第180話 ラッキースケベは主役の特権よ?

 夏も終盤を迎えて、いよいよ秋が来ようとしていた。半年ではあるが、ゼアトは大きく変わろうとしていた。新たに居住区が作られ、移民が増えておりゼアトは成長している。


 そして、新たにレオルドの配下となった餓狼の牙も活躍しており、貴族の情報を集め終わっていた。これで、いつ餓狼の牙について文句を言われても黙らせることが出来る。


 ようやく、波に乗ってきたというところだ。ゼアトはこれからも発展を続けていくことは間違いない。


 その噂は王都に届いていた。そう、つまりジークフリートの耳にも届いているということだ。


 王都でゼアトが噂になっている頃、学園が夏休みに入っているジークフリートは女の子たちと海水浴へと来ていた。エリナの実家が公爵家で所有している所謂プライベートビーチだ。おかげで、ジークフリートとハーレムメンバーしかいない。いや、訂正しよう。ジークフリートの数少ない友人もいる。


「壮観だな……フレッド」


「ああ。でも、あれ全部ジーク狙いだぜ?」


「し、信じられねえ……俺ァ、何か悪い夢でも見ているんじゃねえか?」


「はっ! 残念ながら現実さ」


「おお、神よ。なぜ、かような試練を私に与えたのか」


「ふぉっふぉっふぉっ。それはお主がスケベじゃからよ」


「スケベ関係ないだろ! むしろ、健全な男の子って言ってほしいね!」


「それにしてもマジであれどうするんかね?」


「さあ? 少なくともジークは何かしら功績挙げなきゃいけねんじゃね?」


「公爵家に婿入りでもしたら側室は可能だろ」


「まあ、可能だけど公爵様がジークを婿に迎えるかどうかよ。いくら、エリナがジークを慕っていても難しいだろう」


「それもそうか。あいつ、どうするんだろうな〜」


「何も考えていないんじゃね。困ってたから助けたってだけで狙ってるわけじゃないだろうし」


「だとしたら、とんでもない運の持ち主だよな。いや、むしろ運が悪いのか?」


「さてな。それよりも俺らも遊びに行くか」


「そうだな〜。遠泳勝負でもするか!」


「おっ、いいね〜! じゃあ、目標決めようぜ!」


 ジークフリートの数少ない男友達であるロイス。そして、もう一人の男友達であるフレッド・レグランス。フレッドは子爵家の次男坊であり、兄に不幸なことが起こらなければ家督を継ぐことはないので騎士になるか兄の補佐官になるか選ぶことになっている。

 本人はどちらでも構わないと思っている。兄は優秀ではないが無能というわけでもない。だから、自分が補佐をしなくても兄はうまくやっていくだろうと確信している。なので、騎士になってもいいし補佐官として兄を支えてもいいと思っているのだ。


 フレッドはなるようになるだろうといった楽観的な思考の持ち主である。故にどこか冷たい印象を抱かれることもある。しかし、ジークフリート達と関わっていくことで心境が変化していき、成長していくので人気だったりする。


 さて、二人が遠泳勝負と称してジークフリート達から離れていく。ジークフリートはというと二人が話していたように女性陣ハーレムメンバーと遊んでいた。


 とはいってもグループに分かれており、海で水遊びをする女性陣と浜でビーチバレーや砂遊びをする女性陣とそれらを優雅に眺める女性陣に分かれていた。


 ジークフリートは海で水遊びをしている女性陣の方にいる。複数の女性に囲まれながらキャッキャウフフと海水を掛け合って遊んでいる姿は世の男子が見たら嫉妬の炎を燃やすことだろう。まあ、ここはプライベートビーチなので知り合いしかいないが。


 そして、なんと言っても海水浴である。男と女がいればハプニングの一つや二つは当然だろう。


 一際大きな波が来て女性陣とジークフリートを飲み込む。波にのまれてしまったが溺れるようなことはない。一番最初にジークフリートが水中から顔を出す。


「うえっ。少し、飲んだか。みんな、だいじょう――」


『きゃああああああっ!!!』


「かぁっ!?」


 ジークフリートが目にした光景は大きな波にのまれた際、水着を流されてしまい、胸が丸出しになってしまった女性たちであった。女性たちは水着が流されたことを知り、胸を隠しながら悲鳴を上げるが時既に遅し。ジークフリートはばっちりと見てしまった。


「いや、あ、ご、ごめん!」


 慌てるようにその場を逃げ出そうとするジークフリートは海の中に潜る。すると、ラッキースケベの神様はジークフリートに粋な計らいをする。


 なんと、ジークフリートが潜った先に女性たちの水着があったのだ。それを目の当たりにしたジークフリートは盛大に息を吐いてしまい、勢いよく海面に顔を出した。その手には女性たちの水着が握られている。


「ぷはあっ!!」


「ジ、ジーク! そ、それ!」


「え? なに?」


「その手に持ってるの返して!!!」


「へ?」


 言われてからジークフリートは自分が女性たちの水着を握りしめていることに気がつく。気がついたジークフリートは、すぐに返せばいいものを焦ったように言い訳を始める。


「い、いや、これは俺がわざと取ったとかじゃなくて! 拾ったていうか、たまたま手の中にあったっていうか――」


『いいから返してーーーっっっ!!!』


「うわああああああああっっっ!!!」


 女性たちは魔法を放ち、まともに受けたジークフリートはまるでギャグ漫画のように綺麗な放物線を描いて遠い彼方に飛んでいった。


 レオルドが必死に領地改革をしている中、ジークフリートは青春を謳歌しているのであった。


 頑張れ、レオルド。負けるな、レオルド。未来を勝ち取るために。

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