第187話 ついに運命は交差するのか……

 新年が明けて、冬期休暇が終わったので学園が始まる。まだ、肌寒い中、生徒たちは元気に登校している。その中には、ジークフリートの姿もある。

 どうやら、ジークフリートは眠たいようで欠伸をしながら歩いている。そこへ、友人のロイスとフレッドが合流する。


「よう、ジーク。眠たそうにしてるな」


「今年から俺達は最高学年なんだから、もっと気を引き締めろ」


「おはよう。二人共。フレッドの言う通りだけど、まだ実感はないな〜」


「まあ、まだ先輩たちはいるしな。確かに、実感はねえかも」


「はあ〜。まあいいさ。俺は別にどうでもいいしな」


「フレッドは結局どうするんだ?」


「まだ、決めてはない。そういうお前はどうなんだ、ロイス?」


「ん〜〜〜。俺は家督を継ぐことになってるけど、当分は親父がいるから騎士として志願しようかと思ってる」


「それが妥当だろうな。ジークはどうするんだ?」


「ロイスと一緒だ。俺も騎士になろうと思ってる。いずれは、男爵家を継ぐことになるんだろうけど、それまでは騎士として働くつもりだ」


「そうか……」


 ついに最高学年となり、将来について真剣に考えなければならない三人は何気ない感じで話し合っている。漠然とではあるが、ジークフリートとロイスは騎士になることを選んだ。

 いずれ、二人は家督を継ぐことになるが、それまでは騎士として働くようだ。対して、フレッドの方はまだ決まっていなかった。フレッドは次男なので、家督を継ぐことはない。なので、まだそこまで真剣に考えてはいないようだ。


 三人はその後も他愛のない話を続けて、教室へと向かう。


 教室に着くと、三人はそれぞれ別れる。別れる必要があるのかと思うのだが、別れなければならないのだ。なぜならば、ジークフリートの周囲はヒロインが座るからだ。だから、ロイスとフレッドの二人は空気を読んで別の場所で授業を受ける。

 ちなみにロイスとフレッドはジークフリート以外にも友達はいるので、班を組んだり、ペアを組んだりする際に揉めることはない。


 三人が別れてジークフリートが一人になったところへエリナがやってくる。


「おはよう、ジーク」


「ああ、おはよう。エリナ」


 髪をかき上げながらジークフリートに挨拶をしたエリナは自然に隣へ座る。優雅に座る姿は周囲の男子から視線を集めるのだが、エリナはジークフリート以外に興味はない。

 その後、エリナを初めとして続々とジークフリートのハーレムメンバーが集まる。朝のホームルームが始まる前にはジークフリートの周囲には女の子しかいなかった。


 いつもなら、他愛もない話をして朝のホームルームが始まるまで時間を潰すのだが、今日は違う。王女であるクリスティーナがジークフリートへと真剣な表情を向けたことから、周囲は静まり返る。


「ジーク様。今日はお伝えしたいことがあります」


「クリスがそんな顔するなんて、よっぽどのことなのか?」


「そうですね……これはジーク様のみならずクラリスにも関係がありますので、大事なことかと思います」


「え……私も?」


 新学期早々、クリスティーナの発言で二人は顔を見合わせる。クリスティーナの顔は真剣なので、よほど重要なことだということだけは理解できる。一体、彼女は何を自分達に伝えるのだろうと緊張するのであった。


 朝のホームルームも終わり、新学期の挨拶となったので全校生徒は体育館へと移動となる。移動中にジークフリート達は、今朝のクリスティーナの発言が気になり、本人に訊いてみることにした。


「なあ、クリス。今朝言ってたことなんだけど、今じゃダメか?」


「すいません。もっと時間がある時にお話しますね」


「そうか。わかった」


 本当は気になって仕方がなかったが、クリスティーナの申し訳無さそうな顔を見て、ジークフリートはそれ以上の追求は止めることにした。


 その後、新学期の挨拶を聞き終わり教室へと戻り、軽く授業を受けてから昼休みとなる。


 昼休みとなり、ジークフリート達は学園にある食堂へと向かい昼食となる。そこで、クリスティーナは今朝の続きを話す。


「出来れば、三人だけでお話したかったのですが……」


「私達がいたらまずいのかしら?」


「いいえ。そういう訳ではありません。ですが、このことについては出来る限り秘密にしてもらいたいのです」


「そう。なら、安心して。ここにいる全員は決して口外しないから」


 エリナの言葉に少し悩むクリスティーナだったが、元々全員がいる場所で話してしまったので今更席を外してもらうのもおかしな話だ。それに、この場にいる人間は信頼の置ける人ばかりで、エリナの言う通り口外される心配はないだろう。


 少しだけ悩んだクリスティーナは誰も口にしないことを信じてレオルドが闘技大会に出場することを話す。


「ジーク様。今年開催される闘技大会にレオルド様が出場なさりたいとのことです。そこで、ジーク様とレオルド様の間に取り決められた約定をどうにかしてほしいとのことだそうです」


『ッッッ…………!!!』


 衝撃の内容を聞いてその場にいた全員は、驚きのあまり思わず叫んでしまいそうだったが咄嗟に手で口を塞いだ。しばらく、驚きに固まっていたジークフリートが確認するためにクリスティーナへ問い質した。


「それは、本当なのか? レオルドが闘技大会に出るって……?」


「はい。私の妹シルヴィアからですけど確かです。ただ、参加するにあたってレオルド様はジーク様との約定があるので、それがどうにかならないと参加はしないそうです。ようは、ジーク様次第ということですね」


「俺次第……」


「そうです。ジーク様はレオルド様と決闘で勝利しているので約定を取り消すことは可能です。ただ、変更することは出来ませんけど……どういたします?」


 悩むジークフリートだったが、ここで今朝クリスティーナがクラリスと自分の二人を指名していたことを思い出す。

 どうして、クリスティーナは最初に二人を選んだか。それは、ジークフリートがきっとクラリスの意思を尊重すると予想したからだ。ジークフリートがレオルドと決闘する羽目になったのはクラリスを救う為である。

 そして、決闘で取り決めた約定もクラリスが絡んでいる。つまり、クラリスこそが今回の話の要なのだ。


「……クラリス」


「……わ、私は」


 全てはクラリスにかかっている。ここでクラリスが拒絶すればレオルドの闘技大会参加はなくなるだろう。

 しかし、本当にそれでいいのかとクラリスは思っている。クラリスはジークフリートがレオルドを気にしていることを知っている。


(私がここで我慢をすれば……ううん。違う。本当は私も今のレオルド様と話してみたい。だから――)


 まだ怖いけど、ここには沢山の友達がいる。あの時のように一人ではないのだ。ならば、後は覚悟を決めるだけ。でも、怖いからクラリスは頼ることにした。


「ジーク君。私も今のレオルド様とは一度会って話してみたいの。だから、お願い。一緒にレオルド様と会ってほしいの」


「ああ、わかった! クリス。そういうことだから、レオルドとの決闘で決めた約束は取り消すよ。その事を伝えて欲しい」


「わかりました。ジーク様、クラリス。ありがとうございます。これで妹にいい報告が出来ます」


 ついにレオルドとジークフリートは再会することなる。果たして、世界の運命はいかに変わるのだろうか。

 それは、誰にもわからないが、きっと劇的なものになるだろう。

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