第239話 無能な味方の方が厄介なんだよ
一部の者が煽ったせいで王国軍は攻めの一手を打とうとしている。当然、止めなければいけないベイナードは呆れるように溜息を吐いて発言をする。
「はあ……静かにしたまえ」
「おや? ベイナード団長は、やはり乗り気ではないので?」
「そうではない。冷静になれと言っているのだ。諸君らの言い分は確かに分かる。しかしだな、真正面から戦って勝ち目があると本当に思っているのか?」
「ええ。当然ではないですか。実際、勝っているのですから」
「今回は策がよかっただけだ。次はない」
「ならば、別の策を練れば良いだけでしょう? なにをそんなに恐れていらっしゃる?」
「数の上ではこちらが圧倒的に不利なのだ。いくら策を練ったところで数で押し負けるのは理解できるだろう?」
「ですから、数の不利すら打ち消すほどの策を練ればいいと言っているではありませんか。実際に今回は数の不利を覆し勝利を収めた。難しい話ではありますまい?」
「それは帝国がこちらを侮っていたからだ。最初から帝国が本気を出していればこちらが敗北していた」
「それでは我々は決して勝てぬと? そう仰るので?」
「そうではない。我々が考えなければならないのは勝利ではなく、いかにして時間を稼ぐかだ」
「ベイナード団長は消極的な意見ばかりでらっしゃる。まるで話にはなりませんな。これでは勝てる戦も勝てますまい」
やれやれといった感じで肩を竦める男にベイナードは青筋を立てる。話にならないのはどちらの方だと今すぐにでも怒鳴り散らしてやりたいと思っているベイナードだが、そこは抑える。
しかし、このままでは埒があかないのも事実。どうすれば良いものかと腕を組んだベイナードは、いっその事最前線に送り込んでやろうかと考えた。
(ここまで言うのならいっそ最前線に送り込んでやろうか? 出来れば戦死でもしてくれればいいのだが、この男は腐っても指揮官だ。自分は安全圏で指示を出すだけで死ぬのは部下達だ。はあ……レオルドが内側の敵を減らしてはくれたが、残ったものが無能とはな)
嘆いてはいるが無能ばかりが残ったというわけではない。有能な者も中にはいるのだが、有能がゆえにベイナードと同じ思いをしているのだ。
今回の勝利で王国軍の士気は上がったが、それだけで勝てる相手ではない。むしろ、今の状況の方が危ういのだ。
帝国軍は今、格下だと
だから、よっぽどの事がなければ帝国軍は無理に砦を攻め落とすような事はない。
しかし、ここで王国軍が勝利に酔ってしまい無謀な突撃でもすれば、帝国軍に敗北してしまう。
そうなってしまえば、警戒していたはずの相手が実は弱かったと認識されてしまう。すると、どうなるかは誰にでも想像が出来る。後は数に任せて砦を攻められれば王国軍は成す術もなく惨敗するだけだ。
だからこそ、今の状況は危うい。攻めればボロが出て負け、篭城すれば時間こそ稼げるが勝つことは出来ない。
帝国軍がその事実に気が付けば今の均衡はたちまち崩れてしまう。
その事をしっかりと理解している者達は打開策が思いつかないので黙っているのだった。しかし、これ以上あの無能に好き勝手言われるのは許せないと問いただす事にした。
「一つ問いたいのだが、そこまで自信があるのならば何か良い策でもあるのでしょうな?」
「何の為の軍議ですかな? それを考えるのが軍議でしょう」
(こいつ! 言うに事欠いて無策だと! 舐めてるのか!!!)
見事に全員の意見が一致した瞬間である。まさか、あれだけベイナードに食って掛かっていた癖に、何も考えていなかったのだ。むしろ、ある意味大物である。
引き攣った笑みを浮かべながら、質問をした指揮官は話を続ける。
「ほ、ほほう。確かにその通りですな。しかし、現状帝国軍は我々を警戒しており、刺激するのはよくないと思うのですが、その点についてはどう思われますか?」
「何を言っているのです? 警戒している今こそ攻めるべきでしょう。全軍で攻めれば怖気付いている帝国軍など容易いでしょうよ」
(それが出来ないから困ってるんだろうが! 話聞いてたのか、おめえは!!!)
必死に怒りを堪えながらも会話を続ける。勿論、相手のことなど見てもいない指揮官はドヤ顔のままだ。
「全軍で攻めたとしてゼアト砦は誰が守るのです?」
「勝てばいいだけでしょう? そうすれば守る必要もなくなりますからな。ほら、言うではありませんか。攻撃こそ最大の防御と!」
(数が勝ってたらそれでもいいが、劣ってるから策を練らなきゃならんのだ! なんで、こんな奴が指揮官になったんだ……!)
もう何を言っても通じそうにはない。むしろ、これだけ言っても理解できないのだから言うだけ無駄かもしれない。
結局、説得を諦めてそれ以上会話を続けることはなかった。ある意味、言い負かされたと言ってもいいかもしれない。時に馬鹿はとてつもなく強いということが証明された。
「一先ず、明日は防衛に徹する。それでいいな?」
「お待ちください! 私は今こそ――」
「これは上官命令だ。逆らうというのなら、分かっているのだろうね?」
有無を言わせないベイナードの剣幕に何も言えなくなった指揮官は小さな声で返事をした。
(く、くそ! このままでは何の功績も挙げられないではないか! こうなったら、仕方あるまい。私がどれほど優れているかを見せ付けてやる。そうすれば自分達が間違っていたのだと頭を下げるに違いない。くっくっくっ!)
軍議が終わり俯いていた指揮官は、功績を挙げる為に暴挙へと出る事になる。
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