第221話 そっちがその気ならこっちだってやってやるよ

 会議室にいる全員から視線を浴びるレオルドはシャルロットが自分を助けることはないことを伝える。


「期待しているところ申し訳ありませんが、シャルロットは今回の件について関与することはありません。ですから、彼女を戦力と数えるのは無意味でしょう」


 レオルドの言葉を聞いて、やはりかと落胆する者もいれば、納得できないとレオルドに問い詰める者もいる。


「レオルド伯爵が頼み込んでも協力は取り付ける事ができないのですかな?」


「はい。懇意にしておりますが、彼女はあくまで知的好奇心を満たすために私の側にいるだけですので」


「しかし、聞いた話によるとお二人は大層仲がよろしいとのことですが?」


「そうですね。彼女は転移魔法を復活させた私に興味を持っているので、そう見えるだけでしょう」


「でしたら、なぜいつまでもレオルド伯爵の側におられるので?」


「さあ。それこそ、彼女にお聞きください」


「では、最後に一つ。シャルロットは今回の件について知っておられるので?」


「ええ。彼女も存じています。その上で私には協力しないとのことでした」


「そう……ですか……」


 しつこく食い下がっていた貴族はレオルドの態度、言動から真実であると見抜き、落胆を隠せなかった。シャルロットは王国にとっては最後の希望と言ってもよかった。なにせ、レオルドと良好な関係であり、王国に対しても友好な関係だと思っていた。

 しかし、残念ながら現実は甘くはなかった。シャルロットは話に聞いていたとおり、国家が絡む問題には関わらないという話は本当だったのだ。

 これで、王国としては取れる手段が一つ減った。しかも、一番あてにしていたといってもいい。


 やっと質疑応答が終わったレオルドは一息つく。だが、すぐに別の貴族がレオルドへと質問を投げかけた。


「レオルド伯爵。少々お尋ねしたいのですが、もしレオルド伯爵の身に危険が迫ったらシャルロットは動くのですかな?」


「それはわかりませんが状況によるかと思います。個人的なことであれば彼女は助けてくれるでしょうが、今回のように戦争となれば彼女が助けてくれるかは定かではありません」


「それは、つまり彼女の気分、いや、気持ち次第ではレオルド伯爵は助かるということですか?」


「その可能性があるかないかで言えば、あると答えましょう」


「ほう! だから、レオルド伯爵はこのような状況だというのに冷静なわけなのですね!」


 突然の事にレオルドは一瞬ポカンとした表情を見せる。その顔を見た貴族がニヤリと笑い、さらにレオルドを追い込もうと畳み掛ける。


「何ということだ! 今、王国は未曾有の危機に陥っているというのにレオルド伯爵は自分は死なないからと言って、知らん顔ですか! 陛下! レオルド伯爵はどうやら此度の件について真面目に話し合うこともしない薄情者です! このような薄情者がいては戦争をする前に負けてしまうでしょう! どうか、この薄情者に相応しい罰を!」


(はあ〜……俺を貶めようってことか。じゃあ、そっちがその気ならこっちも容赦はせん)


 下を向き、黙り込むレオルドを見て勝ったと確信する貴族は内心で大笑いをしていた。しかし、次の瞬間、レオルドが懐からある物を取り出す。


「このような場で出すつもりはありませんでしたが、そちらがその気ならこちらも答えましょう」


 そう言ってレオルドが取り出したのは、シャルロットから借りた魔法の袋。袋の中に手を突っ込み、いくつかの書類を取り出す。丸まった書類をレオルドが広げて、全員に見えるように突き出す。


「それは……んんっ!?」


 レオルドを貶めようとしていた貴族はレオルドが広げた紙を見て目を限界まで見開いた。


「見覚えがあるようですね。この紙がなんなのかを」


 目を見開き冷や汗をかいている貴族はレオルドから、その紙を奪い取ろうとするが、そうはさせないとレオルドが紙を遠ざける。

 その光景を見ていた国王がレオルドが持っている紙が気になり、問いかけた。


「レオルド。お前が持っているその紙はなんだ?」


「は! この紙は契約書でございます! 契約内容は、今回の戦争で王国を裏切れば帝国貴族として迎え入れるとの内容です」


「なんだとっ!?」


 驚きの声を上げる国王に加えて一部の貴族も驚いている。まさか、すでに裏切り者がいようとは思いもしなかっただろう。

 しかし、それ以上に気になるのはレオルドがどうしてそのような情報を持っていたかだ。それに、レオルドが手に持っている契約書は、恐らく厳重に保管されていたに違いない。

 一体どうやって契約書を手に入れたというのか。


(ふっ。餓狼の牙を舐めるなよ。アイツらの情報網は凄いんだからな! お前らが、帝国のスパイと密会していたことは知っているんだよ! まあ、口約束とかだったら証拠がなくて追い詰めるのは不可能だったけど、流石は意地汚い貴族だ。きちんと契約書を書くなんてな。そこだけは褒めてやるよ!)


 今度はレオルドがニヤリと口角を上げた。それを見た貴族は歯を食いしばり、なんとか言い逃れをしようと国王に訴えるが、レオルドが持つ契約書があるので国王は取り合わない。


「……レオルド。他にもいるのか?」


「本来であれば、後ほど陛下へと報告する予定でした。戦の前に士気を落とすようなことはしたくなかったのですが、裏切り者は一人ではありません。こちらが、その証拠です」


 魔法の袋から次々と出てくる契約書の数に国王は頭を抱える。まさか、ここまで多くの臣下が裏切っているとは思わなかったからだ。頭が痛くなるが、裏切り者をいつまでも野放しにするほど優しくはない。

 国王はレオルドから受け取った契約書に目を通してサインしている者達を騎士に命令して牢獄へと投獄した。


 会議室にいた貴族の数が減り国王は目頭を揉んでから話を続けることにした。


「ふう。先程は驚かされたがレオルドよ。他にはなにかないか?」


「いえ、特にございません」


「使えそうな情報もないか?」


「……お役に立つような情報は申し訳ございませんがありません」


「そうか。わかった。では、会議を続けようか」

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