。本来ならば自分の役目なのだろうが、ゼファーは私情で先代皇帝を裏切ったことを思い出して、自分にはその資格はないと思い何も言わずにその場を後にした。
ゼファーは用意されていた自分の天幕に入ると、瞑想を始める。対シャルロットに向けて集中力を高めている。
全ては明日の為に。
その一方で一切の犠牲なく快勝した王国軍は宴会ムードであってもおかしくはないのだが、こちらもどんよりとした空気になっていた。
むしろ、帝国よりも酷いかもしれない。その理由は、レオルド達が考案した魔法陣のせいだろう。敗色濃厚だった戦を覆しただけでなく、多くの人々に恐怖を与える結果となった。
味方である王国軍も流石にあの魔法は凶悪すぎると認識している。もしも、自分達に向けられたらと思うとゾッとしているのだ。
そのような事はないと言いたいが、それは今後の王国次第である。この先も王国がレオルドに対して不誠実な対応をしなければいいだけの話だ。
相応の成果には正当なる報酬を与えればレオルドも特に文句はないだろう。
まあ、レオルドは生き残る事を最優先としているが、現在はゼアトの発展に力を注いでいたりするので王国がレオルドの働きに報いればレオルドは決して裏切る事はない。
ただ、あまりにも酷い場合レオルドがどのような手段に出るのかは見てみたい気もする。
その場合、シャルロットやレオルドの配下も存分に暴れだす事は間違いない。
「一先ず脅威は去った。帝国軍は今回の戦いで多くの戦力を失った。そして、こちらの力も見たことだろう。恐らくは援軍を呼ぶか、撤退するかのどちらかだと思われる」
「では、しばらく動きはないということで?」
「ああ。各自警戒を怠らず身体を休ませておくように」
『は!!!』
とりあえず王国としてはレオルドのことについては触れず、帝国軍だけに集中する。ベイナードの予想通りにはならないが、王国軍は休息を挟む事となる。
夜、ベイナードはゼアト砦の見張り台に立っていた。見張り役は他にもいたのだが、ベイナードが下がらせた。
そして、ベイナードが夜風に当たりながら帝国軍の陣地を見詰めているとバルバロトが見張り台へとやってくる。
「来たか」
「呼ばれてきましたが、どのようなご用件でしょうか?」
「お前は昼間のアレを知っていたのか?」
ベイナードの言う昼間のアレとはレオルド達が開発した魔法陣のことだ。当然、バルバロトもすぐに察してベイナードの問いに答える。
「存じておりましたが、詳しいことは何一つ知りません。アレらの開発はレオルド様とルドルフ、そしてシャルロット様のみで行いましたので」
「そうか……。なあ、バルバロトよ。お前はレオルドを見てどう思う?」
「見ていて気持ちのいい人です。かつて道を踏み外したことはあれど、今のレオルド様は立派なお人です。それに私のような一介の騎士の為に結婚式まで準備してくれるお方ですからね」
「そうだったな……。すまん。野暮な事を聞いてしまった」
「いえ、構いません。ベイナード団長が不安を抱くのも無理はないでしょう。ですが、御安心を。レオルド様は敵対されるような事がなければベイナード団長の味方であり続けますよ」
「そうだろうな。あいつはそういう男だ。くくっ。俺も怖気付いてしまったな。剣を交わした仲だと言うのに」
「仕方がありませんよ。あんなものを見せられては。でも、我々は知っているではありませんか。レオルド様はいつだって我々の想像を超えていくと」
「ああ、そうだ。そうだったな」
闘技大会で剣を交えたベイナードは思い出す。レオルドがそのような器の小さな男ではないと。
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