第240話 ほら、言ったじゃん! 俺、言ったじゃん!

 一夜明けて、ベイナードの元へと一人の騎士が駆け込んでくる。非常に焦った様子の騎士を見てベイナードは只事ではないと声を掛ける。


「どうした。何があった?」


「も、申し上げます! 一部の者達が命令を無視して出撃しました!」


「そうか……」


 もっと動揺するかに思われたが、ベイナードはまるで分かっていたかのように落ち着いていた。その様子に、首を傾げる騎士はベイナードに尋ねる。


「あの驚かれないのでしょうか?」


「ん? ああ、先日の軍議で一部の者達が不満を抱えていたのは知っていたからな。なにか仕出かすと思っていたから、そこまで驚く事ではない。それよりも聞きたいのだが、どれだけの騎士が出撃をしたのだ?」


「五百名です」


(ふむ……私兵だけか。指揮官だけなら見殺しにするのは構わんが、無理矢理連れて行かれた騎士にバルバロト達が作ってくれた時間を無駄にすることは出来ない)


 しばらく考えたベイナードは援軍を出す事にした。本来ならば命令違反をしたのだから切って捨てればいいのだが、無能な指揮官に連れて行かれた騎士とバルバロト達が稼いでくれた時間を無駄には出来ない。


 ベイナードは騎士に指示を出して救援に向かう。


 既に交戦は始まっており、一部の暴走した王国軍は帝国軍に包囲されていた。


「やはり昨日の部隊は王国の切り札だったようだな。こいつらを見る限りでは敵ではないだろう」


「指揮官! 砦より援軍と思われる部隊を確認しました!」


「ほう。規模はどれくらいだ?」


「一個旅団ほどです」


「それは少々相手をするのが面倒だな。引き上げるとしようか。十分な収穫はあった。王国軍は恐るるに足らず。それだけ分かれば十分よ」


 帝国軍はゼアト砦からベイナード率いる援軍を見ると、すぐに包囲を崩して陣地へと撤退した。その様子にベイナードは戸惑うが、優先するべきは味方の救援。


 生き残った者達を保護してベイナードは砦へと引き返した。残念ながら生き残った生存者の数は百にも満たない。

 そして生き残った多くの者が戦意喪失しており戦力外となってしまった。


 今回の事態を招いてしまった指揮官は運よく生きてはいたが、責任を問われ王都へと強制送還される。命令を無視した挙句に多くの死者を出してしまった指揮官は良くても終身刑、最悪死刑だ。


 その事をベイナードから告げられて項垂れていたが自業自得なので誰一人慰める者はいなかった。


 王国軍の方で一騒ぎ起こっている間、帝国軍の方では朗報に喜んでいた。


「ははははっ! やはり、王国軍は切り札を切っていたわけか! ならば、もう恐れる事はない! 数で押してしまえばこちらの勝ちは決まったも同然だろう」


「ええ、ええ! そうですな。どうやら、王国軍は我々を進ませないように最初から切り札を切ったのでしょう!  見事に嵌められましたが、もう恐れることはありませんな。後は蹂躙するだけだ」


「ふふっ。馬鹿には感謝せんとな。まさか、王国軍の現状を教えてくれるとは。褒美をやりたいくらいだ。はっはっはっはっは!」


 帝国軍はこれで確信する。王国軍には先日の部隊以外は敵ではないと。これで方針が決まった。

 圧倒的な物量で砦を攻め落とす。そうすれば、いかに魔法剣士が優れていようとも圧倒的な数の前では蹂躙されるだけだ。


 そうと決まれば話は早い。帝国軍は明日に備えて準備を始める。先日とは違い、圧倒的な戦力差を王国軍に見せつけようとしていた。


 その頃、王国軍も帝国軍が動いている事を知り軍議を開いていた。


「恐らく今回の事で帝国軍には我々の戦力を知られたに違いない」


「では、どうするのです?」


「なにか策はないのですか?」


「現状、我々には篭城と言う作戦しかない。しかし、帝国軍が先日以上の戦力で攻めてくれば……そう長くは持たないだろう」


 その言葉に誰もが下を向いた。最早ここまで。折角、バルバロト達が稼いだ時間も無駄になってしまった。誰かを責めようにもその相手は既に転移魔法陣で王都へ強制送還されている。


「ベイナード団長。発言してもよろしいでしょうか?」


「バルバロトか。構わん。何かあるなら言ってみろ」


「は! では、遠慮なく申し上げさせていただきます。レオルド様より、もしも打つ手がなくなった場合にとある男を呼べと命じられておりますのでお呼びしても良いでしょうか?」


「ああ。それはいいが、その男とやらはどんな人物なのだ? レオルドの部下と言うのならば信用は出来るが……?」


「御安心を。レオルド様の部下にございます」


「そうか。しかし、俺はお前とジェックス以外は特に知らぬが、どのような人物なのだ?」


「……一言で言えばシャルロット様に次ぐ危険人物というところでしょうか」


「なに!? そのような人物がレオルドの部下にいるのか?」


「はい。ただ、心強い味方なのは確かかと」


「う~む。わかった。一度ここにつれて来い」


「は!」


 それからしばらくして、バルバロトが連れて来たのは白衣を身に纏った色白で細身の男。ちゃんと栄養を取っているのかと問い詰めたくなるくらいな見た目をしている。


 そんな男を見てベイナードは疑問を抱く。果たして、レオルドが言うほどの人物なのかと。そして、シャルロットに次ぐ危険人物なのかとベイナードは疑問に思うばかりであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る