第211話 口にしなきゃ分かんねえよ!

 無事にとは言えないが闘技大会も終わり、レオルドはいつもの日常へと戻ることになる。ただ、その前にレオルドは王城で開かれるパーティーに呼ばれる。内容は闘技大会の打ち上げらしい。

 家族総出で王城へと向かい、パーティー会場に入ったレオルドは多くの貴族に囲まれる。


 ベイナード団長を打ち破り、その勢いで決勝戦まで駆け上がったレオルドは注目の的であった。しかも、外見が良いので女性からの受けもいい。

 過去にレオルドが犯した罪など些細なことだと思われている。むしろ、今のレオルドならば多少の罪は許されるだろう。それだけの功績に力があるのだから。


 囲まれていたレオルドはなんとか抜け出すことに成功する。露骨に婚約を迫ってきたり、甘い汁を吸おうと近づいて来ているのが丸わかりなので、ずっと相手にすることは出来なかった。


「はあ〜。貴族社会はこれだから……」


 誰にも聞かれないように小さく愚痴を零すレオルドは、使用人から飲み物を受け取り軽く料理をつまんでいく。


「ん〜、美味い!」


 次はどれを食べようかとしているレオルドの下にベイナードが歩み寄る。どれを食べようかと迷っていたレオルドは背中をベイナードに叩かれる。


「あいたっ!?」


「飲んでいるか、レオルド!」


「ベイナード団長! お疲れさまです!」


「おう、お前もな。それでレオルド。ちゃんと、飲んでいるか?」


「まあ、少しは」


「それじゃ、ダメだ。もっと沢山飲め。今日は俺達の為に開かれた催しなのだからな!」


「闘技大会の打ち上げなのはわかってますけど、まだ始まったばかりじゃないですか」


「何を言っている! 飲める時に飲んでおかないと後で後悔するぞ!」


「そうかもしれないですけど、今はそうじゃないでしょ」


「今がその時なんだ、レオルド!」


 酒が入ったグラスを突きつけてくるベイナードに困っているレオルドの所に救世主リヒトーが現れる。


「やあ、僕もいいかな?」


「リヒトーさん!」


「おお! リヒトーか! いいぞ! 一緒に飲もう!」


 三人になったところで乾杯をしてグラスをカチンとぶつけて鳴らす。そのまま、三人はグビグビと酒を飲み干してから新しい酒を貰い、談笑を楽しむ。


「個人的に気になっていたんだけど、最後の動きはなんだったんだい?」


「おお、それは俺も気になっていた。レオルド、最後のあれはなんだったんだ?」


 リヒトーとベイナードは決勝戦で見せたレオルドの最後の動きがどうしても気になっていた。


「あー、あれですか。まあ、秘密ってことじゃダメですか?」


「ふふ。対策されないためにかい?」


「まあ、そういうことです」


「もったいぶらずに教えたらどうなんだ」


 肩を組んでレオルドを抱き寄せるベイナードは気になって仕方がない様子だ。リヒトーを見習って欲しいと思うレオルドは曖昧に笑って誤魔化す。


「はははっ。手の内を晒すような敵はいないでしょ?」


「む、つまり俺と戦う気か?」


「機会があれば、是非とも」


「ふふふ、お前もわかるようになったな、レオルド〜!」


「それなら、僕とももう一度勝負してもらいたいな」


「もちろんです。私もリヒトーさんとはもう一度勝負をしてみたいです!」


 盛り上がる三人は再戦の約束を結ぶ。そこへ、国王を含めた王族の人達が合流してくる。畏まる三人であったが、今宵は無礼講と国王に言われて節度を守りながら交流を続ける。

 気分良く話していると、レオルドの元にシルヴィアが近づく。


「レオルド様。準優勝おめでとうございます」


「シルヴィア殿下。ありがとうございます」


「ふふ。それにしてもレオルド様は本当にお強いのですね。一回戦でベイナード団長を打ち破り、決勝戦ではリヒトーを相手に善戦して、とても素晴らしかったですわ」


「お褒めいただき光栄にございます」


「それに、今回の闘技大会で女性人気も高まりましたわ」


 ゾクッと背筋が寒くなるレオルドは周囲を見回す。すると、目の前から威圧感を放たれている事に気がつく。


(え、なんで? シルヴィア、怒ってない? てか、不機嫌な感じに見えるんですけど?)


 なんで、シルヴィアが不機嫌なのかさっぱりわからないレオルドは首を捻る。どうして、シルヴィアは怒っているのだろうかと考えるが、やはりわからない。

 聞けばいいかと思ったが、下手に問い質して余計に怒るかもしれないと思ったレオルドは、黙り込む。


「多くの女性に褒められるのは、さぞ嬉しかったのでしょうね」


「で、殿下?」


 ますます不機嫌になるシルヴィアにレオルドは不穏な空気を感じる。このままではダメだと、男としての勘が叫んでいる。


「と、とりあえずその話は終わりにしませんか?」


「どうしてです? 何かやましい事でもあるのですか?」


「そういう訳ではありませんが……」


 ジト目で睨んでくるシルヴィアにレオルドはたじたじである。


(貴方が見るからに不機嫌だからですなんて言えね〜)


 まさか、本音を言うわけにもいかないレオルドはこの場をどうやって切り抜けようかと考える。しかし、悲しいことに思いつかない。

 誰でもいいから助けてほしいと願うレオルドだったが、残念なことに周囲の大人たちは二人のやり取りを温かい目で見守っている。


(見てないで助けろよ!)


 口には出せないレオルドは心の中で叫ぶのであった。

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