第191話 がばがばなんじゃ!

 さて、ついに闘技大会が開催となる。


 レオルドは予選を突破して本選へと駒を進めていた。リヒトーが出した数値には及ばなかったものの規定値を超えたので本選への出場が決まったのだ。


 今回本選に出場が決まったのは十六名。本選はトーナメント形式なので、まずは対戦相手を決めなければならない。


 対戦相手はくじ引きで決まるので、あいうえお順に名前を呼ばれてから、レオルドはくじを引く。


「……第一試合か」


 レオルドが引いたのは残っていた一番。対戦相手は――


「ハッハッハッハッハ! よろしくな、レオルド!」


「ええ、こちらこそ。いつぞやの借りは返させて貰いますから」


 王国騎士団長ベイナード・オーガサスである。豪快に笑いながら、バシバシとレオルドの背中を叩いている。


 一回戦第一試合はレオルド対ベイナードとなった。


 そして、レオルドがもっとも注目している相手ジークフリートは二回戦で当たる。

 つまり、レオルドがジークフリートと戦うにはベイナードを倒す必要がある。


 一回戦からレオルドは全力を出さねば勝てないであろうベイナードに落胆するかと思いきや、闘志を燃やしていた。


 以前、一度だけ模擬戦をしたベイナードとまた戦える事に喜んでいた。好戦的な理由かと思われるが違う。

 レオルドは、ただ認めてくれた相手に今の自分を見せる事が出来ると喜んでいるのだ。


 対戦相手が決まったので、闘技大会のルール説明となる。出場選手は進行役の係員の前に集まり、説明を静かに聞く。


「闘技大会についてのルールですが、まずこちらの魔道具をつけてもらいます」


 説明をしている係員が取り出したのは腕輪であった。全員が腕輪に注目したのを見て係員は説明を再開する。


「こちらの腕輪は魔法、物理攻撃を防ぐ結界を張る事のできる魔道具となっております。まず、装着します。すると、装備者の身体を薄い膜のように結界が張られます。そうすることで死亡事故を防ぎ、装備者の命を守ります。ただし、これは一定以上のダメージ、衝撃を受けると壊れる仕様になっています。なので、壊れた瞬間に敗北となります」


 そこまで説明すると係員は説明を止めて、出場選手に質問がないか問いかける。


「ここまでで何か質問はありませんか?」


「その腕輪の耐久値はいくらくらいなんだ?」


「5000となっております。それ以上のダメージを受けると壊れます」


「どれだけの衝撃に耐えられる?」


「テストではリヒトー様の一撃にも耐えております」


「ちなみにそれを装備した場合、衝撃で気絶とかは?」


「します。腕輪が壊れてなくても装備者が気絶したり、倒れてから十秒数えて起き上がれない場合は敗北となります」


 聞きたいことを聞き終えた選手たちは質問することがなくなり、静まり返る。説明をしていた係員は質問がなくなったので闘技大会のルールの説明を再開する。


「では、闘技大会についてのルールですが、基本はこの腕輪が破壊された方が負けとなります。それから、魔法の使用は許可されていますが、魔法障壁、物理障壁を防御に使うのは禁止としています。この腕輪がありますからね。そして、先程言いましたが腕輪が壊れてなくても気絶、もしくは倒れて十秒が経過したら負けとなります。それから、武器の使用ですが、こちらは大会側が用意したものを使ってもらいます。それと、腕輪が壊れた後に対戦相手に攻撃した場合は失格となりますのでご注意ください」


 これで説明は終わりかと思われたが、係員は大事なことを伝え忘れていたのか、思い出したかのように最後に一言付け足した。


「あー、それとこの腕輪は大変貴重なものなので紛失した場合も失格です。希少な素材を使っていますので、ごく僅かにしか生産できないんですよ」


「そんな貴重品を闘技大会で使っても良いのか? 多くの貴族が欲しがるようなものだと思うのだが?」


「そう思いますよね。ですが、この腕輪には欠点があるんです」


「欠点? まさか大量の魔力を吸い取るとかか?」


「いえ、違います。この腕輪……効果が一日しか持たないんです」


「ああ、なるほど。それならば、意味がないな。でも、大量に持っておけばいいではないか?」


「先程も言いましたが希少な素材を使っていますので難しいですね。現在あるのは今回の闘技大会で使う分ほどしかありませんから。ですから、紛失した場合は失格なんですよ」


「……悲しい事情なんだな」


「はい。申し訳ありませんが選手の皆様には理解していただければと思います」


 なんとも言えない雰囲気になってしまったが、出場選手はそれぞれ腕輪を受け取り装備していく。全員に腕輪が行き渡ったところで、進行役の係員が第一試合のレオルドとベイナードを呼び出す。


「では、第一試合の出場選手はこちらに。他の選手は控室に移動しましょうか」


 残った二人以外は控室へと移動する。そして、残った二人は進行役の係員に連れられて、試合会場へと向かう。道中、二人は話すこともなく黙々と係員の後を着いて歩いている。


 互いにこれから行う試合の為、集中をしているのだ。一度は戦ったことのある二人だが、以前とは違うと分かっている。ベイナードはレオルドがどれだけ成長したのかを楽しみにしており、レオルドはどこまで自分がやれるのかとウズウズしていた。


 いよいよ、闘技大会の幕が上がる。

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