第228話 お前等とは格が違う

 話は纏まり、カレン対ヒロインズとなった。騎士達がいつも訓練をしている訓練場を借りて行われる。


 中央に審判としてレオルドが立ち、その左右にカレンとヒロイン達が睨みあっていた。

 レオルドが出した条件は、制限時間内にカレンを戦闘不能にすること。しかも、全員で挑めという馬鹿にした内容でもある。


 方法は問わず、どんな手を使ってもいいからカレンを倒せば、彼女達を連れて行くとレオルドは約束した。


「レオルド。本当に手加減もせず、全員でその子と戦ってもいいのね?」


 最終確認をするエリナに対してレオルドは頷く。


「ああ。構わない。制限時間五分でカレンを倒す事が出来たなら、俺も考えを改めよう」


「そう」


 確認の取れたエリナはレオルドから視線を移してカレンに目を向ける。


「聞いていたかしら? 怪我をしない内に棄権してもいいのよ? レオルドに選ばれるくらいだから、貴方は強いのでしょうけど、ここにいる全員と戦えば無傷じゃ済まないわ」


「お気遣いありがとうございます。ですが、問題ありませんので、始めましょう」


「ッ……大怪我をしても知らないからね」


 忠告はした。しかし、カレンが聞き入れることはなかった。だから、エリナは本気でカレンを倒す事を決める。


 一方、中央に立って二人の会話を聞いていたレオルドは心の中でエリナに合掌する。


(大怪我するのはお前らの方なんだよな~。カレンはまだ不安そうにしているけど、戦いが始まったら理解するだろう。いつも戦ってる相手に比べたら、楽勝だってな)


 準備は整い、互いにいつでも始めても構わないという顔をしている。レオルドは両者の顔を見て、開始の合図を出した。


 レオルドが合図を出したと同時にカレンが動いた。地を這うように低い姿勢で、相手を撹乱させるように左右にステップを刻みながら、カレンはエリナ達へと迫る。

 エリナたちは、カレンの動きに翻弄されて魔法を放つことが出来ない。カレンの動きがあまりにも速く照準が合わないのだ。


 カレンは少々困っていた。少なからず魔法がいくつか飛んでくると思っていたのに、一発も飛んでこなかったことに。


 ここでカレンが思い出したのはギルバートと鍛錬をしていた時のことだ。


 ゼアトでカレンはギルバートを師と仰ぎ、日々鍛錬に明け暮れていた。その鍛錬の中には複数の敵に囲まれてしまった時のことを想定したものもあった。


「これならば、次の段階へ進んでも良さそうですね」


「次の段階とは。どういうことですか。師匠?」


「今は一対一の鍛錬のみですが、時には暗殺に失敗して複数の敵に囲まれることもあります。ですので、これから複数の敵に囲まれてしまった場合の対処をお教えします」


「なるほど! わかりました。師匠! よろしくおねがいします!」


 礼儀正しくお辞儀をするカレンにギルバートは微笑みを浮かべる。


「では、協力してくれる方達を探しましょうか」


「はい!」


 このときにカレンは多くのことを学んだ。その際にギルバートから教わったのは付与術士エンチャンターが集団戦において最も厄介だということを。

 実際にカレンはその身で付与術士の恐ろしさを味わっている。ギルバートがシャルロットに頼んでカレンに付与魔法をかけたのだ。睡眠、麻痺、毒、暗闇、鈍足、恐怖、混乱、様々な付与魔法でカレンは苦しめられた。

 そのおかげで、付与魔法がどれだけ恐ろしく厄介なのかを学ぶことが出来た。


 だから、カレンは目の前にいる彼女たちの中に付与術士がいるかどうかを確認したかった。そうすれば、最初に誰を狙うかを決めることが出来た。だが、彼女たちは開始の合図があったのに動く素振りすら見せなかったから、カレンは非常に困っていたのだ。


 誰から狙えばいいのかと。


(もしかして、そういう作戦? 私が何をしようとしているのかを知って、敢えて動かなかった? だったら、まずは一番油断している人を狙うだけ!)


 カレンはスキルを発動させて、誰もいない所に風魔法を放つ。風魔法が当たった地面が吹き飛ぶ。すると、彼女たちはカレンから目を逸らして、吹き飛んだ地面に目を向けてしまう。

 それこそがカレンの狙いであった。カレンは無音サイレントを使い、視線が逸れた隙を狙って彼女たちの背後に回り込む。


(まずは一人!!!)


 彼女たちが見失ったカレンを探している所に、カレンはギルバート直伝の正拳突きを放つ。


「かっ……はっ……!?」


 一人目を倒したカレンはすぐに動き、近くにいる別の敵へと拳を叩き込んだ。


(これで二人!)


「あっ……ぐぅ……!」


 すぐさまカレンは身を屈めて、自身の姿を眩ませるように動き、混乱している彼女たちを一人ずつ戦闘不能へと追い込んでいく。

 無音で敵を仕留め、混乱している敵の懐に無音で忍び込む、一撃で戦闘不能に追い込んでいく姿は死神と言っていいかもしれない。


 そんな光景を見ているレオルドは鼻水が垂れそうであった。


「ギルめ。カレンにどれだけ仕込んだんだ……」


 伝説の暗殺者が育て上げたカレンは見事に無傷で彼女たちを沈めたのであった。

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