第185話 ダメだ、ゲーム脳だ

 勉強会も終わり、昼食を取り終えた二人はテラスに向かう。テラスには使用人が用意した机や椅子が並べられており、後は招待客の登場を待つだけである。


「ところで今日は殿下以外は誰か参加するのか?」


「そんな大規模なものじゃないから、私とお母様とレオ兄さんだけよ」


「男が俺だけだと……? レグルスはどうした?」


「兄さんは参加しないって。折角、誘ってあげたのに」


(レグルスめ、逃げやがったな!)


 レグルスが逃げ出すのも無理はない。参加者が母親に妹、そして王女だ。もうそれを聞いただけでも嫌な予感しかしない。だからこそ、レグルスは参加を拒否したのだ。レグルスの気持ちがわかるレオルドは自分も逃げ出したいと考えたが、もう遅い。


「そうか……俺も用事を思い――」


「なにか言いましたか?」


 逃げ出そうとするレオルドにレイラは母親譲りの笑顔を浮かべる。それを見たレオルドは何も言えずに、ただ黙って従うのみであった。


 それから、しばらくしてシルヴィアが到着したという一報が二人に届けられる。二人は玄関に迎えに行き、シルヴィアと対面する。


「ようこそ、シルヴィア殿下。本日はお越し下さり、ありがとうございます」


「はい。今日はお招きいただきありがとうございます」


 レイラの挨拶にシルヴィアが返す。その横でレイラと一緒にお辞儀をしていたレオルドに、シルヴィアは視線を移して挨拶をする。


「それから、レオルド様。お久しぶりですね」


「お久しぶりです。殿下。お元気そうで何よりです」


「ふふ、はい。レオルド様もお元気そうで何よりですわ」


 玄関でのやり取りを終えて二人はシルヴィアをテラスへと連れて行く。テラスには使用人が待機しており、三人が席についてお茶会は始まりとなる。


「そう言えば、オリビア様は? 今日のお茶会に参加されるのでは?」


「お母様は後ほど来る予定ですので、先に始めていても大丈夫です」


「そうですか?」


「はい。ですから、始めちゃいましょう」


 レイラの言葉を聞いて使用人が紅茶を淹れる。紅茶を淹れ終わると同時に別の使用人がお菓子を運んでくる。机の上に並べられたお菓子をつまみながら、楽しいお喋りの時間だ。


 女同士の会話が始まり、レオルドは蚊帳の外である。これならば、自分はいなくてもいいのではと思っていると、レイラがレオルドに話を振ってくる。


「ねえ、レオ兄さん。レオ兄さんは学園に戻ろうとは考えていないの?」


「そうだな……やはり、決闘で負けたからな。決められたことは守らねばなるまい」


「ですが、今のレオルド様なら覆すことは可能ですよ? それだけの功績を挙げているのですから」


「まあ、そうかもしれませんが私はゼアトでの仕事が楽しいので、戻ってこいと言われても戻らないでしょうね」


「ええ〜、もしレオ兄さんが学園に戻ってきたら殿下と先輩後輩の関係になれたのに〜」


「ふふ、そうですね。レオルド先輩とお呼びしていたかもしれませんわね。もしくは、親しみを込めてレオ先輩でしょうか」


「ははっ。それは呼ばれてみたいものですね。ですが、私は後輩に振り回される先輩になってしまいそうです」


「まあ。私がレオルド様を振り回すとおっしゃっているのですか?」


「そういう訳ではないですよ。はっはっはっは」


「むぅ〜〜〜、明らかにそういう意味で言ってますよね!」


(え〜、凄く仲いいなぁ。私が余計なことしなくても付き合いそう)


 仲睦まじい二人を見てレイラは自分が手を出さずとも自然とお付き合いしそうだと思った。ちょうど、そこへオリビアが来て、お茶会に参加することになる。


「あらあら、楽しそうね」


「お母様! 待っていましたよ。さあ、こちらへ」


 レイラに案内されてオリビアは席へ向かう。その際に、シルヴィアへと挨拶をしてから席へと着いた。

 オリビアはレオルドとシルヴィアが良い雰囲気であることを見抜いて、会話に加わる。


「うふふ。殿下とレオルドは随分と仲がよろしいのですね」


「えっ!? そ、そんな私はただレオルド様と楽しくお話しているだけで……」


 言い訳をするかのようにシルヴィアは慌てているが視線はレオルドに向けられている。それを見逃すはずがないオリビアは目を細める。

 対してレオルドの方はと言うとお菓子に夢中であった。シルヴィアの視線に気がつくこともなくお菓子を頬張っている。息子の鈍さにオリビアは呆れて額を押さえてしまう。


「レオルド……あなたって子はどうしてそのように鈍いのですか?」


「へ? いや、母上。私は鋭いほうですよ」


「レオ兄さんは鈍いと思うわ」


「む! なぜだ?」


『はあ〜〜〜!』


「ふ、二人揃って失礼じゃないか!?」


 盛大なため息を聞いたレオルドは二人に怒る。しかし、本気で怒っていないので二人は笑っている。そんな三人のやり取りを見てシルヴィアも、クスリと笑う。本当に仲の良い親子だと、シルヴィアは笑いながらそう思っていた。


 色々と話し合い、一段落した時、シルヴィアが思い出したかのようにレオルドへとある質問を投げた。


「そういえば、レオルド様は今年の闘技大会には出場なさるのですか?」


「――闘技大会?」


 お菓子を食べ、紅茶を飲んでいたレオルドはシルヴィアの一言により運命48ゲームについての知識を思い出す。


(そうだった〜〜〜っ!!! 確か、学園の最後の年に闘技大会が開催されるんだった! 攻略ヒロインによっては優勝が必須だったりするんだよな……。ハーレムルートなら、騎士団長ベイナードと王国最強リヒトーと戦えるイベントでもあるんだよな。まあ、まだ主人公は覚醒前だから勝てないんだけど! でも、色々と問題トラブルを解決してるから多少は成長してるんだよな〜!  それでも、二人には勝てないから負けイベなんだよね。ただ、善戦するといい装備をベイナード、リヒトーから貰える貴重なイベントでもある)


 思い出したレオルドは参加するかどうか悩むのであった。ここで参加して己の実力を確かめるのも良し、不参加でジークフリートがどれだけ成長しているかを見るのも良し。どちらを選んでもレオルドにとって得なのは確かであった。

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