第223話 すでに未来は変わってる
二面作戦が決行されることとなったが、ここで一つ問題が発生する。
誰が第七皇女に付いて皇帝の下まで行くかだ。
少数精鋭だということは決まっているが、誰がその危険な任務を果たすかが問題になっていた。
最初の候補に挙げられたのは、近衛騎士である。近衛騎士は王族を守る騎士であり、基本は王城で働いており、その実力は王国でも上位に入る。
しかし、近衛騎士は王族の守りが役目であるので、今回のような任務は不向きであると判断されて除外される。
そこで次に挙げられたのは諜報活動を行っている部隊だったが、戦闘に陥れば苦戦を強いられるという事で却下。
つまり、求められる人材は隠密行動に長けて強さを兼ね備えた人物。
(ギルバートしかいねえ……)
そのような人物はギルバートしか思い浮かばなかったレオルドは苦笑いを浮かべていた。
レオルドが想像している時、同じようにベルーガも同じことを考えていたらしい。二人はお互いに顔を見合わせて、ふっと鼻で笑い合った。
それからも候補者は挙げられた。だが、やはり第七皇女から聞かされた帝国守護神が厄介だ。
第七皇女から聞かされた話によると、禍津風のゼファーは前線に、永遠のセツナは幽閉されており、炎帝のグレンは隷属の首輪という古代の遺物により従順な
だから、皇帝を取り押さえるなら炎帝のグレンを倒さなければならない。
はっきり言って、炎帝に勝てそうな人物はリヒトーかベイナードの二人だけである。
なので、二人のどちらかが作戦に参加しないといけないのだが、どちらの人物も立場上難しい。
なら、誰が適任ということなのだが、ここでクリスティーナが口を挟む。
「あの、ジークフリート様はどうでしょうか?」
その名前を聞いて会議室にいた多くの貴族は誰の事だと首を傾げるが、すぐにその名前を思い出した。
かつて学生時代にレオルドと決闘騒ぎを起こし、闘技大会でそこそこの戦績を収めた新米騎士だということを。
ジークフリートの名前を思い出した貴族がレオルドに目を向けるが、そのレオルドはというと混乱に陥っていた。
(どういうことだ? 俺が知っている内容と違う? なんでセツナは捕まってるんだ?)
レオルドは第七皇女から聞いた情報が自分の持っているゲーム知識と違う事に混乱していた。
歴史の流れはほとんど同じだから、ゲームと一緒だと勘違いしている。
普通に考えればわかることだが、反抗的な意思を持つ者を配下に加えようなど正気ではない。
グレンのように特別な道具を使って本人の意思とは関係なく従える事が出来るなら話は別だが。
(……ゲームだったら、帝国守護神との三連戦なのに、この世界だとグレンだけか。まあ、ゲームでも屈指の強さを誇っていたから、相当強いんだろうな~)
呑気な事を考えているがレオルドは、自分の状況が分かっていない。
レオルドはゼアトの防衛に徹するだけだと思っているが、他の者は違う。
なにせ、レオルドは闘技大会で力を示した。王国屈指の実力を持つベイナードに勝利し、リヒトー相手に善戦したという戦績がある。
つまり、なにが言いたいかと言うと――
「それならばレオルド伯爵がよろしいのでは?」
(……ひょっ?)
――ジークフリートの名前が挙がるならレオルドもありだという事だ。
唐突にレオルドの名前が挙げられる。それは、二面作戦である皇帝襲撃作戦に誰が適任かという話だ。
その最終的な候補者にレオルドの名前が挙げられたのだ。
「ふむ。そうですな。レオルド伯爵は闘技大会でベイナード団長を下し、リヒトー殿に迫る実力を見せておりましたからな。申し分ないでしょう」
「それに転移魔法を復活させたほどの知恵を持ち合わせていますので、臨機応変な対応も可能でしょう」
褒めちぎる貴族にレオルドは悪い気はしなかったが、非常に焦っていた。このままでは自分がジークフリートの代わりに皇帝襲撃作戦を遂行しなければならない。
それだけは避けたいところだとレオルドが発言をしようとするが、それよりも先にクリスティーナが必死にジークフリートの事をアピールする。
「確かにレオルド様も素晴らしいお方なのですが、そもそもレオルド様はゼアトを治める領主です。ですから、今回の作戦に参加なさるよりも自身の領地を守るのが務めかと思います」
(そうだ、そうだ! もっと言ってやれ!)
まさかの援護射撃にレオルドは嬉しくなり心の中でクリスティーナを応援する。
「それならば、ゼアトの防衛は別の者に指揮を執らせればいい。それにレオルドは確かに強いが軍を率いて指揮を執ったこともない。それよりも単独で動いた方がレオルドもやり易いだろう」
「それはそうかもしれませんが……」
「何の功績も持たぬ新米騎士よりは、妥当だと思うのだが?」
「……」
国王からのダメ出しによりクリスティーナは完全に沈黙してしまう。
これでクリスティーナの思惑は潰れてしまった。今回の作戦でジークフリートに功績を挙げさせ、自身に相応しい婿とする予定であった。
今のジークフリートはゲームと違い、何の功績も持っていない新米騎士。だから、第三王女であるクリスティーナとは結婚など出来るはずもない。
しかし、レオルドのように圧倒的な功績を挙げる事が出来れば話は変わってくる。
それこそ、今回の作戦で見事皇帝を取り押さえて、戦争を終結させる事が出来たならば、その功績は王国中に認められるものになる。
そうなれば、王国を救った英雄として王女との結婚も可能になるかもしれない。
そのような思惑だったが、やはり新米騎士であるジークフリートには荷が重いと判断されてしまった。
このままではダメだと思うのだが、国王を説得させるほどの材料がない。もう諦めるしかないと、クリスティーナが俯いた時、思いも寄らぬことが起こる。
「陛下。皇帝襲撃の任、私が引き受けましょう」
レオルドは流れ的に自分が引き受けなければらないと判断して立ち上がった。
会議室にいた貴族はレオルドの勇気に拍手を送り、国王は最後の確認をとる。
「引き受けてくれるのか?」
「はい。ご期待に応えれるかはわかりませんが、この身、この命、国の為に捧げましょう」
「感謝する、レオルド。お前のその気持ち、確かに受け取った」
「それで陛下。お願いがございます」
「なんだ。申してみよ」
「同行する者は私が選定をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ。それくらいなら構わないが、誰を連れて行くつもりだ?」
「ジークフリート・ゼクシア。彼を同行させたいと思います」
レオルドの口から飛び出した名前に会議室にいた全員が驚いた。
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