第210話 こいつぁすげえや!

 ベッドで寝ているレオルドの布団を剥いでシャルロットはレオルドの身体を確かめる。

 服を剥いで露出するレオルドの上半身には所々に火傷の箇所が見られる。


 医者の言っていた通り、身体の外側ではなく内側から炙られたかのようになっている。


(話に聞いていた通りね。確かに火傷を負っているわ。でも、どうして内側なのかしら? レオルドは火属性を持っていないはず。だったら、火傷なんて……待って。レオルドはこの世界にない知識を持っている。もしかして、その知識から新しい魔法を生み出した? そうだとすれば、最後の瞬間リヒトーを上回ったという説明に納得がいくわ。でも、どんな魔法なのか、どんな使い方をしたのかがわからないわね……)


 ある程度の考察が出来たシャルロットは医者の方へと話しかける。


「ねえ、回復魔法は使ってもいいのかしら?」


「もう使いましたが、火傷が酷すぎるようで……」


「そうなの?」


 医者が既に回復魔法を施したと聞いてシャルロットはレオルドの方へと顔を向ける。


(回復魔法を使っても完治しなかったって、一体なにがあったのよ。少し、見させてもらうわよ)


 気になったシャルロットは透視の魔法を使う。透けて見えるレオルドの身体を調べるシャルロットは、恐ろしい事に気がつき息を呑む。


(ボロボロじゃないの! 一体どうしたらこんな事になるのよ!)


 レオルドの身体は見た目以上にボロボロだった。骨にヒビが入っており、筋肉は断裂しており、酷い火傷まである。


 これは恐らくレオルドが使ったという新しい魔法の後遺症であると判断したシャルロットは、一先ずレオルドの身体を治すために回復魔法を掛ける。


「お、おお! これはパーフェクトヒール! まさか、このような場所で使い手に会えるとは!」


 驚く医者を無視してシャルロットはレオルドの身体を治した。完全に元通りになったレオルドは、スヤスヤと眠っている。


 なんだか見ていると無性に腹が立ったのでシャルロットはレオルドの頭に拳骨を落とした。


「ちょっ!?」


 いきなりなんてことをするんだと慌てる医者だったが、レオルドが目を覚ましてその場はさらに騒然となる。


「いたっ……」


『レオルド!!!』


 頭を擦っていたら、いきなり名前を呼ばれたのでレオルドはビクッとして、みんなの方へ顔を向ける。

 大勢に囲まれておりレオルドは最初混乱してしまったが、自分の今の状況を見て把握する。


 どうやら、試合に負けて意識を失っていたらしいという結論に至ったレオルドは心配をかけてしまった事に謝る。


「すいません。心配をかけてしまったみたいで」


 詫びるレオルドは後頭部に片手を添えながらニヘラッと笑っている。

 自分はもう大丈夫だと安心させようとしたのだが、心配していた側は安心するはずがない。


 集団の中から飛び出したのはオリビアで、真っ先にレオルドを抱きしめた。


「は、母上っ!?」


「よかった。本当によかった……!」


 母親の胸に顔をうずめているレオルドは、自分がどれだけ心配させてしまったのかを理解する。その後、レイラがレグルスがベルーガが二人の元へと集まる。家族、みんな心配していたのだ。不謹慎ではあったがレオルドは家族の温かさに触れて笑みを零してしまう。


 その光景をどこか遠くのように感じているシルヴィアは、レオルドが無事だったことに喜び一歩下がるのであった。


 それからは、レオルドを慕っている者達が回復した姿を見て安堵の息を吐いた。これならば、もう大丈夫だろうと判断して、国王がレオルドの元へと近づく。


「どうやら、閉会式には出られそうだな」


「はい。ご心配をお掛けしました」


「構わんさ。こちらこそ、素晴らしい試合の数々を見させてもらったお礼を述べねばならんだろう」


 そう言って笑った国王は閉会式についてレオルドへ話す。


「さて、閉会式だが、まずは表彰を行う。優勝はリヒトーで準優勝はお前だ、レオルド。一応、聞いておくが参加できそうか?」


「はい。大丈夫です」


「よし。ならば、少ししたら閉会式を行おう。その時は係の者に呼びに来させる。それまでは、ここで休んでおくといい」


「わかりました。では、そのようにします」


 国王の説明が終わると、その場は解散となり医務室にはレオルドと医者と看護師の三人だけが残ることとなった。

 しばらく、レオルドはベッドに転んで休んでいたが、係員が来て閉会式へと参加する。


 試合会場には表彰台があり、その一番上にはリヒトーが立って、観客席に向かって手を振っている。そこへレオルドが姿を現すと、観客の歓声がさらに上る。レオルドは案内されるがままに二位の表彰台へと上がり、観客席に顔を向けて手を振る。


「おめでとう!」


「よく頑張ったー!」


「カッコよかったよー!」


 拍手とともに声援が送られてレオルドは嬉しそうに微笑む。二年前ならば、金色の豚だったので悲鳴が上がっていただろうが、痩せてイケメンになったので女性からの声援が多くなる。


「キャアアアア、カッコいい!」


「素敵、レオルド様!」


「リヒトー様と並んで絵になる〜!」


 その反応に少々嬉しくなるレオルドだったが、背中に悪寒を感じて震える。


 悪寒の正体は王族専用の席からレオルドを見つめているシルヴィアであった。


 今までレオルドは表舞台に登場せず女性人気はなかった。むしろ、噂のせいで最悪であった。しかし、これまでの功績に加えて、今回の闘技大会で多くの女性に人気となりライバルが増えた事を危惧するシルヴィアは複雑な気持ちであった。


 レオルドが凄いということが改めて認められることは嬉しいのだが、女性人気が高まりライバルが増えるのは嬉しくない。

 しかも、レオルドは満更でもない顔をしている。そのことにシルヴィアは腹を立たせてしまう。そんな顔をしないでほしいと、少々独占欲が出てしまう。


 しかし、自分は婚約者でもなければ恋人でもない。強いて言えば仲の良い友人程度。だから、シルヴィアは怒りを収めて落ち着きを取り戻す。


(いつかは必ず……)


 思いを胸に秘めてシルヴィアは閉会式が終わるのを見届けるのであった。

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