第235話 コロコロ視点変更なりよ~

 一方で帝国軍はゼアト付近に陣を敷いて、王国軍と同じように軍議を行っていた。


「偵察部隊からの報告はどうなっている?」


「は! ゼアト砦はどうやら以前の資料と変わらぬ様子との事でした。ですので、攻め落とすのは容易に思われます!」


「ふむ。ならば、当初の予定通り砲撃部隊で砦を破壊し、歩兵部隊を突入させて砦内部を制圧。実に簡単な仕事だ」


「しかし、不安が一つありますよ」


「ええ。王国には転移魔法があります。どこまで王国が転移魔法を扱えるか。それを確かめねばなりますまい」


「調査の方はどうなっている?」


「は! 転移魔法についてですが使い手は一人もいないそうです。魔法陣を介さなければ転移魔法は使えないとの事」


「ほう。それならば恐れる事はありませんな」


「ですな。ただ厄介な事には変わりあるまい。なにせ、転移魔法陣を使って物資や人材は運び放題だ。つまり、向こうは篭城を決め込んでくるでしょうよ。まあ、ゼアト砦がどれだけ頑丈でも既に過去の遺物。我々の敵ではありませんな~。はっはっはっはっは!」


 随分と楽観的な考えであるが仕方のないことだ。帝国は大陸一の大国であり、人口も技術も力も大陸一だ。

 かつてはゼアト砦を落とす事は出来なかったが今は違う。

 昔の帝国ではない。今の帝国ならばゼアト砦など何の障害にもならないのだ。


 ただし、それは数年前までの話だ。レオルドがゼアトに来てからゼアトは成長している。人も技術も力も、それこそ帝国に負けないレベルでだ。


 油断していると足を掬われるのは、果たしてどちらなのだろうか。


「それよりもゼファー様はどうしている?」


「ゼファー様はお声を掛けたのですが、戦いが始まるまでは一人にして欲しいと仰っていましたのでここには呼んでいません」


「そうか。まあ、ゼファー様は今回単独行動だから来なくても問題はない。我々は自分達の仕事を全うするだけだ」


 その後、軍議は終わり開戦の幕が上がる。


 帝国軍は最初の予定通り砲撃部隊を進軍させゼアト砦を破壊しにかかる。

 森は切り開かれており、見晴らしの良い平地となったゼアト砦前を帝国軍の砲撃部隊が進んでいく。射程距離に入ったところで歩みを止めた時、ゼアト砦の固く閉ざされていた門が開いた。


「なんだ? 降伏でもするつもりか?」


 帝国軍の指揮官は怪訝な顔をしながらゼアト砦の開かれた門を見詰めている。すると、ゼアト砦の向こう側から歩兵部隊であろう騎士達が現れた。


「歩兵か? にしては数が少ないが……」


 戸惑う指揮官だが砦から出てきた騎士達は武装をしており、降伏の白旗などは立てていないので敵とみなした。


「和睦の使者でもなく、降伏するわけでもない。ならば、あの騎士達は敵であろうな。砲撃部隊! いつでも撃てるように準備をしておけ!」


『は!!!』


 帝国軍が開発した大砲を砲撃部隊は騎士達に照準を合わせる。


 そして、その騎士達はというとバルバロトを先頭に帝国軍に向かって突き進む。

 先頭に立っていたバルバロトが全員を鼓舞するかのように言葉を並べ始める。


「我らの剣は祖国の為に!」


『我らの剣は祖国の為に!』


「我らの盾は民の為に!」


『我らの盾は民の為に!』


「我らの誓いはゼアトにあり、我らの誉れは主の為に。我らの忠誠を今ここに!」


『我らゼアトを守らんが為にこの命、この魂、ここに捧げん!!!』


「全員、抜刀! 総員突撃いいいいいいっ!!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 総勢二百名の騎士が志を一つにして、敵を討ち滅ぼすという勢いで駆け出した。


 その姿を見た帝国軍の指揮官は鼻で笑う。


「ふっ。勇気と無謀を履き間違えた馬鹿共め。いや、現実を直視できなくなったか? まあ、どちらでも構わん。砲撃部隊、撃ち方用意!」


 砲撃部隊は指揮官の命令に従い大砲を撃つ準備を整える。後は発射命令を待つだけとなる。十分に引き付けて確実に当たる距離にまで騎士達が近付いたのを確認した指揮官は怒号のような命令を下した。


「撃てぇっ!!!」


 ドンッドンッと砲撃部隊が大砲を放つ。帝国が開発した大砲は魔力を装填して魔法弾を放つものとなっている。

 大砲から放たれるのは火属性の炸裂弾だ。着弾すれば爆発して周囲を吹き飛ばす。直撃すれば死は免れないだろう。


 指揮官の目論見どおり、炸裂弾はバルバロト達に直撃する。爆炎がバルバロト達を包み込み、帝国軍は自身の勝利を確信した。


「他愛もない。むざむざ死ににくるとは愚かな奴らだ」


 目を閉じながら軍帽を深く被り直して、進軍を再開しようと指揮官が目を開いた時、驚きの光景が広がっていた。


 なんと大量の炸裂弾を浴びたはずの騎士達が無傷でこちらへと迫ってきていたのだ。

 これには砲撃部隊の隊員も指揮官も驚きに満ちた声を上げた。


「な、なんだと!? そんな馬鹿な!!!」


 障壁を張っていたとしても炸裂弾の威力はそう簡単に防げるものではない。それも並の騎士ならば尚更だ。信じがたい光景に帝国軍には動揺が走る。


「うろたえるな! もう一度お見舞いしてやれ!」


 指揮官の指示に従い、焦っていた兵士達も落ち着きを取り戻して大砲に魔力を装填した。発射用意が出来たのを指揮官が確認して再度砲撃を行う。


「撃てぇっ!!!」


 二度目の砲弾の雨が騎士達を襲う。しかし、騎士達にはレオルドから貰った魔道具、盾魔法シールドがある。

 自身の魔力を一切消費することなく展開される盾は、帝国の砲撃を見事に防いだ。


 爆炎に包まれていた騎士達が全くの無傷で爆炎の中から飛び出してくる姿をもう一度見た帝国軍は恐怖に顔を歪ませる。


「し、指揮官!!!」


 指示を仰ごう副官が指揮官に声を掛けるが、指揮官は動揺しており固まっていた。


(なぜだ! なぜだ! なぜだ!!! 奴らは何をした!? 一体なにをしたんだ! まさか、我らが知らないだけで王国も兵器を開発していたのか!? だとすれば、不味い。この戦争、こちらが想定していた以上に被害が出ることに――)


「指揮官っ!!!」


「っ!? 砲撃部隊は後退せよ! 歩兵部隊前へ!」


 思考が混乱していた指揮官だが副官からの呼び声に正気を取り戻して砲撃部隊を下がらせた。

 砲撃部隊が下がると、代わりに歩兵部隊が前へ進み騎士達と対峙する。


 歩兵部隊は剣と帝国が開発した魔道銃というものが装備されている。魔道銃は文字通り魔法を弾丸として撃つ事のできる銃だ。

 弾薬の代わりに魔力を装填する仕組みになっている。しかも、属性を変えることも出来る代物だ。


「一斉射撃、撃てぇっ!!!」


 バババババッと無数の氷属性である弾丸が騎士達に襲い掛かる。先程は爆炎でどうやって防いだか見えなかったが、銃弾ならば見ることが出来る。


 歩兵部隊から放たれた弾丸は騎士達に直撃するかに思われたが、その前で弾かれてしまう。それを見た指揮官は口元を歪ませる。


(なるほど。なにか秘密があると思ったが奴ら障壁を展開していただけか! ならば、問題はない。このまま数で押し切れば魔力切れを起こすはず。そして無防備になったところを撃てばいいだけだ!)


 基本、騎士や兵士といった者達は魔力が少なく、身体強化などにしか魔力を回せない。だから、鎧などを纏って防御力を底上げする。

 対して魔法使いは魔力が多いので動きやすい服装が多い。何故ならば防御面は障壁を展開すればいいからだ。


 だから、多くの人間が騎士は基本障壁を張らないという認識だ。

 それゆえに指揮官も勘違いをしていた。ゼアトの騎士達は少ない魔力を障壁に回しているだけに過ぎないと。


 だからこそ、慢心が生まれる。指揮官はこのまま攻撃を続ければ勝てると判断していた。

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