第219話 備えあれば憂いなし
二人の帝国守護神を配下に加えたアトムースは、ついに帝国を乗っ取る為に動き出した。
最初に兄であるルクセントを拘束して、次に反抗勢力になりそうな弟妹達を拘束、もしくは懐柔していく。ただ、いくらかの弟妹には逃げられたが、何かが出来るわけではないと放置した。
そして、最後に残ったのは皇帝と皇后の二人。アトムースはこれから、実の親である二人を拘束することに決めた。
「よもや、お前がここまで力を付けていたとはな」
「ははははっ! どうです、父上! 兄上とは違い、俺は勢力を拡大し、帝国守護神の二人を手中に収めました! 残るはセツナと父上、いいや、陛下! 貴方たちだけです。抵抗してくれても構いませんよ。まあ、勝ち目はないでしょうがね」
アトムースの背後には帝国守護神の二人、禍津風のゼファーに炎帝のグレン。皇帝を守るように立っていた最後の帝国守護神、永遠のセツナは最後まで皇帝を守ろうとしたが、一人では勝ち目がなかった。
「……ふ。褒めるべきか、嘆くべきか」
儚げに笑った皇帝は、皇后と共に幽閉されることになった。
こうして、アトムースは帝国の覇権を握り、新たな皇帝として君臨することになった。あとは、知っての通り、アトムースは戴冠式で大陸を統一すると豪語して王国に宣戦布告をしたのだった。
そして、今、新たな皇帝が支配することになった帝国では、王国との戦争に向けて準備が進められていた。
「進捗はどうだ?」
「は! 既に部隊の編成は整っております。補給物資の準備も出来ておりますので、すぐにでも出撃は可能です。」
「ふむ。新兵器の方はどうなっている?」
「開発チームからは最終調整に入ったとのことです」
「ならば、急がせろ。王国は転移魔法を持っている。情報の早さではこちらに勝ち目はない。だから、王国が焦っているであろう今が好機だ」
「は! 仰せのままに!」
報告に来ていた兵士は、アトムースの言葉通りに動く。新兵器を開発している者達へ、皇帝が急いでいたということを伝えに行く。
次に報告に来たのは工作兵の一人。アトムースが国境付近の王国貴族を買収しようと工作兵を潜り込ませていたのだ。
「陛下。命じられたとおり、国境付近にいる王国貴族の買収完了致しました!」
「どの程度だ?」
「レオルド・ハーヴェストを除いて半数以上です」
ニヤリと口角を上げる工作兵にアトムースは賛辞を送る。
「素晴らしい成果だ。褒めて遣わそう」
「ありがたき幸せ!」
上機嫌になったアトムースは工作兵に報奨を与えることを約束してから、下がらせる。そして、ゼファーとグレンを護衛として残したアトムースは高笑いを始める。
「くっくっく、はーっはっはっはっはっは! 最早、王国など敵ではない。俺が目指すのはその先だ。王国を蹂躙した後は聖教国を蹂躙し、大陸を統一する! そうすれば俺は歴史に名を刻むことになるだろう! 大陸を統一した偉大な男として! はっはっはっはっはっはっは!」
「陛下。一つ質問が」
「なんだ、申してみよ」
一人夢を語り高笑いをしていたアトムースにゼファーは質問をする。
「どうして、王国からなのですか? 戦力を考えれば聖教国からの方が攻めやすいはずですが?」
「お前の言うことはもっともだ。しかし、聖教国は宗教国家だ。これは当然だが帝国、王国以上に信者の数が多い。この信者が厄介でな。ある意味兵士よりも質が悪い。この帝国にどれだけの兵士が命を捨ててまでも国を守りたいと考えている者がいると思う? 恐らくだが、三割、いや、一割いればいいほうだろう。だが、聖教国の信者なら九割はいるだろう。奴らは教えに従うからな。主が仰るなら、神の導きの下、御加護があるからと己を正当化する。それがどれほど恐ろしいか。一人二人ならどうということはない。だが、これが十人、百人、千人と増えてみろ。もう手の施しようがない。あの国はそのような国なのだ。だから、相手にするのは王国を下し、さらなる力を手に入れてからだ」
「なるほど。確かに私も一度狂信者と戦ったことがあります。彼らは自身の行為を神が定めたものだと言って狂ったように暴れていました。こちらの言葉には耳を決して傾けず、自分達の事ばかりを主張していましたね。最後は理解出来ず、殲滅以外の道がありませんでしたよ」
「そうだろう。あの国はある意味で恐ろしい」
アトムースは聖教国がある方向へと顔を向けた。先程、自分が言ったように恐ろしくなったのだろう。アトムースは僅かに震えた。
帝国の方で戦争の準備が進められている中、レオルドの元に王城から使者が来ていた。
「レオルド伯爵。至急、王城へとご同行をお願い致します」
「わかった。すぐに向かおう」
転移魔法でやってきた使者と共にレオルドは王城へと向かう事となった。
(恐らくは、いや、十中八九帝国のことだろうな。新しい皇帝が即位したと言うだけでも大騒ぎなのに、まさかの宣戦布告だからな。今頃、王都はパニックになってるだろうよ。俺は知っていたからパニックにはならなかったが、やはり戦争というのは避けたかったな)
動き出した運命は止まらない。レオルドはどう立ち向かうかを考えながら、使者の後ろを歩いて王城へと入っていくのであった。
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