第167話 うむうむ、我が輩が領主であーる
見事にシャルロットを口説き落としたレオルドはシャルロットとバルバロトの二人を引き連れて、件の村まで向かう。
「長距離転移の不便な所って一度その場所を訪れなきゃいけないのよね~」
馬に跨りながら愚痴を吐くシャルロットにレオルドが注意する。
「文句を言うな。使えるだけでも十分だろう」
「まあ、そうなんだけどね~」
のんびりとした雰囲気で三人は村へと進んでいく。
道中、魔物に襲われるといったハプニングもない。魔物にも知能はあるので襲ってもいい相手かを判断できるのだ。野性の本能というべきか、三人を目にした魔物は気配を悟られないように姿を消していたのである。
だから、三人が魔物に襲われる事はほぼないと言っていい。例外があるとすれば、モンスターパニックとモンスターパレードだけだ。
そして、三人がのんびりと馬を進めていたら報告にあった村へと辿り着いた。
馬を降りて、レオルドは村の中へと二人を引き連れて進んでいく。
早速、第一村人を発見する。見た目は十代後半から二十代前半に見える茶色い短髪の男性だ。その男性にレオルドは近付いて挨拶をする。
「やあ、初めまして」
「ん? き、貴族様っ!?」
男性は背後から声を掛けたレオルドの方へ振り返る。男性はレオルドの格好を見て貴族だと分かり、慌てて土下座をする。
「お、おお!?」
ここ最近、このような反応を見ていなかったのでレオルドも突然の土下座に驚いている。よくよく考えれば自分が貴族で平民からは畏怖される存在だということくらい分かりそうなことなのだが、すっかり忘れていたようだ。
「顔を上げてくれ。今日は確かめたい事があって来たんだ」
「確かめたい事ですか? なんでしょうか?」
「うむ。実はこの村で畑を荒らされるといった事件が起こったと聞いてな。その事で詳しい話を聞きたいんだ」
「あー、そのことですか。でしたら、畑を荒らされた人の所まで案内しましょうか?」
「おお、助かる」
「では、ついて来て下さい」
男性は立ち上がるとレオルド達を畑を荒らされた被害者の家まで案内する。
「ここです」
「そうか。ここの家の者か。案内感謝する」
「いえ! これくらいお安い御用です!」
「では、また頼むぞ」
「はい! それでは自分はこれで失礼します!」
敬礼をして立ち去っていく男性を見送ると、レオルドは案内された家の戸を叩いた。
「は~い。どちらさまでしょうか――き、貴族様っ!?」
本日二度目の反応である。レオルドは土下座をしようとしている家主であろう女性に声を掛ける。
「まあ、待て。土下座をされては話がし辛い。一先ず、家の中に入れてくれないか?」
「で、ですが、うちには貴族様をもてなすようなものは一切ございません。それでも、よろしいでしょうか?」
「求めてないから、構わん。とりあえず、人目がつくから家の中で話をしたいんだ」
「わ、わかりました。では、狭苦しい家ですがどうぞ」
家の中へと通されるレオルド達は、入ってすぐの所にある椅子に腰を掛ける。椅子は二つしかないのでレオルドと家主である女性が机を挟んで座る。
「私も座りた~い!」
「二つしか椅子がないんだ。我慢しろ」
「それなら、レオルドが立ってればいいじゃない」
「えっ!? そ、その名前は領主様っ!?」
(あ~、顔は知らないけど名前は聞いたことがある感じね)
新しい領主が就任した場合、田舎にある村には張り紙で知らされるか村長から聞かされることになる。だから、顔は知らないが名前は知っているのだ。
「ああ、そうだ。自己紹介が遅れてしまったが、俺の名はレオルド・ハーヴェスト。このゼアトを治めている領主でもある。そして、こちらの女性はシャルロット・グリンデ。俺の相談役兼護衛だ。そして、こちらの男性はバルバロト・ドグルム。騎士であり、俺の護衛を務めている」
「あ、あのどうしてうちに領主様が?」
「それなんだが、この家にはお前一人か?」
「い、いえ! 旦那と二人で住んでいます」
「旦那の方はどこにいる?」
「今は出掛けています」
「ふむ、そうか。では、旦那抜きで話をしようか。俺がここに来た理由は、畑が荒らされたと聞いてな。詳しい事が知りたい。話してくれるか?」
「え、あの、それは私達が村長に頼んで騎士様を派遣してもらうように頼んだ事なのですが?」
「知っているぞ。だから、騎士のかわりに俺が来たんだ」
「あ、ああっ! 申し訳ありません。領主様の手を煩わせてしまって!」
「いや、そんな事はない。だから、土下座をやめてくれ」
女性は自分達が余計な真似をしたばかりに領主であるレオルドの手を煩わせてしまったと悔いて土下座をする。
勿論、レオルドはそんな事微塵も思っていない。なので、土下座をしている女性に土下座を辞めるように促す。
「で、ですが……」
「俺の事を思ってくれるなら土下座をやめて、話をさせてくれ」
「わ、分かりました……」
出だしから疲れるレオルドは椅子の背もたれに体重を預ける。
「ふう……では、報告にあった畑が荒らされていた件について聞きたい」
「はい。私達の畑が荒らされたのは数日前の事でした。いつものように畑の様子を見に行くと、作物が盗まれていたのです。とは言っても被害はそこまで大きくありませんでした。私と旦那が食べていく分は残っていたので。最初は私も旦那も村人の誰かが犯人だと思い込み村中を聞き回ったのですが、村の中には犯人はいませんでした」
「ふむ……つまり魔物の仕業というわけか」
「いえ、違います」
「なに? では、やはり村人か?」
「それが……子供だと思うのです」
「根拠は?」
「私と旦那は一度盗まれた作物の辺りを見て回ったのです。すると、そこには子供のものと思わしき足跡が複数残っていました」
「それは、村の子供ではないのか?」
レオルドの質問に女性は首を横に振る。つまり、違うと言うのだ。
「村の子供ではないとしたら……犯人は一体……?」
「ですから、その……騎士の方を派遣して貰おうと思ったわけです」
「なるほど……よし、俺に任せておけ。必ずや、犯人を見つけ出してやろう」
「あ、ありがとうございます、領主様!」
深々と頭を下げる女性に対して自信満々なレオルドは仰け反りかえっている。どうして、そこまで自信があるかは分からないが、何か心当たりでもあるのだろう。
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