第186話 決闘てのは重たいもんなんだよ!

 参加するかどうか悩んでいたレオルドだったが、重要な事を思い出して固まってしまう。


「あのレオルド様? どうかなさいましたか?」


「ん、む……少々、困った事がありまして」


「それはなんでしょうか?」


「私はジークフリートとの決闘に敗北しており、約定によって彼の前には出ることが出来ません。もしも、彼が参加するなら私は辞退させていただきます」


「あっそれは……」


 レオルドの言葉にシルヴィアも困ってしまう。いくら、王族といえども決闘で取り決められた約束を破るわけにはいかない。


 王族が介入して決闘の取り決めをなかった事にしても構わないのだが、そうすると必ず文句を言う人間が現れる。


 勿論、王族の意見に反対するような輩は現れないだろうが不満は必ず残る。

 そうなれば、いずれ謀反や反乱といった事も考えられるので慎重に考えなければならない。


 だから、レオルドとジークフリートの間で決まった約定は決闘の勝利者であるジークフリートの手に委ねられる。

 勿論、今更レオルドを死刑にしろなどということは出来ない。約定を取り消す事は出来ても、変えることは不可能である。


 そもそも決闘とは古き時代から存在しており、今では忘れられたものとなっている。今回、レオルドが決闘をジークフリートに申し込んだことで思い出されたといってもいい。


 その決闘についてだが、元々は両者の意見が対立した時に用いられるものだった。それが、時を経ておかしな形になり勝者が望むものを手に入れられるというものになってしまった。


 そんな事になってしまったので王族に決闘を申し込み、王位を奪取しようとする輩や憎い相手を合法的に殺そうと決闘を挑む者が当然いた。


 しかし、それでは秩序が無茶苦茶になってしまうということで決闘は大きく制限されることになる。


 一つ目は貴族間のみで決闘は成立するというもの。

 二つ目が代理人を立てる事が可能という事。

 三つ目は一対一であること。


 この二つ目がとても重要で格下の貴族は格上に挑む際、大抵が代理人を呼ばれて返り討ちに合う。

 なにせ、貴族は爵位が高い者ほど力があるのだから、決闘に負けないように強い者を呼び寄せる。

 なので、王族に決闘を挑もうとしたら王国最強のリヒトーが出てくる。ゆえに、余程の馬鹿か自信家でもない限り挑むことはない。


 このように制限を設けた事により、決闘を行う者は減り、忘れられる事になったのだ。


「私のほうでジークフリート様に打診をしてみましょうか?」


「いいえ、結構です。私が負けたのが――いや、私が愚かだったのが原因ですので殿下の手を煩わせる訳にはいきません」


「で、ですが、レオルド様は出場なさりたいのでは?」


「そうですね。なら、ジークフリートが参加なさらないのであれば参加します。まあ、もし参加したとしてジークフリートが観戦に来て私を目にした場合は大目に見てもらえると有り難いですね。それすらダメとなったら、大人しくゼアトに引き篭もっていましょう」


 そう言って力なく笑うレオルドを見てシルヴィアは決意する。なんとしてでも、レオルドの参加を叶えようと。


 楽しいお茶会の時間は終わり、シルヴィアは王城へ帰る事になる。


 王城へと帰還したシルヴィアは早速行動に移す。お茶会で話した内容を国王へと伝えて、レオルドの参加を許可してもらう。


「ふむ。それくらいならば許可しよう。後はジークフリートへの確認だな」


「必ず許可させますわ」


 気合の入った返事に国王は苦笑いである。


 次にシルヴィアはジークフリートと接触する為に姉である第三王女クリスティーナの元へと向かう。

 クリスティーナは運命48ゲームのメインヒロインの一人である。現在はジークフリートにお熱であるのだ。


 ただし、ジークフリートは何の功績も挙げていないので結ばれる事はない。

 しかし、運命48ゲームでは王女ルート、つまり、クリスティーナのルートに突入すれば魔王がラスボスとして現れる。ジークフリートが魔王を討伐することで結婚が認められてハッピーエンドである。


 ちなみにハーレムルートでも魔王は現れる。


「お姉様。シルヴィアです。今、お時間よろしいでしょうか?」


「シルヴィア? ええ、大丈夫よ」


「それでは失礼します」


 姉のクリスティーナから許可を貰ってからシルヴィアは部屋の中へと入る。中にはクリスティーナがソファに座って紅茶を飲んでいる最中であった。他には使用人がいるだけで、クリスティーナは紅茶を飲む一時を楽しんでいるようだった。


「どうしたの、シルヴィア? 私になにか用事かしら?」


「はい。実はお姉さまに折り入ってお願いがありまして」


「なにかしら? 私に出来ることなら何でもしてあげる」


「ジークフリート様にレオルド様が闘技大会に参加なさることを伝えてほしいのです」


「まあ……レオルド様が闘技大会に……」


「はい。もしかして、ジークフリート様も?」


「いいえ。まだ、考えている最中よ。でも、そうね……レオルド様が参加なさると聞いたら参加するかもしれないわ」


「え? それはどういうことでしょうか?」


「ジーク様はね、レオルド様が気になっていらっしゃるの。だから、きっとレオルド様が参加なさると聞いたら、ご自身も参加するとおっしゃるはずよ」


「それは嬉しいのですが、レオルド様とジークフリート様は決闘により顔を合わせることが出来ません。ですから、ジークフリート様には決闘で取り決めた約定を取り下げていただけたらと思っております」


「わかったわ。私の方からジーク様に聞いてみましょう」


「ありがとうございます、お姉さま」


「うふふ。いいのよ。かわいい妹が私を頼ってくれたんですから、姉として当然の事をしたまでなのだからね」


 そう言って笑うクリスティーナは飲みかけていた紅茶を飲み干したのだった。

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