第169話 論破してみろよぉ!

 目の前にいる子供達をどうするべきかと悩むレオルド。背後ではバルバロトが静かに怒っている。目の前にいる子供達のレオルドに対する態度が許せないようだ。


「まあ、落ち着いてくれ。さっきも聞いたが、この先の村から作物を盗んだか?」


「だったら、なんだよ!」


(おう……! 犯人でしたかぁ……)


 犯行を認めたように子供は声を荒らげる。これには困ったような反応を見せるレオルド。

 子供であろうと盗みを働いた罪人だ。レオルドは子供を捕まえて裁かなければならない。


 しかし、あまり気が進まない。


 恐らく少年盗賊団は何かしらの理由があるのだろう。それは、きっと国に対する不平不満からきたものに違いない。

 だが、彼等だけが不幸なわけではない。他にも不幸な人間は沢山いる。なら、彼等を特別扱いする事は許されない。


(本来なら捕まえるべきなんだろうなぁ……)


 目頭を揉みながら思案するレオルド。ここで、子供達を捕まえるのは簡単だ。そして、事件の解決にもなる。


 ただ、本当にそれでいいのかと悩んでしまう。


 ここで、子供達を捕まえれば餓狼の牙がどう動くかは目に見えている。子供達を捕まえたレオルド達を襲う事は間違いない。そうなれば、レオルドも餓狼の牙を見逃す事は出来ない。


 つまり、餓狼の牙の殲滅しかなくなる。


 勿論、今のレオルドならそれくらいは容易だろう。しかし、レオルドがここまで悩むのは理由がある。


 それは、餓狼の牙が民衆の味方だからだ。


 少なくとも餓狼の牙をレオルドが捕まえたとなったら、反感を買う事になるだろう。そうなれば、折角取り戻した信頼も失ってしまうかもしれない。それは、避けたいところだ。


 では、見逃すかと言われたら見逃せない。


 板挟みになってしまうレオルドは大いに悩んだ結果、子供達を説得する事に決めた。


「盗んだ作物を返してくれるなら罪に問わない。だから、盗んだ作物を返してくれないか?」


 なるべく穏便に済ませようとするレオルドに子供達は食ってかかる。


「ふざけるな! お前ら貴族のせいで俺達は満足に食べれてないんだぞ!」


「だからって盗むのはいけないだろう」


「うっ……でも、盗まなきゃ生きていけないんだ! それもこれも全部貴族のせいだ!」


「今、お前達がやってるのはその嫌いな貴族と一緒のことだぞ。他人のものを奪い、自分達だけが助かろうとしている。お前達と貴族、どこが違うんだ?」


「ち、違う! 俺達は必要最低限しか盗んでない! でも、お前ら貴族はこっちの事情なんてお構いなしに金や食べ物を持っていくじゃないか!」


「貴族も必要最低限しか貰ってないぞ。それに、お前達と違って盗んでいるのではない。対価として貰っているのだ」


「必要最低限だって? 嘘をつくな! お前ら貴族は俺達から奪うだけ奪って贅沢三昧じゃないか!」


「そうだとしても、犯罪ではないぞ」


「っ……! でも――」


「先程から貴族が悪いように言っているが、他人の育てた作物を盗んだお前達とどこが違うんだ?  お前は必要最低限だと言ったな? その必要最低限はお前の都合であって、盗まれた人達からすれば死活問題だったらどうするつもりだ? もしも、お前達が作物を盗んだせいで盗まれた人達が食べるのに困って死んだら責任を取れるのか?」


「そ、それは……貴族が……」


「貴族に恨みがあるのは十分に理解した。だからと言って人のものを盗んでいい道理にはならない」


「ぁ……ぅ……」


 反論することもしなくなった子供へレオルドが近付こうとした時、飛び込んでくる影が一つ。

 咄嗟に後ろへと飛び退いてレオルドは、飛び込んできた影に目を向ける。


「お前は……」


「何卒、何卒お許しください、貴族様」


 飛び込んできたのは餓狼の牙にいたカレンと呼ばれる少女であった。カレンはレオルドと子供の間に飛び込むと、二人を引き離してからレオルドへ向かって土下座をした。


(あー、事を荒立てたくないんだな……てか、ジェックスも近くにいるな)


 レオルドはバルバロトへと視線を向ける。目が合ったバルバロトは首を縦に振り、レオルドが何を伝えたいかを理解していた。対して、シャルロットはと言うと呑気に欠伸をしている最中であった。


「もう一人隠れているだろう。出てこい」


 隠れているジェックスに向けてレオルドは言葉を発する。

 しかし、ジェックスは出てこようとしない。


「俺が気付いてないとでも思っているのか? だとしたら、随分と舐められたものだ」


 これだけ言っても出てこないジェックスに痺れを切らしたレオルドはジェックスが隠れているであろう方向に向かって魔法を放つ。

 すると、魔法を避ける為にジェックスが姿を現した。


「やっと、姿を見せたか」


「本当に気が付いていたのかよ……」


「お、お前は……餓狼の牙のジェックス!」


「ちっ……あの時の騎士がいるから出たくなかったんだよ」


「そうか。それで、何の用だ?」


「はっ! いちいち言わなきゃ分からねえか?」


「いいや。大方、そこの子供達を助けに来たのだろう?」


「そこまで分かってるなら話が早え。今回は見逃してくれねえか?」


「なっ! 貴様、自分がなにを言っているのか分かっているのか?」


「分かってるに決まってるだろ。なあ、頼むよ、領主様。今回はガキ共が盗みを働いちまったけど、悪気はなかったんだ。だから、な?」


(許すのは簡単だけどなぁ…… しかし、これは絶好の機会では? だって、ジェックスは本来ならジーク達に負けて処刑される。そして、ジェックス達が持っていたアイテムはジーク達のものになる。その中には、運命48ゲームに三つしか存在しない蘇生アイテムがある。俺が手に入れられるとしたら、ジェックスが持っているフェニックスの尾羽しかない)


 目を瞑り、静かに考え込んでいたレオルドは目を開く。レオルドが目を開いたのを見て、ジェックスに緊張が走る。

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