第224話 かかってこいよ! 運命!

 レオルドが口にした名前を聞いて会議室にいた貴族はざわざわと騒がしくなる。

 一体、なぜ新米騎士であるジークフリートを同行させるのだろうかと、全員が疑問に感じていた。


「レオルドよ。何故ジークフリートなのだ? お前の部下ならば分かるが、ただの新米騎士を選んだ理由を教えてくるか?」


「はい。私がジークフリートを選んだ理由は、闘技大会で彼と戦った時に彼の力を知ったからです。彼の力はまだまだ未熟でしょうが、磨けば光るものでした。それに、元々ジークフリートは闘技大会で上位の戦績を残していますので悪くない選択だと思うのですが」


「それはそうだが、お前はいいのか?」


「過去の事なら既にお互い水に流しています。ですので、問題はありません」


「そうか。お前がいいというのならば、後はお前に任せよう」


「は! お任せください!」


 それから、しばらく会議は続き、レオルドの代わりにベイナードがゼアトの指揮を執る事になり、会議は終了した。


 会議室からレオルドが出て行くと後ろからクリスティーナが追いかけてくる。背後から声を掛けられたレオルドは振り返った。


「レオルド様っ……!」


「ん? 何の御用でしょうか、殿下」


「先程はありがとうございます」


「先程? ああ、ジークフリートのことですか」


「はい。その、もしかしてレオルド様は私の考えている事を見抜いてのことでジークフリート様を指名してくださったのでしょうか?」


 そう言われてからレオルドは、クリスティーナが考えていた事を推測した。


(……あー、もしかしてだけどクリスはジークに功績を積ませたかったのかな。それで自分と格の差を埋めて結婚まで漕ぎ着ける予定だったのか。確かに二人が結ばれるにはそれしかないもんな~。ゲームならジークがどんどん活躍して功績を挙げるから、結婚まで簡単にいけるけど、現実だと難しい話だ。王族と結婚なんてそう簡単には出来ない。まあ、俺は転移魔法を復活させた件で強引に迫られたけど……)


 少しの間、レオルドが沈黙して考え込んでいると、目の前にいたクリスティーナはどうしようかと迷っていた。声を掛けるべきか、レオルドが喋るまで待つべきかと。


 しかし、ここは王城の廊下であり人目につくので、あまり長い時間二人でいるのは良くないと思ったクリスティーナはレオルドに声を掛ける事にした。


「あの、レオルド様?」


「ん? あっ、申し訳ございません、殿下。少々考え事をしていました」


「いえ、それは構いませんが、その先程のことについてはどう考えておられたのでしょうか?」


「ジークフリートのことですね。それは単純に戦力の底上げの為です。ジークフリートとは二度も戦っている身ですので実力は知っています。だから、彼を選んだのです。ただ、それだけですよ。まあ、殿下がわざわざ会議の場に乗り込んできて、ジークフリートを推薦した理由は察しが付きますが」


「はう……っ」


(まあ、ジークを指名したのは本心なんですけどね。本当ならベイナード団長やリヒトーさんの方がいいけど、無理だから戦力で考えるならジークが妥当なんだよね)


 赤面するクリスティーナだが、レオルドの言うとおり、会議の場であれだけジークフリートを推せば、余程の馬鹿でもない限りは容易に想像出来るだろう。

 クリスティーナがジークフリートにお熱である事が。


 第三王女ともあろうお方が、それでいいのかと思いたくなるが、国王が何も言わないのでいいのだろう。



「では、私はこれで失礼します」


「あ、はい。わざわざお答えいただきありがとうございました」


「いえいえ。これくらいなんでもないですよ。それでは」


 クリスティーナから感謝の言葉を受けたレオルドは、自身の領地であるゼアトに戻る前に父親の下へと向かうことにした。


 王城に備えられている転移魔法陣を使って実家である公爵家を訪ねるレオルドは、今回の件について報告する。


 レオルドは家族に今回自分が皇帝襲撃の任を受けた事を話した。ベルーガは会議に参加していたので知っていたから驚く事はなかったが、他の三人はとても驚いていた。


「レオルド! 本当に大丈夫なの? 帝国守護神の炎帝と戦うかもしれないのでしょ?」


 オリビアはレオルドの話を聞いて、いてもたってもいられない。レオルドの両肩を掴み前後に激しく揺り動かしながら詰問され、レオルドは頭がガクガクと動いて視界が揺れる。


「は、母上。お、落ち着いて」


「落ち着いていられるはずがないでしょう!? これから貴方が向かう先は戦場などより、よっぽど危険な場所なのですよ! いくら、貴方が強いといっても相手は帝国最強の炎帝。死地に向かう息子を心配しない親がどこにいると思うの!」


「それは十分に理解しています。しかし、私以外となるとギルバートくらいしか候補がいませんでした。ギルバートは既に引退した身です。私の我が侭を聞いてくれただけでも有り難いことだったのに、また無茶をさせるわけにはいきません」


「それなら、他にも何か方法があるはずよ。今からでも遅くないわ。陛下に今回の事は――」


「母上。私は今まで多くの方に迷惑をかけてきました。そんな私が国の未来を任されたのです。だからどうか見届けてはくれないでしょうか?」


「っ……! もう貴方は十分に贖罪したわ。それでいいじゃないの……!」


「そうよ! レオ兄様は罪を償ってきたわ。それこそ、過去を帳消しに出来るくらいには!  だから、レオ兄様……いかないで」


「兄さん。僕も母様とレイラの言うとおりだと思います。兄さんは十分に国に貢献してきました。これ以上自分を責めるのは辞めてください!」


 母親に、そしてかつては憎まれていた弟と妹に論されてレオルドは覚悟が揺らぐ。

 三人の言うとおり、辞退してもいいはずだ。だが、そんな事をすればこの先に何が待っているか、レオルドにはわかっていた。


 愛する家族、信頼できる部下達。


 彼ら彼女らが帝国に蹂躙され殺されてしまう。


 そんな結末を望んではいない。ゲームだったらジークフリートが解決してくれるが、現実はそうではない。

 レオルドが変えた。変えてしまった。だから、レオルドは変えてしまったのなら、そのまま変え続けるだけだと決意する。


(死にたくないから、頑張った。今度は失いたくないから頑張る。ああ。やってやろう。ただのかませ犬だと思うな、運命よ。逃れられない運命なら抗ってやるさ!)

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