第182話 月日が経つのは速いもんじゃ……

 月日は流れて冬である。レオルドは特にこれといった大きな問題もなく無事に秋を乗り切っていた。少し、変わったと言えば新たに文官を雇い入れたことだろう。

 そのおかげで、文官達の仕事量も減り心身共に回復出来た。レオルドも脱ブラックが出来て万々歳である。


 そんなレオルドは今、自室で運命48ゲームの攻略知識が書かれているマル秘ノートを読んでいた。マル秘ノートには真人の記憶から思い出せるだけの攻略知識を書いている。

 新たに思い出したものを追記したりするので、ページ数は最初よりも増えている。


 冬になって思い出したのは、クリスマスや年末年始のイベントがあるということだ。なぜ、中世ヨーロッパにそんなものがあるかは疑問を抱くだろう。

 だが、これについてはすでに制作陣かみさまが答えを言ってくれている。


 この世界はフィクションだと。


 創作の世界であり、史実とは異なるものとなっている。


 とても素晴らしい魔法の言葉である。そう言えば全て丸く収まるのだから。

 しかし、ここはゲームではなく現実世界となっているのでレオルドとしては少々複雑である。

 ただ、別に悪いことではないため、深刻な問題ではないだろう。


「むむ……サンタさんか」


 一つ困っていたのは新たに作った孤児院の子供達がサンタクロースを信じており、今年のクリスマスプレゼントはどんなものかと期待していることであった。

 このことについてはジェックスに聞いてみたら、お菓子をあげていたそうだ。


 ただ、今年はレオルドに保護されており、今までのような苦しい生活ではなく裕福な生活になっている。だから、自然と子供達も今年のクリスマスプレゼントには期待しているらしい。


 自室で一人悩んでいたレオルドはいい案が思い浮かばず、誰かに相談することに決めた。早速、レオルドは自室を出ていき、向かった先はギルバートのところだ。

 ギルバートは執事として仕事をしており、使用人たちと行動をしていた。屋敷の中を歩き回り、ギルバートを見つけたレオルドは近寄り相談をする。


「ギル。今いいか?」


「何でしょうか?」


「実は孤児院の子供達にクリスマスプレゼントやろうと思っているのだが、何がいいかと思ってな」


「坊ちゃまがそこまですることはないのでは? ジェックス殿とカレンには給金を出しているのですから、彼らが用意すると思いますよ」


「む……言われてみればそうだが……」


 実際、ギルバートの言う通り、ジェックスとカレンは貰っている給金を使って子供達にプレゼントを用意している。だから、レオルドの出る幕はないのだ。

 別にレオルドは子供たちに好かれようと思っているわけではない。ただ、サンタクロースの存在を信じている純真無垢な子供達の気持ちに応えたいと思っただけだ。


「それよりも坊ちゃまも実家に帰られたほうがいいのでは?」


「ん? なんでだ? 手紙は定期的に出しているから、特に問題はないはずだぞ」


「それはそうですが、奥様が会いたがっているはずですよ」


「……どれくらい帰ってなかったか?」


「かれこれ半年ほどかと思います」


「そんなに帰ってなかったのか……」


「転移魔法があるのですから、いつでも帰れるというお考えがいけませんでしたね」


「う〜む……母上は怒っていると思うか? 手紙ではそのようなことは書いてなかったからな〜」


「それは坊ちゃまがお忙しそうにしていたから、気を遣われたのですよ。恐らくですが、奥様は帰ってきてほしいと思っていますよ。それに、坊ちゃまは働き詰めなので、ここら辺でお休みになられるのがいいでしょう」


「いや、それは……」


 渋るレオルドを見てギルバートは嬉しくもあり、少々悲しくもあった。領民の事を思い身を粉にして働くのは素晴らしいことだが、そのせいで自身の事が疎かになってしまうのはいただけない。

 かつては、傲慢で他者を見下すばかりのレオルドが立派に成長した姿を見てギルバートは顔には出すことはしなかったが、内心で微笑んでいた。


「領地のことをお考えならご心配ないでしょう。坊ちゃまが新たに雇いれた文官達も頑張っていますので、坊ちゃまが少しくらい休んでも彼らは文句を言いませんよ?」


「そ、そうか?」


 現代日本では繁忙期に上司が休むと大体悪口を言われている事が多かった。レオルドに宿る真人の記憶でもそのような感じである。だから、レオルドは心配なのだ。自分が休んで業務に支障をきたしたら、文句を言われてしまうのではと。


 これについては心配ない。そもそも、ゼアトの領主であり支配者でもあるレオルドに文句を言うことは死を意味する。レオルドが親しみやすいと勘違いされがちだが、本来ならその場で斬り殺されてもおかしくはないのだ。


 恐るべき階級社会。本人は忘れているが、レオルドは伯爵なので多少の理不尽を押し付けることは可能なのだ。ただ、レオルドには真人の人格と記憶が混ざっているので、日本人らしき部分がある。なので、一人だけ休むのはいかがなものかと心配なのだ。


「坊ちゃま。ならば、年末はご家族と過ごせるように調整すればいいではありませんか」


「そうだな……そうするか。よし、気合を入れて働くとしようか」


 年末に家族と過ごすためにレオルドは気合を入れる。ハードスケジュールではあるが、レオルドは頑張って終わらせようと意気込むのであった。

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