第212話 バッカじゃないの~?

 不機嫌なシルヴィアに振り回されるレオルドはどうにかして機嫌を直してもらおうとするが、うまくいかない。レオルドは手を尽くしたが、シルヴィアはツンとしたままである。

 後頭部をかいて困っているレオルドを見ているシルヴィアはもうそろそろ許してあげようかと考えていた。あんまり、意地悪しているとレオルドに嫌われてしまうかもしれない。


 ただでさえ、サディストな面を知られて敬遠されているのに、これ以上嫌われてしまってはこの先結ばれることなど不可能だろう。

 それは絶対に嫌なのでシルヴィアは機嫌を直してレオルドへ振り向こうとした時、音楽が流れ始める。


 どうやら、いつもと同じ流れらしい。


 音楽を聴いたレオルドは、シルヴィアの機嫌を直してもらおうとダンスを申し込む。

 しかし、既にシルヴィアの機嫌は戻っている。


 シルヴィアの方はレオルドが自分の機嫌取りのためにダンスを申し込んできたのだと分かると、複雑な気持ちになった。


(む~。もっと工夫して欲しいですわ! でも、まあ、ここら辺が潮時でしょうね。あまり、意地悪していると嫌われてしまうかもしれませんからね)


 怒ればいいのか喜べばいいのか迷ったシルヴィアであったが、レオルドの手を取り、ダンスの返事をした。


 レオルドのほうは断られるかもしれないと思っていたら、手を取ってもらえたので一先ず安心した。このダンスで機嫌を直してもらおうとレオルドはシルヴィアと共に踊り始める。


 何度も踊っている二人は、長年連れ添ったパートナーのように息が合っている。そんな二人を見たら、多くの者は二人が特別な関係だと思うだろう。


 実際、二人のダンスを見ていた多くの女性はレオルドを諦めた。第四王女のシルヴィアが相手では、勝ち目などないだろうから。

 それに、あそこまで見せ付けられてはレオルドを略奪しようなどという考えもなくなる。


 それほどまでに二人はお似合いであった。


 ダンスも終わり、二人は別れるのかと思いきや、そのままパーティーを楽しむ事にした。

 何名かの男女がレオルドとシルヴィアにダンスを申し込もうとしていたが、相手にはされないだろうと判断して撤退している。


 やがて、パーティーも終わりを告げる。レオルドはシルヴィアに別れの挨拶を済ませて家族と共に家へと帰る。


 王都での用事も終えたのでレオルドは明日にでも帰ろうかと考える。

 しばらくは特に大きなイベントもない。運命48ゲームでも闘技大会が終わると、年末に学園で開かれる舞踏会くらいしかない。

 それはジークフリートに関わるものでレオルドには関係ない。


 だから、レオルドはしばらく領地で鍛錬に明け暮れようと考えていた。


「……」


 ベッドの上にレオルドは寝転がり天井を見つつぼんやりと考え事をしていると部屋の扉をノックする音が聞えてくる。

 レオルドが返事をしようとしたら、扉が開かれる。


「シャルか。どうした、こんな夜更けに?」


 部屋に入ってきたのはシャルロットだった。レオルドが言うように時刻は深夜零時を過ぎようとしている。


「どうしても聞きたいことがあったのよ」


「なんだ? 俺に答えれるなら答えるぞ」


「闘技大会の最後にどうして命を賭ける様な真似をしたの?」


「そのことか……」


 酷く素っ気無いレオルドの態度にシャルロットは苛立った。レオルドが倒れた時は本気で心配していたのに、そのレオルドがあまり理解していない事に腹を立てた。


「答えて、レオルド。貴方、死にたくないから頑張ってるのに、どうして死ぬようなことをしたの? 貴方の行動は矛盾しているわ。全く理解できないの。だから、教えて。貴方がなにをしたいのかを」


 誰もが思っていることだろう。レオルドは死の運命を避けるために努力をしている。なのに、今回は自ら死を招こうとしていた。

 それはレオルドの当初の目的からすれば、酷く矛盾している。わざわざ、シャルロットがこんな夜更けにレオルドを訪れるのも当然のことだろう。


「シャル。俺はな、改めてこの世界の厳しさを知った。俺はいつか来るであろう死の運命を避ける為に努力をしている。もちろん、死にたくないから必死だ。今回俺が命を賭けたのはそのためでもあるんだ。何を言っているかわからないだろう。でも、本当のことなんだ。俺は闘技大会で知ることが出来た。自分の力を、そして世界の広さを。俺は確かに強くなっただろう。だけど、足りない、足りないんだよ、全く。ベイナード団長、リヒトー、この二人だけじゃない。世界にはもっと沢山の強者つわものがいる。その中には当然お前もいる。俺は強くならなきゃいけないんだ。それこそ、血反吐を吐くなんてレベルじゃいけない。文字通り命を賭けて死にもの狂いで強くならなきゃいけない。だから、俺はきっとこれから先も無茶を続ける。お前にはきっと沢山の迷惑をかける。今回もお前がいたから俺は無事だったんだろう? 自分勝手な理由だがシャル、お前の力が必要なんだ。これからも、俺の側にいて欲しい」


「……そこまで強さに拘る理由を聞いてないんだけど?」


「まだ決まったわけじゃないが、近い内に帝国と戦争になる。その時、最初に狙われるのがゼアトだ。圧倒的な戦力差に加えて帝国の中でも最強と謳われている男が攻めてくる。今の俺が戦えば恐らく負けるだろう。だからこそ、強くならなきゃいけないんだ」


「逃げればいいじゃない。戦う必要はないはずよ」


「そうだな。お前の言うとおりだ。逃げればいいだけの話だ。でも、俺は領主だから戦うよ」


「どうして? 死にたくないんでしょ! だったら、責務なんて放棄して逃げればいいじゃない!」


「好きなんだよ、今がな」


「……なにそれ。今を守りたいから逃げないってこと? 死にたくないから頑張ってるのに意味がわからないわ。言ってることが滅茶苦茶よ」


「もう決めたんだ。逃げられない運命なら勇気と覚悟で立ち向かうしかねえってな」


「バッカみたい……」


 呆れ果てるシャルロットにレオルドは何も言わない。ただ、言いたいことは全て言ったつもりだ。レオルドはここでシャルロットに見限られても仕方がないだろうと腹を括っている。

 でも、シャルロットなら分かってくれるかもしれないという期待もしていた。


「はあ〜〜〜っ! ほんと馬鹿みたい。いいわ。付き合ってあげる。貴方が死ぬその時まで」


「そうか。ありがとう、シャル。これからもよろしくな」


 心底嬉しそうに笑うレオルドに、シャルロットは我ながら単純だなと自分に呆れていた。


(ほんと馬鹿みたい……)


 心の中でそう呟いたシャルロットは、目の前の男がどのような運命を辿るのだろうかと想像するのであった。

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