第215話 未来見えててもどうしようもないわ

 とある一報がレオルドの元に舞い込む。それは、想定していたものであり、最悪のものである。

 帝国の皇帝が退位して新しい皇帝が即位したという報せだ。運命48ゲームと同じ展開であり、帝国との戦争が始まりを告げるものであった。


「そうか……新皇帝はアトムースか?」


「あ、ああ。なんで大将は知ってるんだ? まだ、俺は教えてないはずだが?」


「予想していたのがたまたま当たっただけに過ぎないさ。それよりも、報告を頼む」


「お、おう」


 少々、レオルドの言い分が腑に落ちないジェックスである。そこまで正確な予想が出来ていたなら、どうして最初に言わなかったのかと。しかし、聞いたところでレオルドが素直に答えてはくれないだろう。なら、まずは偵察部隊が仕入れてきた情報を報告する。


「まず、新しく即位した皇帝は大将の言ってる通り元第二皇子アトムースだ。先代皇帝は隠居したらしく、第一候補であった第一皇子はアトムースに譲ったらしい。それで、アトムース皇帝は戴冠式でこの大陸を統一すると豪語して、手始めにこの国を攻め落とすっていう話だ」


「戦争は避けられそうにないか……」


「無理だろうな。大々的に発表したから、後には引けないだろうよ」


「それもそうだな。この話はもう王都に届いてる頃か?」


「ああ。恐らくはな」


「なら、王都から招集が掛けられるだろうな」


「戦争の準備か?」


「ああ。話し合いの場を設けようにも、帝国はこの国を攻め落とすと宣言したのだろう? なら、話し合いなどしないはずだ。確実にこの国へ攻撃を仕掛けてくるだろう」


「だとしたら、まずはここか?」


「そうだな。この国を落とすとしたらゼアトを攻略する必要がある。だから、一番最初に狙われるのは間違いなくここだ」


「大将はそれが分かってたから、今まで準備を進めてきたのか?」


「…………最悪の事態を想定しただけに過ぎんさ」


「だとしても、あまりにも正確じゃねえか? 大将はまるで未来を知っているかのように見えるんだが……」


「未来……か」


 ジェックスの言う通りレオルドは未来を知っている。だからこそ、必死に努力をしているが戦争は避けることが出来なかった。

 レオルドは第二皇子の暗殺を実行したが守りが固かった為に失敗に終わっている。相手を褒めるべきか、それとも世界の強制力が働いたのか、どちらにせよレオルドは未来を変えることは出来なかった。


(……出来る限りのことはした。後は、いつも通りだ)


 出来る限りのことをしてきたレオルドは戦争に備えるだけ。ジェックスからの報告を聞き終えたレオルドは、部下たちを会議室に集めて今後のことについて話し合うことにした。


「よく集まってくれた。既に聞いている者もいるだろうが、帝国は新皇帝が即位した。その新皇帝は大陸を統一すると宣言したそうだ。その手始めにこの国を標的にしている」


 レオルドの言葉を聞いて、息を呑む者、沈黙している者とそれぞれの反応を見せている。


「恐らくだが既にこの話は王都にも伝わっている頃だろう。戦争は避けられそうにない。ここまで話せば分かっていると思うが、ゼアトは戦場になる。各自、覚悟を決めて準備をしておくように」


「レオルド様。戦争は本当に起こるのでしょうか?」


 伝えることを伝え終えたレオルドにバルバロトが質問する。


「ジェックスからの報告で皇帝は宣言したそうだ。今更、撤回するなどということはないだろう」


「しかし、帝国とは和平を結んでおり、友好な関係であったはずです。それが、皇帝が変わったからと言っていきなり戦争というのは流石におかしな話ではないでしょうか?」


「む……そう言われてもな。今の皇帝は野心家なのだろう。だから、大陸統一を目標に掲げている。俺達がどれだけ文句を言おうとも止まりはしないだろうし、心変わりはないだろう」


「なるほど……」


 納得はしていないが少しは理解できたバルバロトはそれ以上の追求をやめた。他に質問はないかとレオルドが部下たちを見回すが、誰も手を挙げないし口を開かない。それを見たレオルドは話は終わったと解散を告げて、部下達は会議室から出ていく。


 残ったのはレオルドとギルバートの二人。レオルドは腰掛けていた椅子に深く沈み込んで憂鬱そうにしている。


「坊ちゃまが私に第二皇子を暗殺するように命じたのはこの事を知っていたからで?」


「確かなことは分からなかったが危険性はあったからな。先に排除しておこうとしたんだが……」


「申し訳ございません。私が失敗したばかりに」


「いや、お前の責任ではない。俺が相手を侮っていたんだ。だから、お前に落ち度はないさ」


 レオルドは頭を下げるギルバートを許しつつ、次の手を考えるが何も思い浮かばない。運命48ゲームの攻略知識はあっても本物の戦争をどうにかする知恵はレオルドにはなかった。

 だからこそ、戦争を起こす張本人を消そうと試みたのだ。残念ながら失敗に終わってしまったが。


(……どうするかな。第二皇子は皇帝になった。戦争は確実。ゲームのレオルドなら逃げて生き延びるんだけど、俺は逃げるつもりはない。だけど、俺にゼアトを守り切る事が出来るのか? 相手は大陸一の国家で軍事力の差は歴然。はっきり言って勝ち目はない。ただ、ゲームなら……! ああっ! くそっ! 本当、嫌になる……)


 運命48ゲームであったなら、ゼアトは陥落寸前で戦争は終結する。主人公ジークフリートの活躍によって皇帝が倒されてだ。

 ただ、それはゲームでの話だ。この世界でも同じことが起こるかは分からない。なにせ、レオルドが変えてしまった。大筋の物語ストーリーこそ変えられなかったが、レオルドはジークフリートが得られるものを奪ってしまったのだ。それがどのような変化を起こすのか。近い内にレオルドは知ることになるだろう。

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