第233話 ドヤ顔すんなよ!

 三人に合流したレオルドは難なく残りの二匹のソルジャーシアンを倒した。残りの二匹は多少の切り傷が出来ていた。恐らく諜報員の三人が武器で攻撃したのだろうと推測しながらレオルドは三人の元へと近づく。


「怪我はないか?」


「はい。問題ありません」


 そう答えるのは諜報員の一人、モニカである。女性ではあるがシルヴィアが選抜しただけあって実力は確かなものだ。


「そうか。なら、急いでここを離れる。先程の戦闘音を聞きつけたのか、いくつかの魔力反応がある。ここにいてはまた戦闘になってしまう。俺たちの任務は皇帝を取り押さえることだ。足止めを食らうわけにはいかない。行くぞ!」


 複数の魔力反応が近づいてくるのを確認したレオルドは一刻も早くこの場を離れようと指示を出して駆け出した。


 ローゼリンデの道案内に従い、レオルド達は帝都の中央にある城の地下水路にまで辿り着く。

 しかし、そこは行き止まりとなっており先に進むことは出来ない。すると、レオルドの横をすり抜けてローゼリンデが壁の前に立つ。


「殿下、本当にここで間違いないので?」


「ええ。ここで間違いないわ。本来なら入ることは出来ないのだけど、皇族の人間ならここの壁に手を当てると――」


 得意げな顔をしながらローゼリンデが行き止まりであった壁に手を当てると、パズルのように壁が消えていく。


「ね? 凄いでしょ?」


 まるで自分のお手柄というように自慢げな顔をしてレオルド達に振り向くローゼリンデ。

 その顔を見てレオルドは僅かに眉をピクリと上げた。


(……ジークに褒めてもらいたいのか? まるで自分の力みたいに見せてるけど、先祖代々からの力だろ。はあ~、まあいい。道は開けた。あとは城に潜入して皇帝押さええるだけだ)


 心の中で溜め息を吐いているレオルドだが、本当に辛いのはここから先だ。

 今の皇帝の傍には帝国最強の炎帝がついている。皇帝を取り押さえるためには、どうしても避けては通れぬ相手だ。


 如何にしてレオルドは炎帝を退けるのか。


 さて、レオルド達が無事に帝都へと辿り着いていたころ、ゼアトにて防衛戦が始まろうとしていた。


 ゼアト砦の物見台から確認できたのは大軍勢の帝国軍。その数はざっと見ても王国軍の数倍はいた。


 王国軍は騎士総勢三万。対する帝国軍は七万である。倍の差が開いているのは国力の差と言えよう。

 この事実を知れば王国軍の士気は一気に下がることは間違いない。


 物見台で帝国軍の姿を確認した騎士は王国軍総大将を務めるベイナードヘと急いで報告を届けた。


 その報告を受けたベイナードは天を仰ぎ見る。


(大軍勢の帝国軍か。恐らく我が王国軍と倍近い差はあるだろう。なにせ向こうの人口もそうだが軍事力も桁外れだ。本気で攻め落とす気なら当然と言えるか。果たして、どれだけ持ち堪えることが出来ようか)


 戦闘狂の一面を持つベイナードだが、それは個人の話であり、今は国の存亡が掛かっているので冷静に状況を整理していた。


 しばらく静かに思考を巡らせていたベイナードは部下に指示を出して指揮官を集めてゼアト砦の中にある会議室で軍議は行われる。


 ベイナードの元に集まったのは数十人の指揮官たち。その内の半数以上が実戦を経験したことのない無能な貴族たちである。

 唯一の救いがあるとすればレオルドが残してくれたバルバロトとジェックスの二名だ。この二人はレオルドが太鼓判を押しているのでベイナードも信頼していた。


「よくぞ集まってくれた。すでに知っているとは思うが、ついに帝国軍が国境を越えて我が国に攻め入ってきた。先程、帝国軍の姿をゼアト砦から目視したそうだ。数は不明であるが恐らく我が王国軍よりも多いと思われる。今回、我々は防衛に徹することになっているがゼアト砦がどれほど持つかは分からない。ゆえにこちらも打って出る。何か案のある者はいるか?」


 軍議に参加している指揮官たちはベイナードから目を逸らしてばかりいる。

 碌な奴はいないと嘆きそうになるベイナードだったが、バルバロトが手を挙げたのを見て曇った表情が明るくなる。


「ゼアト騎士部隊バルバロト隊長、発言を許可する。言ってみよ」


「は! ベイナード団長。陽動作戦を提案致します! まず我々、ゼアト騎士部隊が囮となり敵陣に特攻を仕掛けます。僅か二百名ではありますが、逆にその少なさに帝国軍は驚き混乱することでしょう。その混乱している所へ、ジェックス隊長率いる餓狼部隊が側面から攻撃を仕掛ける。いかがでしょうか?」


「ふむ。悪くはないが流石に厳しいだろう。まず帝国軍に辿り着く前に魔法で迎撃されてお終いだろう。それに奇襲を仕掛けるのはいいが、どこから仕掛けるつもりだ? その点はどう考えている?」


「その点についてはご心配なく。我々、ゼアト騎士部隊にはレオルド様から授かった秘密兵器がございます。餓狼部隊にも秘策がありますので」


 その発言に黙っていた貴族の指揮官が喰いついた。


「ほう? レオルド伯爵から授かった秘密兵器とな? それは今ここで披露することは可能か?」


「可能ではあります」


「ならば、見せてみよ」


「申し訳ありませんが見世物ではありませんので」


「貴様! 子爵家の長男である私の言うことが聞けんのか!」


 怒りを露わにしている指揮官にバルバロトが反論をしようとしたら、ドンッと机を叩く音が響き渡る。その音に子爵家の長男と自称する指揮官はビクリと震えた。


「今は味方同士で争う時ではない」


 ベイナードの視線を恐れてバルバロトに怒っていた指揮官は黙って下を向いた。そして、次にベイナードはバルバロトを見る。


「バルバロト隊長。その秘密兵器とやらは信じてもいいのだな?」


「はい!」


「わかった。ならば、お前の作戦を許可しよう」


「必ずや、帝国軍に一泡吹かせて見せましょう!」


 こうしてゼアトの未来を決める戦いが始まろうとしていた。

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