第229話 適材適所やん! 

 目の前で頭を垂れている女性陣にレオルドは告げる。


「まだ文句のある奴はいるか?」


『…………』


 返ってくるのは沈黙だけ。流石にジークフリートも先程の戦いを見ていたから、余計な口出しをする事はなかった。


 彼女達はカレンに完膚無きまでに叩きのめされて、自身の浅はかさを知った。


 レオルドが求めているのは、どれだけ高いものなのかを痛いほど理解できた彼女達は落ち込んでいる。落ち込んでいるのはジークフリートと一緒に行く事が出来ないからか、それとも違う理由なのか。それは誰にも分からない。


 レオルドは彼女達の表情を見て、ようやく分かってくれたかと一つ息を吐いた。


 しかし、問題は解決していない。残りの参加者を決めないといけないのだ。

 能力だけで見るなら彼女達は優秀であった。人格面に問題はあるが、優秀なのは間違いなかった。


 だが、一度レオルドは約束した手前、カレンに負けた彼女達を連れて行くことは出来ない。だから、探さなければならない。


 今回の潜入作戦についてこれるだけの人材を。


(さて、どうするか。ジークにロイスやフレッドを呼びに行かせるか? あの二人なら、まあ、彼女達みたいにはならんだろう。うん、そう願おう)


 レオルドはジークフリートに二人を呼びに行かせようかと考え、声を掛けようとした時、名前を呼ばれる。


「レオルド様」


 名前を呼ばれたレオルドは振り返る。そこには、久しぶりに見るシルヴィアの姿があった。


「シルヴィア殿下。どうしてこのような場所に?」


「私が来てはいけないのですか?」


「いえ、そういうわけではないのですが……」


 バツが悪そうにレオルドは後頭部をポリポリと掻いた。久しぶりに見るレオルドの困った反応にシルヴィアは楽しそうに笑う。


「ふふ。私がここに来た理由はレオルド様が困ってらっしゃるだろうと思って来たのですよ」


 そう言って笑うシルヴィアは指を鳴らした。すると、どこからともなく仮面をつけた怪しげな格好をした者達が現れた。

 一体どこから出てきたのかと驚くレオルドは目を見開いた。


「私の頼もしい部下ですわ。今回の帝都潜入作戦に役立てたらと思いまして。如何でしょうか、レオルド様」


 妖艶に微笑むシルヴィアの背後に控える者達を見て、さらに驚くレオルドは口を大きく開きそうになるがそこは堪える。


(えっ!? マジ!? 王家直属の諜報員を貸してくれんの!? ピッタリの人材じゃん!)


 内心大喜びではあるが、王家直属の諜報員を貸してもらうのは躊躇ためらわれる。

 彼ら彼女らは、王家を支える陰の人間。そう簡単に表舞台に引っ張ってもいいのかと。

 それに加えて第四王女であるシルヴィアの部下と言うではないか。勝手に貸し出しても問題ないのかとレオルドは考える。


「なにやら難しく考えているようですが、イザベルも元は私の部下だったのですよ?」


 レオルドが難しい顔をしているのを見たシルヴィアは、特に問題がないという事を教えた。


(あ、そっかー。今更だったかー)


 ようやく気がついたレオルドはシルヴィアの前に跪き、頭を垂れる。


「殿下のご厚意に感謝いたします。必ずや、皇帝を討ち取ってみせましょう」


「レオルド様。面を上げてください」


 言われるがままにレオルドは顔を上げる。


「レオルド様。防音結界を張れますか?」


「張れますが、今この場ででしょうか?」


「はい」


「承知しました」


 レオルドは不思議に思いながらも、シルヴィアに言われた通り防音結界を張った。これで、レオルドとシルヴィア以外には二人の会話が聞こえる事はない。


「レオルド様。本当のことを申し上げるなら、私も一緒に行きたかったです」


「え……?」


「私のスキルは神聖結界。魔をすべて拒む聖なる守り。ですから、どのような魔法からもレオルド様をお守りする事が出来たでしょう。たとえ、炎帝が相手であろうとも。私はこの国を守る義務があります。私が国を離れれば、士気は間違いなく下がる事でしょう」


 確かにシルヴィアの言うとおりだ。シルヴィアが持つ神聖結界は魔法、魔物を拒む聖なる守り。

 たとえ、どれだけの魔法使いがシルヴィアに魔法を放とうとも傷一つ負わせることは出来ない。

 それは世界最強のシャルロットでさえ例外ではないだろう。


 ただ、神聖結界はあくまで魔に関わるものだけを拒む結界。ゆえに、物理的な攻撃などは防げない。だから、シルヴィアには多くの護衛が付いている。


 しかし、魔法を防ぐという点では頂点に立っていると言ってもいい。そんな結界に守られている王都は間違いなく安全だ。

 だからこそ、王都に住んでいる人々は安心できるのだ。それがなくなった時、人はどのように思うか。それは、容易に想像出来ることだろう。


(まあ、確かに今まであったものがなくなったら混乱するだろうな)


「ですから、私は一緒に行く事が出来ません。でも、手助けは出来ます。だから、レオルド様。遠慮することなく、私の部下をお使いください」


「殿下のお気遣い、心より感謝を申し上げます!」


(その……本当は一国の王女である私が個人に対してここまでするのは、色々と勘繰られてしまうのでしょうが……私はレオルド様を失いたくないのです! なんて言えるはずがありません! お母様。私は最後の最後で詰めが甘い女でした!)


 両頬に手を当ててモジモジと身体を揺らしているシルヴィアの顔は真っ赤に染まっている。残念な事にレオルドは再び頭を下げてしまったので、可愛らしい姿を見せているシルヴィアを拝むことは出来なかった。


 そう、今回シルヴィアはレオルドが死地に向かうと聞いていても立ってもいられなかったのだ。なにせ、下手をすればレオルドは死んでしまい、二度と会えなくなる。


 それは嫌だ。なんとしてでもレオルドには死んで欲しくないとシルヴィアは行動に出た。

 国王にレオルドと一緒に潜入作戦へ参加させて欲しいと懇願した。

 しかし、一国の王女である上に守りの要となっているシルヴィアを行かせることは出来ないと反対されてしまった。


 それならば、自身の部下を貸し出すくらいは許可して欲しいと国王から承諾の返事をもぎ取ったのだ。


 そして、その結果が今である。


 まあ、最後の最後にシルヴィアもへたれてしまい、思いを告げることは出来なかったが、結果は上々である。

 レオルドが死ぬかもしれない可能性を大きく減らしたのだから。

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