第222話 アホなんだよぅ!
会議は続くが、悲しいことに時が過ぎるだけで無意味なものになっている。
(……ゲームだったら、ここら辺で王女が乗り込んできて二面作戦を唱えるんだよな。戦力差は歴然としているから、まともに戦っても勝ち目がない。だから、防衛に徹して少数精鋭で皇帝を叩くっていう作戦。普通なら無理なんだろうけど、アトムースから逃げ出してきたヒロインの一人である第七皇女の協力で可能性を見出す。そんで、
そう、本来ならレオルドの部下になったジェックスこと餓狼の牙をジークフリートが捕まえることに成功して功績を上げるはずだった。ゲームだったら、そのままジークフリートは活躍を重ねて、陛下や公爵家から認められるのだが、レオルドがその未来を潰した。
そのおかげで、ジークフリートはただの新米騎士のままである。
仮にここでゲームのように王女が会議に参加してきて二面作戦を伝えたとしても、ジークフリートを起用することは無いだろう。なにせ、何の功績も持たない新米騎士だ。
(どうする? 俺が二面作戦を提唱するか? ああーっ! くそ……ゲームだったら……ああ、もう! ゲームじゃない! ここは現実なんだ! 何回同じこと考えればいいんだよ! アホか、俺は!)
ゲームだったらと頭の中がこんがらがっているレオルドだったが、決心がついたように立ち上がる。
「陛下。帝国と我が国は戦力の差が歴然としています。なので。正面からぶつかり合っても勝てないでしょう。ですから、二面作戦はいかがでしょうか? まず、ゼアトで防衛線を敷いて帝国軍を食い止めます。その間に、少数精鋭で帝都へ侵入し、皇帝を抑えるというのはどうでしょうか?」
「ふむ。確かにいい作戦ではあるが、どうやって皇帝の前まで行くつもりだ? 帝都は守りを固めているはずだ。そう易々と皇帝の元へは辿り着けぬだろう」
(ですよね〜! わかってました! この作戦ってぶっちゃけ皇女がいなきゃ成立しないし!)
提案を出してみたものの、現実的な問題を指摘されてしまいレオルドは座りなおす。
それから、しばらくの時間が流れたがレオルドが提案した二面作戦以外は聖教国に協力を求めるというものだけであった。
それに聖教国と協力した所で戦力差は大して埋まらない。それほどまでに帝国の軍事力は凄まじい。
それとレオルドはまだ知らないが、聖教国はシルヴィアの身柄を要求している。その理由はシルヴィアのスキルにある。
シルヴィアのスキル、神聖結界は名前の通り聖なるものとされている。
だから、聖教国はシルヴィアを聖女として自国に迎え入れたいと王国に意見してきたのだ。
だから、聖教国に協力を求めようものなら、シルヴィアを差し出すしかないだろう。
(シルヴィアを差し出せば、聖教国は味方をしてくれるだろう。しかし、親としては……)
国の事を考えればシルヴィアを聖教国に引き渡し、戦力を確保すればいい。
だが、それではシルヴィアがどうなるかはわからない。
シルヴィアはレオルドのことを気に入っている。いや、愛している。
二人を引き裂くような真似は親としてはしたくない。だが、先程も言ったように王として正しい選択をするならば、娘を差し出し聖教国から協力を取り付けるべきだ。
王として親として悩む国王はレオルドをチラリと見る。
その眼差しには期待が込められていた。レオルドならなんとかしてくれるのではないだろうかと。
しかし、残念ながらレオルドは戦争に関しては素人同然だ。だから、ゲームで得た知識や展開からしか予想が出来ない。打開策を考える事は出来ないだろう。
すると、その時、会議室の扉が勢い良く開かれる。バンッという音が会議室に鳴り渡り、中にいた全員が扉のほうへと顔を向ける。
そこにいたのは、第三王女であるクリスティーナであった。
「クリス! 一体何事だ!」
「陛下。大事な会議中に申し訳ありませんが、私の話をどうか聞いて頂けないでしょうか?」
「この場でないとダメな理由でもあるのか?」
「此度の帝国との戦争に関わる事なのです」
「なに? それはどういうことだ?」
困っていた所にクリスティーナが今回の件に関する重要な情報を提供してくれた。
実は先代皇帝は生きており、今の皇帝は謀反を起こして無理矢理即位したというもの。
だから、今回の戦争は皇帝さえどうにかできれば解決するかもしれないということだった。
そして、皇帝から逃げてきた第七皇女の力を借りれば、皇族だけが知っている秘密の通路を使って皇帝の下まで辿り着けるという。
「ですから、二面作戦などはどうでしょうか?」
「それに関してはこちらでも案が出ていた。ただ、どのようにして皇帝の下まで辿り着くかと考えていたのだが、第七皇女が協力してくれるなら、可能性はあるだろう」
既に二面作戦を考えていたという事にクリスティーナは驚いたが、これだけ多くの貴族が集まれば考え付くのも当然かと判断した。
国王とクリスティーナの話を聞いて希望が沸いてきたが、少々問題がある。
「陛下。敵国である皇女の言う事を信じるのですか!?」
「宰相よ。我々には他に手立てがない。ならば、一縷の望みにすがるしかないだろう?」
「しかし、罠だったらどうするおつもりですか?」
「私の友が嘘をつくなどあり得ません!」
宰相の言葉にクリスティーナが激怒する。しかし、宰相の言い分も正しい。
第七皇女は帝国の人間である為、嘘を言っている可能性もある。
ただ、わざわざ王国に来てまで嘘をつく必要はない。それにクリスティーナからの話では逃げてきたというではないか。
ならば、嘘をつく意味など全くないのだ。
三人のやり取りを見ているだけだったレオルドは、思い切ってクリスティーナの援護に出ることにした。
「宰相殿。私はクリスティーナ殿下の意見に賛成です。第七皇女を信じてみてはいかがでしょうか?」
「なっ! 王国の未来を左右するかもしれない問題を博打にかけるようなものだぞ! レオルド。一体なにを考えている!」
「先程も陛下が仰っていたように我々に残された手段は戦う事のみです。しかも、勝ち目のない戦です。しかし、第七皇女という一縷の望みがここにある。ならば、縋るしかないでしょう」
「それは分かっているが、そう簡単には信じられないだろう!」
「では、どうするのです! ここで座して死を待ちますか! それとも、一縷の望みにかけて打って出ますか! 今こそ決断の時です、宰相殿!!!」
「ぐ……むぅ……」
レオルドの圧に宰相は押し黙る。レオルドの言っていることは理解できるが納得のできるものではない。
王国の未来を敵国の皇女に任せるなど出来ようはずがない。
しかし、レオルドの言うとおり、ここで何もしなれば死を待つだけとなってしまう。圧倒的な軍事力の差があるから戦っても勝ち目はないのだから。
「くぅ……わかった。私も殿下の案を信じよう」
宰相が折れて、二面作戦が決行される事になった。
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