第241話 マッドサイエンティストって言葉いいよね

 軍議をしている会議室に連れて来られた男は、挨拶をしようと一歩前に出る。喋りだそうとした瞬間に男は勢い良く咳き込んだ。


「ゴッホゴホ……! オエッ、ゲホ……!」


 その様子に会議室にいたバルバロトとジェックス以外の者達は大丈夫なのだろうかと心配した。


「す、すみませんね~。何分、身体が弱いもので。少し階段を上り下りするだけで息切れするほどでして」


 情けなく笑う男はぽりぽりと後頭部を掻いている。


「そうか。まあ、なんとなく想像はつく。それよりも自己紹介がまだだが?」


「ああ、これは失敬。私、ゼアト魔法研究部門の部長をさせて頂いております。ルドルフ・バーナードと申します。以降お見知りおきを」


「ルドルフ・バーナード? はて、どこかで聞いたことのある名前だが……」


 ルドルフの名前を聞いたベイナードが首を傾げていると、ルドルフの名前を聞いていた一人の指揮官が椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がる。


「ルドルフ・バーナードだと!? まさか、あのルドルフ・バーナードで間違いないのか?」


「おや、私のことを覚えていらっしゃいましたか。でしたら、お話が早い。想像している通りのルドルフ・バーナードで間違いございませんよ」


「なっなっ!」


 想像していた通りのルドルフだと分かった指揮官は思わず後ずさりをする。


「思い出した。お前、研究所を爆破したルドルフか」


 ずっと頭の隅に引っかかっていた記憶を思い出したベイナードはポンと手を叩く。


「ええ、はい。そのルドルフです」


 ベイナードが思い出したのは王都にあった魔法の研究所が爆発した事件。その原因と言うよりは爆破した犯人がルドルフであった。

 ルドルフは魔法の研究に携わっていたが、魔道具の開発などにも手を出しており優秀な研究者でもあったのだが、研究熱心なせいで周囲が止めても危険な実験を繰り返したりしていた。


 その結果、ルドルフは実験中に魔法を暴発させて研究所を吹き飛ばした。怪我人こそ出たが幸いな事に死者は出なかった。

 しかし、研究所を爆破し、怪我人を出したルドルフは研究所から追放。さらには実家からも縁を切られていたのだ。


「ほう。研究所を追い出され、家からも追い出されて野垂れ死んだと聞いていたが、まさか生きていたとはな。どこでなにをしていた?」


「まあ、研究所を追い出されてからは家も追い出されてしまったので行く当てもなく、旧市街地の方でその日暮らしをしておりました。その時にどこから私の話を聞いたのかは知りませんがレオルド伯爵が私のところまで訪ねて来まして説得の末に雇われたと言う次第です」


「なるほど。レオルドはお前の事を知っていたのか?」


「はい。私が過去になにをしたか知った上でだそうで。それにレオルド様は自身も過去に大きな過ちを犯したからな、と豪快に笑っておりました」


「そうか。それはよかったな」


 レオルドがルドルフを見つけたのはほんの数ヶ月前。その頃は必死に戦争の準備をしており、有能な人材を探していたころだ。

 国王やシルヴィアに頼み込むと言う手もあったのだが、出来れば借りは作りたくないということでレオルドは餓狼部隊に頼み込んで有能そうな人を探してもらっていた。


 そして、ルドルフを見つけ出した。しかし、過去に研究所を爆破している危険人物。そう簡単に部下へと招いてもいいのかと思われたが、レオルドはシャルロットに比べれば可愛いものだと判断してルドルフを口説いた。

 そのおかげでルドルフはゼアト魔法研究部門の部長に就任した。


 ちなみにゼアトでも何度か研究所を爆破して吹っ飛ばしている。ただ、その現場には大体レオルドとシャルロットがいるのでお咎めなしであり、住民にとっては見慣れた光景になっている。まあ、間違いなく初見だと驚かれるが。


「ところで私の力が必要だと聞きましたが?」


「ん、ああ。お前も知ってのとおり今は戦争の真っ只中だ。ゼアト砦を要とした防衛戦なのだが、こちらが取れる手段は篭城しかない。いくら転移魔法で人員や物資を補充できても拠点が潰されてしまえば元も子もない。だから、打開策を考えなければならないのだが……手詰まりでなぁ……」


「はあ。なるほど。レオルド様が仰っていたのはこのことでしたか」


「レオルドはこの状況も読んでいたのか?」


「想定はしていたようですね。ですから、準備は出来ておりますよ」


「それは心強いが……どのような案なのだ?」


「私の研究成果を帝国軍にお見せするというものです」


「そうか。ん? 待て。私達と言ったか、今?」


「はい。それが何か?」


「その研究とやらはお前の他に誰が絡んでいる?」


「レオルド様とシャルロット様にございます」


 二人の名前を聞いてベイナードは頬が引き攣るのを感じた。レオルドが絡んでいるのはなんとなく分かるが、もう一人のほうは手に負えない。

 なにせ世界最強の魔法使いであり、トラブルメーカーでもある。そんなシャルロットが関わってるとなればベイナードが顔を引き攣らせるのも無理はない。


 ルドルフは混ぜるな危険を平気で行う人間で、レオルドは生きる為ならば何でもよしの人間で、シャルロットは知的好奇心が満たされるならばなんでもよしの人間だ。そんな三人が組んだら、なにが起こるかなど容易に想像ができる。


 明日の戦いは阿鼻叫喚の地獄が待っているに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る