第192話 ついに彼女達の前に彼は現れた
闘技場の入り口に立つレオルドは、大きく深呼吸をして足を進める。
闘技場は中央の広場に周囲を高い壁が囲み、その上に観客席があるといった造りになっている。
その観客席には多くの観客が集まっており、試合を今か今かと待ち侘びている様子だ。
熱狂が渦巻く闘技場にレオルドとベイナードの両名が入場した事で、観客は歓声を上げる。
ついに、待ち侘びていた闘技大会が始まるのだと、観客達は多いに盛り上がる。
「観客の皆さま。大変長らくお待たせしました! これより、第一試合レオルド・ハーヴェスト対ベイナード・オーガサスの試合を始めたいと思います!」
第一試合から、いきなり王国騎士団の団長ベイナードの試合が見れるとあって観客達はさらなる熱狂を見せる。
今回の闘技大会はベイナードとリヒトーの二人が参加すると聞いて、多くの民衆が驚きと喜びに震えていた。
王国最強のリヒトーと騎士団長のベイナードが公の場で戦う事になるのだから、騒然となるのは当たり前だろう。
しかし、歓声を上げていた観客達だったが、ベイナードの対戦相手を聞いて首を傾げる。レオルドという名前に聞き覚えがあるからだ。
「レオルドって確か……金色の豚だっけ?」
「え? 転移魔法を復活させたレオルドじゃね?」
「同一人物なのか?」
レオルドは良くも悪くも有名である。かつては、金色の豚と蔑まれており、公爵家という立場でもあったので平民にも知れ渡ってた。
そして、今は転移魔法を復活させた人物としても有名であるが同一人物だという事はあまり知られていなかった。
そのおかげで観客席にいた多くの平民はレオルドの名前を聞いて不思議そうに首を捻っていた。
その一方でレオルドのことを良く知っている者達は驚きに目を見開いていた。
そう、学園の生徒達である。学園に通っている生徒達はレオルドのことを良く知っており、どのような人物でどんな見た目をしているかを知っていた。
だから、今の激痩せして筋骨隆々の姿を見て驚きを隠せなかった。
「うっそだろ……アレが元金色の豚なのかよ」
「バカ! 今じゃ伯爵で国王にも認められてる有名な方だぞ! 昔のあだ名で呼んでたら殺されるぞ!」
かつてのレオルドを知っていた生徒達は変わり果てた姿を見て戸惑っていた。功績は聞いていたが、まさか姿まで変わっているとは想像も出来なかったようだ。
まあ、昔のレオルドしか知らない人間からすれば予想できなくても仕方がないことだろう。
「……レオルドってあんなに痩せてたの?」
ジークフリートの応援に来ていたヒロイン達の一人、コレットが他のヒロインに問い掛ける。
「……私が会ったのは転移魔法の復活を祝うパーティの時だったけど、あの頃よりも痩せてるわね」
ヒロイン達の中で一番レオルドと面識のあるエリナが答える。
「すっごく強そうに見える……」
「強いわよ。気に食わないけどあいつは昔、闘技大会の少年の部で最年少優勝者になってるからね。ただ、その日を境に転がり落ちていったけど」
「知ってる。あの時は同い年なのに凄い人がいるってはしゃいでたから」
ヒロイン達が見下ろす先には、集中して目を瞑っているレオルドがいる。
そのレオルドはというと、闘技場に入ってから周囲の雑音を全て排除していた。必要な情報のみを耳に入れるレオルドは静かに精神を研ぎ澄ます。
進行役の係員が最後の説明を行い、闘技場にレオルドとベイナードの二人だけとなる。互いに向かい合い、相手の顔を見つめる。
両者の間に言葉はない。ただ、沈黙だけが二人を支配している。レオルドは極限にまで集中力を高めて、試合開始の合図を待つ。
やがて、時が止まったかのように観客席の声が止まる。そして、両者の間に吹いていた風がピタリと止み、試合開始のゴングが鳴り響く。
ゴングの音が聞こえた瞬間、レオルドは大きく目を見開き、地面を踏み砕いて駆ける。観客は地面が砕かれた音が聞こえたと思ったらレオルドの姿が消えていることに気がつく。一体どこへ行ったのかと、試合に注目していたらレオルドがベイナードに剣を振り下ろしていた。
両者の剣がぶつかり衝撃波が発生して、観客席にまで衝撃による突風が届く。闘技場は観客の安全が保証されており、魔法使い達が結界を何十にも重ねて張り巡らせている。
しかし、二人がたった一回剣をぶつけただけで観客席にまで突風が届いた。観客たちは息を呑む。一体どれだけの衝撃だったのかと。
「やはり、受け止めましたか」
「ははははは! いい一撃だ。どうやら、鍛錬を怠ってはいなかったようだな」
「ええ。ですが、まだベイナード団長には届かない。
だが! そんなことは百も承知!!!
俺は、俺が持つ全てを持って貴方を倒す!!!」
これは挑戦である。いまだ届かない領域にいるベイナードへの。
だから、レオルドはこれまで培ってきた全てを用いてベイナードへ挑むのだ。
負けるかもしれない。勝てるかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
いずれ運命と向き合う時が来るのだ。
前哨戦というわけではないが、今の自分がどこまで通用するのか試すには最高の機会であり、最善の相手である。
レオルドは剣を握る力が自然と強くなる。
「行くぞ!!!」
「来い、レオルドッ!!!」
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