第242話 三人寄れば文殊の知恵だけど時と場合による

 さて、いよいよ三度目の防衛戦である。


 帝国軍はゼアト砦を攻略する為に攻城兵器を持ち出している。砲撃部隊、歩兵部隊と最初の防衛戦以上の戦力を用意していた。


「注意すべきは魔法剣士で編成された部隊のみだ。それ以外は案山子と思ってもいい!  では、進軍を開始する。我々、帝国の力を見せ付けてやれ!!!」


 万の軍勢がゼアト砦に向かって進軍を始める。その光景を見ていた王国軍の騎士はベイナードへと報告へ向かう。


 報告を受けたベイナードは先日ルドルフから教えて貰った場所へと向かう。そこは砦の中心であり、窓から外を眺める事が出来る一角であった。

 元々は物置として使われていたのだが、レオルドがそこそこの広さがあり、窓から外も拝めるので丁度いいと判断して物置から改装した部屋である。


 そこには既にルドルフが待っていた。窓から外を眺めて帝国軍が進軍してくる様子を眺めていたようで、ベイナードが来るまで窓の外を見ていた。

 ベイナードが来た事でルドルフは窓からベイナードの方へと顔を向けて頭を下げる。


「お待ちしておりました。ベイナード団長。早速、お使いになるので?」


 ベイナードが入った部屋には壁や床にびっしりと魔法陣が描かれていた。そのどれもが三人へんたいによる研究の成果である。


 ルドルフが思い出すのはレオルドとシャルロットの三人で行った会話だ。


 最初はレオルドがルドルフと協力して対帝国に備えて魔法を開発していたのだが、そこにシャルロットが遊びに来て混沌カオスな現場に拍車が掛かってしまった。


『土属性と火属性を混ぜて溶岩を流すと言うのはどうだ?』


『それですと二次被害が酷いものになりますよ。ぶっちゃけこの辺りの森が全焼します』


『だったら、私が精神干渉の魔法で敵を恐慌状態にするってのはどう?』


『それは素晴らしい! 帝国は魔道銃という兵器がありますから、それで同士討ちを始めれば総崩れするでしょう!』


『それはいいな。でも、倫理的にどうなんだ? 流石に酷くないか?』


『何言ってるのよ。抵抗レジスト出来ないのがいけないんでしょ。それに昔はそういうのが当たり前だったのよ』


『そういうものなのか……。ならば、よし!』


『でしたら、味方にも精神干渉で興奮状態にしてはどうでしょうか? 所謂、狂戦士バーサーカーにすればより勝てるのでは?』


『それいいわね! やっちゃう? レオルド』


『う〜ん……後遺症とか残らない?』


『多少は残るかも。でも、私生活には影響が出ない程度よ』


『試したことがあるので?』


『ええ。何度か動物には試したわ。戦闘にでもならない限りは平気なはずよ』


『それならばいいのでは? レオルド様』


『それならいいのかな〜……?』


『じゃあ、組み込んでおくわね』


 それからも思考がぶっ飛んでいる三人は改良を重ねていく。さらには、レオルドが持つ異世界の知識を用いて凶悪な魔法を生み出した。


『毒ガスとかあるのか?』


『毒ガス? それはどういうもので?』


『説明が難しいな。まあ、簡単に言うと吸うだけで身体に害を及ぼすようなものだ』


『ほう。それは毒を持つ魔物が吐く息みたいなものでしょうか』


『そういう認識でいい。出来るか?』


『魔法での再現は難しいですな。シャルロット様はどうですか?』


『う〜ん、毒魔法はないのよね~。解毒魔法はあるのに』


『そうですか。でしたら、魔道具にするのはいかがでしょうか? 毒を持つ魔物から体液などを摂取して煙玉のようにするとか』


『あー、それくらいなら私が出来るわ。転移魔法で相手の頭上から降らせるってのはどう?』


『現代兵器よりも凶悪なんだが……!』


『現代兵器? 帝国の持つ魔道銃などでしょうか?』


『ああ〜、うん』


『ねえ、レオルド。他になにかないの?』


『え、あ〜……』


 この時、レオルドが真っ先に思い浮かべたのは核兵器である。しかし、元の世界でも使用を禁じられていた代物を異世界に持ち込むのはどうかと悩むレオルドだが、この世界には歩く核のようなシャルロットがいる事を思い出す。


『シャル、ルドルフ。これから俺が話すことは決して他言するな。それが守れるなら話そう』


『それなら私が契約書を作ってあげるわ。破ったら死ぬ呪いが発動する契約書をね』


 流石は魔法がある世界なことだけはある。元の世界よりもよっぽどセキュリティが高いと感心するレオルドはシャルロットが作った契約書に二人がサインしたのを確認して核兵器について話した。


『なんと……! そのようなものをレオルド様はご存知だったので!?』


『いや、古代の文献に載ってたんだ』


 これが嘘であるとルドルフは見破ったが、そんな事はどうでもよかった。非常に興味がそそられるレオルドの知識についてもっと知りたいと思ったのだ。だから、ルドルフは黙ってレオルドの言う事に従う事を選んだ。


『へえ〜。私なら再現できそうね』


『マジか。お前ならもしかしたらって思ったけど出来るのか?』


『まあ、さっきレオルドがした曖昧な説明だと時間かかっちゃいそうだけどね』


『それはすまん。俺も詳しくなくてな』


『では、とりあえず出来る事から始めて行きましょうか』


 パンとルドルフが手を叩いて作業が再開される。面白半分、遊び半分でどんどん頭のおかしい魔法や魔道具が開発された。

 いつの日か、それが使われることを願いながら。


 鮮明に二人と楽しく魔法や魔道具を開発していた日々を思い出したルドルフは、まさかこんなにも早く自分達の研究成果が試せるとは思わなかったので自然と頬が緩んでいた。


 ルドルフが笑っている事にベイナードは気が付かない。もしも、気が付けていたなら少しは考えを改めたのかもしれないが、もう止まる事はない。ベイナードはゼアトの防衛を任されているので、その責任を果たす為に三人へんたいが用意していた魔法陣を起動させる事を決めたのであった。

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