第194話 戦闘シーン難しい
崩れる壁を視界の端に収めながらレオルドはベイナードを見つめる。ベイナードは久しぶりの本気に身体が慣れていないのか、首をゴキゴキと鳴らしている。
そんなベイナードの背後には崩れた壁が元の形へと戻っていく。魔法使い達が破壊された壁を急いで修復したらしい。これで観客達も安心である。
ゆっくりとレオルドの方に歩いていくベイナード。肩を回して身体を確かめているベイナードに向けてレオルドは一切の手加減なく魔法を放つ。
「ライトニング！」
迸る閃光がベイナードを貫かんとする。ライトニングが当たるかと思われた瞬間、ベイナードが大剣を振るいライトニングを弾き飛ばす。その光景にレオルドは顔を引き攣らせる。
（冗談だろ……！）
一度弾かれたからといって効かないというわけではない。だから、レオルドは何度もライトニングを放つ。
しかし、その悉くはベイナードが振るう大剣で弾き返される。
流石にここまでされればレオルドはライトニングがベイナードには通じないことを理解する。
「ふう……」
一度、呼吸を整えるレオルドは剣を構える。こちらへと向かってくるベイナードに向かってレオルドは駆け出す。
ベイナードへ迫りレオルドは剣を振るう。対するベイナードはレオルドの剣を避けて、大剣をレオルドに叩きつける。
迫りくる大剣をレオルドは上体を捻って紙一重で避けると、再度剣を振るいベイナードを斬りつける。しかし、レオルドの剣はベイナードに届かない。
「ッッッ……！？」
レオルドが振るった剣はベイナードに軽く刀身を掴まれてしまう。もちろん、レオルドが手加減をしていたわけではない。本気の一撃を叩き込もうと振るった剣である。その剣速は簡単に捉えられるようなものではない。
だが、現にベイナードはレオルドが斬撃を見切り、刀身を掴んで止めている。
圧倒的である。埋めようのない実力の差をベイナードはレオルドに見せつけた。
刀身を掴まれてしまったレオルドは引き抜こうと力を込めるがビクともしない。その間にベイナードが大剣を振るい、レオルドを切り伏せようとする。レオルドは迫りくる大剣から逃れるために、武器である剣を手放すことに決めた。
後方へ飛んで大剣を避けるレオルド。距離を離したが、同時に武器を手放してしまった。痛恨のミスではあるが、剣に拘っていたら大剣をまともに受けていたので仕方がないと言えるだろう。
（どうする？ 魔法は当たらない。剣術では勝てない……！ はっ……絶望的な状況だな……！ くくっ！ はっははははは！ ああ、ああ！ そうだとも！ たかがこれしきで諦める俺じゃない！）
さらなる闘志を燃やすレオルドは魔力を高める。腰を低く落として、一気にベイナードとの距離を詰める。
ベイナードの懐に侵入したレオルドは拳を叩きつける。だが、レオルドの接近に気が付かないベイナードではない。
レオルドが放った拳を大剣で受け止める。大剣に阻まれてしまったがレオルドは身体を回転させて回し蹴りを放つ。
しかし、それすらもベイナードに止められる。腕でレオルドの蹴りを受け止めたベイナードは大剣を振るいレオルドを引き離す。
横薙ぎの一閃をレオルドは身体を逸らして避けると、そのままの勢いでサマーソルトを繰り出す。顎を狙ったが、ベイナードに足を掴まれる。
不味いと思ったレオルドは掴まれていない足でベイナードに蹴りを放つが、それよりも先にベイナードに放り投げられる。
放り投げられたレオルドは、このままでは壁に激突してしまうと身体を空中で翻して壁に着地する。そして、壁を壊すほどの威力で壁を蹴って弾丸のようにベイナードへと飛んでいく。
飛んでくるレオルドを待ち構えるベイナードは大剣を両手で握りしめて天高く掲げる。レオルドがベイナードの間合いに入った瞬間、大剣を振り下ろす。刀身から放たれた斬撃は闘技場を割り、壁に激突して結界に阻まれる。
試合に見入っていた観客たちはレオルドが切られたとばかり思った。しかし、レオルドの姿はどこにもない。どこへ消えたのかと観客たちが探しているとベイナードがその場から大きく後ろへと下がる。
すると、ベイナードが立っていた場所からレオルドが飛び出してくる。どうやら、地面の中に潜んでいたようだ。
「一体どういう魔法で地面に逃げたと言うのだ？」
ベイナードはレオルドがどのようにして地面に隠れたのか気になって問いかける。レオルドは空を飛んでベイナードへと近づいていた。そのような状態から、どのようにして地面へと逃げたのか誰もが気になるところだった。
「教えると思います？」
「くくっ。そうだな。敵に手の内を晒すような真似はしないな！」
当たり前の事を言うレオルドにベイナードは笑う。
（まあ、グレーゾーンではあるが障壁を足場にして地面に方向転換して土魔法で穴掘って逃げただけなんだけどな！）
闘技大会のルールでは魔法障壁、物理障壁は禁止である。だが、この場合は審議が難しい。攻撃を防ぐ為に使用したなら反則負けであるが、レオルドが使ったのはあくまで補助的なものである。
非常に怪しいが誰もその事を追求しないので今回は目を瞑ろう。
レオルドはいつの間にか足元に転がっていた剣を拾う。この剣はレオルドが手放した剣であり、ベイナードが奪っていたが、ベイナードには必要がないので捨てられていたのだ。
「さあ、仕切り直しです！」
剣を構えたレオルドは走り出す。ベイナードへ向かって跳躍して剣を振り下ろす。
ガギンッと二人の剣がぶつかり合い火花を散らす。体重をかけて押し込むレオルドだったが、ベイナードに振り払われてしまう。
後方へと着地するレオルドは性懲りもなく突撃する。無謀な突撃ばかりにベイナードは疑問を抱く。
（何を考えている？ 闇雲に向かってくるだけでは勝てないことくらい理解しているだろう……）
また地面を沼地に変えて体勢を崩す算段かと思われたが、ベイナードが足を後ろに下げた次の瞬間足場が崩れ去る。
思わぬ出来事にベイナードは対応が遅れる。ガクンと体勢が崩れたところをレオルドに切りつけれられる。
「……！？」
すぐさま、体勢を整えてレオルドを引き離すベイナードは足元を確認する。すると、そこには落とし穴が出来ていた。レオルドが仕掛けていた様子はなかった。ならば、いつこの落とし穴は作られたのかとベイナードは考える。
（まさか……！ 地面に潜っていた、あの時か！）
答えが分かったベイナードはレオルドに顔を向ける。そこには、見事に作戦が決まったようにニヤついているレオルドがいた。
（なるほど。最初から俺をここに誘導するように突撃を繰り返していたのか）
あの無謀とも言える突撃の数々はこの為だったかと理解したベイナードは素直にレオルドを称賛する。
「見事だ。しかし、まだ腕輪は壊れておらんぞ」
その通りである。腕輪を壊さない限り、勝利とは言えない。やっと一撃を叩き込めたレオルドは気を引き締め直して剣を構えた。
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