第230話 口は災いの元っていうよね

 シルヴィアの計らいによりレオルドは帝都潜入作戦のメンバーを集め終えた。

 これで、後は第七皇女を案内役にして帝都へと向かう事ができる。


 帝都潜入作戦のメンバーはレオルドを筆頭に、ジークフリート、カレン、そしてシルヴィアの部下である三人。この六人に加えて第七皇女が今回の作戦メンバーである。


 いよいよ王国の運命を左右する作戦が始まろうかとした、その時エリナがレオルドへ近付いた。


「一ついいかしら?」


「なんだ?」


「どうして、殿下の部下は無条件で――ムグッ!?」


 どうしても納得できなかったエリナはレオルドに問い詰めようかとした時、複数の手がエリナの背後から伸びてきて、エリナの口を塞ぐと同時にレオルドから引き離した。


「ちょ、ちょっとエリナ! 時と場所考えて! 殿下の前でなんてこと言おうとしてるの!」


「そうだよ! 王家直属の部下にケチつけたら首を刎ねられるだけじゃ済まないって!」


 暴走したエリナを必死に他のヒロイン達が止めた。レオルドは話している内容が聞こえていたが、幸いシルヴィアには聞こえなかったようだ。

 そのおかげでエリナは無事だった。しかし、レオルドが告げ口をすればただではすまない。


(……恋は盲目って言うけど、さっきのは肝が冷えたな。シルヴィアに伝わってたら、今度こそエリナは処刑だったかもしれん。感謝しとけよ。友達に)


 呆れ果てるレオルドはため息を一つ零した。ため息を零したレオルドは下に向けていた顔をあげて、シルヴィアの方へ顔を向ける。視線の先にはシルヴィアが部下達となにかを話しているが、遠くて聞き取ることは出来ない。


「いいですか? 貴方達の役目はレオルド様を生かすこと。たとえ、どのような状況に陥ろうとも必ずレオルド様を優先なさい。その命、此度は私のためではなくレオルド様の為に使いなさい。ですが、最善を尽くしなさい。そして、貴方達も生きて帰ってきなさい」


『仰せのままに!!!』


 難しい命令だろう。これからレオルドが向かう先は帝都。そこには皇帝もいるが帝国最強と謳われる炎帝もいる。だから、生きて帰ってくる可能性は低いだろう。いくら、抜け道を知っている第七皇女が道案内をしたとしても、相手がよほどの間抜けではない限り、守りは固められているに違いない。


 これですべての準備は整った。帝都潜入作戦の始まりである。


 一方その頃、帝都の方でも一つ議題が上がっていた。それは、シルヴィアについてである。その理由は、シルヴィアの持つスキル神聖結界だ。シルヴィアのスキル神聖結界は、とても有名であり、その効果は誰もが知っていた。

 かつて、聖女が持っていたとされる最高峰の結界を張る事のできるスキル。それが神聖結界。しかし、弱点も多く、対策は容易に練ることが出来る。


「やはり、暗殺しかあるまい。王国を落とすには第四王女シルヴィアがどうしても邪魔になる。神聖結界、すべての魔を跳ね除ける最高の結界。故に魔物の侵入も魔法による破壊も叶わない。だが、人ならば問題はない。ただし、向こうもそれは承知のはず。守りは恐らく王国でも一番のものであろう。そう簡単には暗殺は出来ないだろうが……くっくっく。こちらには帝国が長年かき集めた古代の遺物がある。些か勿体無い気はするが、我が覇道の障害になるなら消すまでよ」


 アトムースが勿体無いといったのは古代の遺物ではなく、シルヴィアの事だ。シルヴィアが持つ神聖結界は手に入れることが出来れば、間違いなく役に立つはずだったから、アトムースはそれが惜しかった。


 その後、アトムースはシルヴィアへの刺客を呼び寄せて、宝物庫から暗殺に役立つ遺物を取り出して渡す。


「朗報を期待しているぞ」


『御意!』


 任務を受けた暗殺者はすぐに行動を開始する。目指す先は標的であるシルヴィアのいる王都。


 それから、間もなくしてアトムースの元に全ての準備が整ったという報告がくる。報告を聞いたアトムースは不敵に笑いながら、王国へ戦争を仕掛けるのであった。


 帝国軍が進軍を開始した頃、王国側では作戦会議が行われていた。

 既に帝国軍が動き出したという情報は得ており、対策を練っていた。


 ベイナードを筆頭に多くの指揮官がテーブルを囲んで会議をしている。敵は帝国。数の上では圧倒的に相手が上である。

 だから、今回はレオルド率いる帝都潜入部隊が皇帝を討ち取るまでの時間稼ぎが作戦となっている。

 幸い、ゼアトには堅牢な砦がある上にレオルドが戦争に備えていたおかげで守りは万全となっている。


 しかし、絶対ではない。レオルドが準備をしていたとは言っても、確実に守りきれるとは言えないのだ。


 ただ、一つだけ圧倒的に有利と言えるのは転移魔法があることだ。補給物資も戦力も足りなくなれば転移魔法陣ですぐさま補う事ができる。

 それに加えて、敗走することになっても転移魔法陣を使えば逃げることは可能だ。


「やはり、篭城しかないのでは?」


「うむ。我々はゼアトを死守しておけば問題ないでしょう」


「ベイナード団長。悩む事などありませんぞ。我々はゼアトを守ってさえいればいいのです。後はレオルド伯爵が皇帝を討ち取ってくれるでしょう」


 ベイナードは頭が痛くなる思いだった。指揮官とは言っても大半が戦争もしたことがない者ばかりで無能であったからだ。

 貴族というだけで後方から指示を出すだけの無能であった。今回の戦争に参加した理由は箔が付くからだ。


 国の為、民の為、戦った勇敢な貴族であると。


(卑しい豚共め。貴様らは後方から眺めているだけの無能だろうに。大方、ゼアトの防衛に貢献したという名目で陛下から褒美を貰おうとしているのだろう。くだらん。実にくだらん。ゼアトは確かに堅牢な砦だろうが、それは昔の話だ。成長を続けている帝国にどれだけ持つと思っている。まあ、分かっていないだろうな。目先の欲に目が眩んでいるようでは)


 味方がこの始末では勝てる戦も勝てない。ベイナードは、どうしたものかと頭を悩ませるのであった。

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