第183話 寝正月で太る奴は大体太ってる
新年が明けてレオルドは王都にある実家の公爵邸に帰っていた。久方ぶりにゆっくりと過ごしているレオルドはベッドの上でゴロゴロとしていた。
(あ〜、寝正月になりそう〜)
忙しい業務から離れたレオルドは気が抜けており、自堕落になっていた。それも仕方がないことだろう。なにせ、レオルドはゼアトにいた時はほとんど休む暇もなく働いていたのだから。
(そろそろ起きるか〜〜〜)
起きようと思っている割にはベッドから起き上がろうとしない。ずっと、ゴロゴロとしているだけで起き上がる気配はない。
起き上がる気配がないレオルドの元へ使用人がやってくる。使用人は部屋の扉をノックしてレオルドが起きていることを確かめる。使用人の声を聞いてから、レオルドは重たい身体を起こした。
「起きている。もう朝食か?」
「はい。すでにお食事のご用意は出来ております」
「わかった。すぐ行く」
朝食が出来ているというのでレオルドはすぐに寝間着から着替える。普段着になったレオルドは部屋の外で待機していた使用人を連れて食堂へと向かう。
食堂に行くと、家族が集まっておりレオルドの到着を待っていた。姿を見せたレオルドに家族は微笑んで挨拶をする。
「起きたか、レオルド。少し、たるんでるのではないか?」
「ふふ。まあ、いいじゃないですか。レオルドは去年すごく頑張っていたのですから」
実家に帰ってきてから自堕落な生活をしているレオルドを窘めるベルーガに、ゼアトでの頑張りをしっているオリビアが庇う。
「む、そうかもしれんがこういう時こそ気を引き締めるものだぞ」
「レオルドがどれだけ頑張っているかは知っているでしょう? 今くらいはいいではありませんか」
「まあ、確かに報告は聞いている。でも、流石に年末年始ずっとはどうかと思うのだが?」
「いいじゃないですか。たまには休むのも仕事ですよ」
「はいはい。二人共そこまでにしてください。父上の言いたいことも分かります。ですが、母上の言うように私は休むために帰ってきたんです。だから、大目に見ていただけるとありがたいです」
レオルドが話し合っている二人の間に割り込み、席へ着くと家族が揃ったので食事となる。朝食を取りながら、レオルドは家族に一日の予定を尋ねる。
「今日は何か予定があるのですか?」
「いや、私は特にない」
「なんだ。父上も私と変わらないじゃないですか」
「…………そうだな」
「おやおや〜? 先程までの威勢はどこへ行きましたかな〜?」
「ふふ。いい機会だ。レオルド、お前には父親の威厳を見せつけなければならないな」
「ほほう。いいですね。食後の運動にはちょうどいいですよ」
挑発するレオルドにまんまと乗っかるベルーガは互いに睨み合い火花を散らせている。しかし、そこへ手を叩く音が聞こえる。睨み合っていた二人が音の聞こえた方に振り向くと、そこにはニコニコと微笑んでいるが明らかに怒っている雰囲気のオリビアがいた。
「うふふ。仲がいいのは喜ばしいことだけど、新年早々何をするつもりなのかしら〜?」
顔を真っ青にする二人は互いに視線を逸らす。こういう時のオリビアは非常に強い。もちろん、物理的にというわけではない。女性に口で勝てる男性は少ないのだ。とにかく、謝るしかない二人はお互いに今だけは手を取り合って
「い、いや〜、ただの冗談なんだ。なあ、レオルド」
「ええ。そうですよ。母上。これは親子のスキンシップというものです」
上手に笑えない二人は冷や汗を流す。お互いに嘘を言うのが下手くそだった。当然、オリビアに通じるはずもなく二人は叱られることになる。
「はあ〜。全くこういうときだけは息ピッタリなんだから……」
少々、納得していないがオリビアは怒りを収めるように額を押さえた。それを見た二人はホッと息を吐いて、額にかいた冷や汗を拭うのだった。
その様子を見ていたオリビア、レグルス、レイラは我慢できなかったのか食事中にも関わらず大笑いをした。なんで笑っているのかは分からなかった二人だが、三人が笑っているのを見て一緒に笑った。
楽しい朝食を済ませたレオルドは庭に出て、一人鍛錬を行っていた。いつもなら、ギルバートやバルバロトがいるのだが、今回レオルドは一人で転移魔法を用いて帰省したのだ。仮にも伯爵という身分なのだから護衛をつけるべきだろうが、レオルドは護衛よりも強いので必要がないのだ。
では、お世話をする使用人はと思うがレオルドは基本一人で身の回りのことをするので必要がない。だから、一人で帰ってきたのだ。
「レオ兄さん。久しぶりに手合わせをしてもらいたいんですが、いいですか?」
一人木剣を振っていたレオルドの元に弟のレグルスがやってくる。その手にはレオルドと同じように木剣が握られている。
「ああ、いいぞ。どれだけ成長したか見てやろう」
「お手柔らかにお願いします」
「では、行くぞ!」
久しぶりに兄弟はぶつかり合う。互いの力を示すように。カンカンッという音が公爵邸に鳴り渡り、二人が共に鍛錬を行っていることを知らしめた。
「ふむ。今日はこれくらいにしておくか」
「ハア……ハア……あ、ありがとうございます」
「腕を上げたな、レグルス。今日は何度か腕が痺れたぞ」
笑っているレオルドを見てレグルスは少々嫉妬してしまう。
(届かないな〜。いつか、レオ兄さんに勝てる日が来るのだろうか……)
二人の鍛錬が終わったのを見計らってレイラが庭に顔を出した。疲れ果てて地面に寝転がっているレグルスとまだまだ余裕そうに立っているレオルドを見つけたレイラは二人に駆け寄る。
「レオ兄さん!」
「ん? どうした、レイラ?」
「もう鍛錬は終わったのかしら?」
「ああ。これから、汗を流すところだが何か俺に用事があるのか?」
「ええ。と言っても今日ではないの。明日ね、シルヴィア殿下が家に来るの」
「………………え?」
「明日、家でお茶会を開く予定なの。だから、レオ兄さんも参加してね!」
ニッコリと笑うレイラから特大級の爆弾発言を貰ったレオルドは思考が追いつかなかった。レイラは一体何を言っているのだろうかと、何度も瞬きを繰り返すレオルドであった。
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