第220話 クリーク! クリーク! クリークッ!
王城へと呼ばれたレオルドは使者に連れられて、会議室へと向かう。レオルドが会議室へ入ると、そこには既に多くの貴族が円卓を囲むように椅子に腰掛けていた。そして、その貴族達はレオルドが入ってきた瞬間、一斉にレオルドの方へと顔を向ける。
多くの視線を浴びるレオルドだったが、緊張することもなく空いている席へと座る。横にいる貴族や目の前に座っている貴族が睨んでくるがレオルドは相手にすることなく腕を組み目を瞑った。
そのような態度のレオルドに怒りを顕にする貴族は顔を歪ませるが口は出さない。今のレオルドは国王からの信頼も厚く、ベイナードとも互角に戦えると知られているからだ。
文句を言おうものなら、どうなるかわかったものではない。流石にそこまで愚かな貴族はこの場にはいなかった。
レオルドが到着してからも、続々と貴族が集まってくる。呼ばれているのは、有力な貴族ばかりである。今回の会議は国の存亡に関わることなので当然と言えよう。
やがて、すべての席が埋まり、国王が最後に入ってきて上座に座る。重苦しい雰囲気の中、国王が集まった貴族に顔を向けて口を開く。
「よく集まってくれた。今回、呼び出したのは他でもない帝国のことだ。既に知っている者もいると思うが、帝国で新しい皇帝が即位した。そこまでなら、このように呼び出すことはなかったが事態は急を要する。帝国の新しい皇帝アトムースが戴冠式の場で大陸統一を宣言し、その最初の礎となる国を我が国と定めた。ならば、我らは黙ってはいられない。そこで先日、我が国から使者を送ったが相手にもされなかった。どうやら、帝国は本気で戦争を起こすつもりのようだ。話し合いの余地はない。残された手は一つのみ」
誰かが生唾を飲み込んだ。ゴクリという音が静寂の会議室に鳴り響く。
「戦争しかない。だが、知っての通り、帝国は大陸一の大国で軍事力の差は歴然。はっきりと言えば戦争になれば、我が国は負けるだろう」
敗北、その言葉は同時に死を意味する。一気に会議室の空気は最悪なものになる。どうにかして生き残ることはできないだろうかと思案する者もいれば、祖国のためになにか出来ないだろうかと考える者もいる。
そして、一部の者たちは顔にこそ出ていないが、心の中では笑っていた。その者達は帝国に買収されていた者達である。
アトムースが送り込んだ工作兵に唆されて帝国に寝返っているのだ。別に悪いことではない。負けると分かっている戦いをするよりは賢い選択である。
会議室の空気が最悪の中、レオルドは作戦を練っていた。頭の中で帝国軍との戦争のシミュレーションを必死に行っていた。
(ゲームならグレンかゼファーのどちらかが軍を率いてくる。まあ、ジークフリート目線で展開されるから、ゼアトではそういう事がありましたよっていう描写があっただけだが……。だから、ゼアトでどんな戦いがあったのかは分からない。自分で考えなきゃならないんだけど……戦争なんてしたことないから、わからん。いや、戦争をシミュレーションするゲームはやったことあるけど……銃撃戦がメインだったんだよね。ただ、まあ、こっちには転移魔法がある。唯一のアドバンテージだから、上手く利用すれば勝てるはず。それこそ、帝国軍が構えた拠点に奇襲を掛けるとか。でも、まずは転移魔法陣を各地に設置しなければいけない。シャルロットのように気軽に出来るなら話は変わってくるが、俺には使えない。だから、魔法陣を設置する必要がある――)
しばらく考え込んでいたレオルドは周囲の状況を忘れていた。
今は大事な会議をしているのに、レオルドは一人対帝国戦を考えている。腕を組み瞑想をしているかのように目を瞑っているレオルドを見た国王は、声を掛ける。
「レオルド。なにかいい考えでもあるのか?」
名前を呼ばれてハッとするレオルドは目を開いて、国王の方へと顔を向ける。
「……話し合いは不可能とのことですが和睦の証を献上してみるのはいかがでしょうか?」
「それは既に検討したが、そもそも帝国はこちらに取り合うつもりはない。だから、意味はなさないだろう」
「そうですか……」
無難な答えを言ったレオルドだったが一蹴されてしまう。それ以上の策は思い浮かばないレオルドが下を向き、黙り込んでしまう。
それを見た国王は、他の者にも何かないかと問い質すことにした。
しかし、誰一人としてまともな意見はない。
揃いも揃って無能ばかりと嘆きたいが、そもそも帝国との軍事力に差がありすぎる。だから、どう足掻いても勝ち目などないのだ。
「シャルロット殿にご助力を願えばよろしいのではないでしょうか?」
騒がしかった会議室がその一言で静まり返る。発言した貴族に視線が集中して、続きの言葉を待った。
「こちらにはレオルド伯爵が懇意にしている世界最強の魔法使いであられるシャルロット殿がおられるのはご存知でしょう。彼女がこちらに協力さえしてくれれば、戦力差を引っくり返すのも容易だと思われるのですが、いかがかな?」
素晴らしいと言った様に、その貴族を褒めるように手を叩く貴族達。
「おおー! 確かにその通りだ。しかし、彼女は国家の問題に関わらないのでは?」
「いやいや、流石に今回は彼女も手を貸すでしょう。なにせ、懇意にしているレオルド伯爵の命も懸かっているのですから」
そう言ってレオルドの方へと多くの視線が集まる。その視線を受けたレオルドは、彼らにもわかり易く伝えるようにゆっくりと説明を始めた。
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