第231話 これ戦争なんだわ
レオルドは第七皇女ことローゼリンデを案内人として、夜に王都を出発した。
転移魔法陣のおかげで帝国と王国の国境付近に一瞬で移動して、そこからは徒歩で帝都を目指す事になる。
馬車や馬なども検討されたが、潜入するにあたって目立つような真似は出来ないので、徒歩で向かう事に決まったのだ。
最初レオルドはローゼリンデが文句を言うのではないかと危惧していたが、意外にも文句の一つも言われなかった。
どうして文句を言わなかったのかとレオルドは一度尋ねてみたところ――
「帝都から逃げ出す時に走ってきたの。それからも、馬や馬車は使わなかったわ。だって、街道は兵士が見張っているから捕まる可能性があったの。だから、人目のない場所を護衛と一緒に走ってきたのよ」
とのことだ。意外にも逞しい皇女様だった。
そういうわけでレオルドは遠慮なく、夜の森を走っている。時折、後方の様子を見ながらレオルドは走っていた。
誰一人遅れることもなくレオルドの後ろを走っている。もう少し速度を上げることも出来るが、レオルドは後ろの様子を確認して今の速度が限界と見た。
(これ以上は厳しいか。時間との戦いだからもう少し速度を上げたいが無理は禁物だな)
一旦休憩を挟んでからレオルドは帝国を目指して走り出す。ただ、休憩を挟んでも全快という訳ではない。
ローゼリンデが遅れはじめた。彼女は帝国から王国まで徒歩で来たというが、そこまで体力は多くはないのだろう。
「大丈夫か、ロゼ?」
「ええ。これくらいなら平気よ」
心配するジークフリートが彼女の愛称を呼んでから近寄る。ペースを落としてローゼリンデの側を走るジークフリートの目には明らかに無理をしている姿が映っていた。
その様子をチラッと見たレオルドは少しだけペースを落とす。案内役であるローゼリンデが動けなくなっては困るから、レオルドは極力彼女に合わせるようにした。
(最悪俺が担いで走るか? そっちの方が速いが、流石に断られるか)
このまま遅れるようならレオルドはローゼリンデを担いで走ろうかと考えたが、部下でもなければ好きでもない男性に触れられるのは嫌だろうと判断する。
しばらく走り続けるが、やはり無理をしていたのだろう。ローゼリンデの足がもつれて転びそうになった。
側にいたジークフリートが慌てて彼女の身体を支えたので転ぶことなく無事だった。
ジークフリートはこのまま走り続けるのは無理だと思い、レオルドに声を掛けようとする。が、その前にレオルドは足を止めた。
「しばらく休息を取る。しっかり休んでおけ」
その言葉にホッとするジークフリートはローゼリンデを休ませる。
「ありがとう、ジーク」
「しばらくは休憩だろうけど、無理そうなら早めに言ってくれ。俺からレオルドに伝えるから」
「ええ。そうするわ」
木を背もたれにして休憩をしているローゼリンデと側に座っているジークフリートの下へとレオルドは近付いた。
「皇女殿下。今、よろしいでしょうか?」
「構わないわ。なにかしら?」
「今の所、真っ直ぐ進んでいますが道は合っていますでしょうか?」
「ええ。問題ないわ。他には何かあるかしら?」
「もう少し速度を上げたいのですが、可能でしょうか?」
「ごめんなさい。それは難しいわ。多分、いいえ。私が遅れるから……」
「でしたら、私が殿下を背負いましょうか? 勿論、殿下が嫌だと仰るならば無理は致しません」
「それは流石にちょっとね……」
「でしたら、ジークフリートはいかがでしょうか?」
「え、あ、ああー。どうしようかしら?」
チラチラとローゼリンデはジークフリートに目を向けている。恐らくはジークフリートならば何の抵抗もないのだろうとレオルドは見抜いた。
正直、首を縦に振ってもらいたいところだった。そうすれば、ジークフリートがローゼリンデを担いで走るから、速度を上げることができる。
だから、レオルドとしてはそちらの方が有り難い。
「ロゼがいいのなら俺が背負って走るけど?」
「そ、そうね。じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
ジークフリートは気が付いていないが、ローゼリンデの機嫌が良くなった。声が弾んでおり、表情も緩んでいた。
(恋心を利用するようで悪いけど、時間が惜しいんだわ。さて、これで休憩を少なく出来るな)
これで余分な時間を使わなくて済むと安堵するレオルドは他の者に声を掛けて回った。
「それじゃあ、行くぞ。遅れるなよ」
休憩を終えてレオルドは再び帝国を目指して走り出す。先程、休憩中に速度を上げることを説明しておいたのでレオルドは前よりも速度を上げて走った。
先頭をレオルドが走り、後続にカレンとローゼリンデを背負ったジークフリート。そして、最後尾にシルヴィアに貸してもらった諜報員の三人。
(ふむ。ジークはローゼリンデを背負っても問題なしか。これなら、予定通りには帝国には着けるかな)
それからもレオルドは走り続けた。目指すは帝国。出来れば戦争が始まるまでには帝都へと侵入したいと思いながらレオルドは懸命に走った。
(出来るだけの事はした。後は部下達を信じよう)
ゲームの攻略知識を基にレオルドは戦争の備えをしていた。ゼアトが心配だが頼もしい部下達が守ってくれると信じてレオルドは走っていく。
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