第216話 弱みはこう使うんじゃ!
これはレオルドの元に新皇帝が誕生したという一報が届くより前の話。まだ
「それでどれだけ引き込めた?」
「六割ほどは引き込めました」
「六割か……まだ心許ないが決行するには充分か……」
アトムースは以前
アークライトは婚約者を人質に取られているので断ることが出来ず、命令されたとおり帝国の有力な貴族の弱みを探り入れていた。そのおかげで、今のアトムースの陣営は帝国でも大きな影響を与えるものにまでなっている。
しかし、そこまで大きくなれば皇帝が気が付かないわけがない。だが、まだ、気づかれてはいない。皇帝が無能というわけではない。これは、アークライトが引き入れた有力な貴族達のおかげだ。
アトムースの味方をしていることを上手く隠しているのだ。
本来ならば、皇帝に告げるべきなのだが、アトムースに握られている弱みは世間に知られれば、今の地位を脅かすものばかり。
だから、貴族たちが取った選択はアトムースに従うというもの。故に、アトムースが謀反を企んでいることは知られていない。
「しかし、兄上。陛下には帝国守護神の三強が護衛についています。まずは、そこから切り崩さねばならないと思うのですが?」
「言われずとも分かっている。厄介な存在ではあるが味方に引き入れればこの上ないものだろう。なんとか味方に出来んのか!」
「お三方は権力に固執しているわけでもありませんから……」
アトムースが爪を噛んで苛立っている理由は、アークライトの言っている帝国守護神の三強が金や地位、名誉、栄光などでは動かないからだ。
帝国守護神とは帝国軍の将軍三人の呼び方である。三強とも呼ばれており、
この三人は、それぞれが類稀なる実力者だ。永遠のセツナは氷魔法を得意とする帝国最強の女性であり、禍津風のゼファーは風魔法を得意としており帝国最速の男である。
そして、炎帝のグレン。帝国史上唯一、皇帝と同じように帝の名を授かった帝国最強の炎使い。炎魔法に限ればあのシャルロットすら超えると言われている程の実力者だ。だからこそ、皇帝から帝の一文字を授かったのだ。
ちなみにセツナはヒロインの一人だったりする。ただ、意外と攻略が難しい。
「セツナを取り込むのは無理かもしれないが、グレンとゼファーは可能だろう」
アトムースはただ爪を噛んで腹を立てていただけではないようだ。アトムースはニヤリと笑い、アークライトに作戦を伝える。
「まず、ゼファーだが俺が直接話してみよう。奴は確かに権力に固執はしていないが……戦闘狂の一面を持っている。だから、そこを突けば上手くいくだろう」
「確証がないのに、それは無謀では?」
「どの道、守護神をどうにかせねば俺が皇帝になるのは不可能だ。ならば、多少は運に身を任せるのもいいだろう」
「運任せというのはどうかと思いますが……?」
「ふん。俺はこれから革命を起こそうというのだ。運も引き寄せられないようでは皇帝になるのは到底不可能だろう」
「そう……ですか」
天運すら味方につけると言い放ったアトムースを見て、アークライトは感服する。
(劣等感や嫉妬さえ抱かなければ、有能な人材として帝国を発展させたはずなのに……)
残念ながらそのような未来が来る事はないだろう。既にアトムースは自身の野望を叶えるために動き出した。
もう止まる事も止める事も出来ない。だから、アークライトに出来る事は婚約者を守る為にアトムースの言う事を聞くことだけだ。
「さて、肝心のグレンについてだが、お前は関わるな」
「それはどうしてですか?」
「答える必要はない。ただ、黙ってお前は他の貴族を一人でも多く味方に引き入れておけ」
「……わかりました」
これは別にアトムースがアークライトの事を思って言っている訳ではない。
ただ、炎帝のグレンを味方につける方法はアトムースが本当に信頼している者にのみ話すつもりなのだ。
(さて、俺も動くとしようか。今に見ているがいい。俺をバカにしていた奴等に目にもの見せてくれる!)
アークライトが部屋から出て行き、一人部屋に残ったアトムースは、今まで自分を見下してきた者達に一泡吹かせてやると拳を握り締める。
(そして、今度こそ俺を認めさせる。父上、母上! 俺が俺こそが皇帝に相応しいのだと!)
幼い頃から第一皇子であり兄であるルクセントと比較されて劣等感に
嫉妬に駆られたアトムースを止める事は最早肉親ですら出来ないだろう。
それほどまでにアトムースは歪んでしまったのだから。
こうして、着々とアトムースの計画は進行していく。
帝国を乗っ取り、自分が皇帝になるために。
そして、誰も成し得なかった大陸統一を成して、全ての者に自分を認めさせるのだ。
その為ならば、アトムースは手段を選ばなかった。
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