第164話 ボカァ、もうダメだ
帝国の使者が来てから一週間が経過していた。今、レオルドは自動車製造に夢中であった。相変わらず試行錯誤の毎日ではあるが、一歩一歩確実に先へ進んでいるからだ。
時速二十キロの壁を越え、時速四十キロに突入した。
しかし、そこでまた躓いてしまう。それでも、前よりは耐久性も上がっており品質向上に繋がっているのでレオルドを含めた作業員達はやる気に満ち溢れていた。
「ようしっ! 四十二キロおおおおおっ!?」
ここで限界である。レオルドが試運転していた車から、バギンッという音が鳴ると動かなくなる。車から飛び降りたレオルドが車の底を覗いて破損箇所を発見する。そこへ、作業員達が集まり話し合う。
「またですね〜」
「じゃあ、交換して再開しましょう!」
『おおおおおっ!!!』
凹んではいられないので作業員達は破損した部品をテキパキと交換していく。もう慣れたもので作業員達の動きはある意味芸術的であった。
(うーん、量産可能になったら彼等を作業長にすれば問題ないな。まあ、まだ完成の目処すら立ってないけど……)
そんな事を考えながら、レオルドは作業員達の作業を見守っていた。すると、そこへギルバートがやってくる。
「坊ちゃま。シルヴィア殿下がお見えになられました。坊っちゃまにお話があるとの事です」
「そうか。わかった。すぐに行こう」
恐らくは先日の帝国との件だろうと予想したレオルドはすぐに屋敷へと戻る前に、作業員代表であるマルコに後を任せる事を伝える。
「マルコ。後は頼むぞ」
「任せてくれ!」
「ふっ、頼もしいかぎりだ」
頼もしいマルコの返事を聞いたレオルドは愉快に笑いギルバートと共に屋敷へと戻るのだった。
屋敷へと戻ったレオルドは応接室に向かい、優雅に紅茶を飲んでいるシルヴィアと対面する。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。殿下」
「いえ、構いません。それよりも今日はレオルド様に伝えたいことがあって来ました」
「帝国の件でしょうか?」
「はい。この度の帝国が行った行為は到底見過ごす事が出来ません。ですから、帝国にはそれ相応の誠意を見せてもらうつもりです」
「なるほど。しかし、帝国がこちらの言い分を飲むでしょうか?」
「恐らくは難しいでしょう。ですが、今回ばかりは黙っている訳にもいきません。向こうを付け上がらせるだけですので」
「とは言っても帝国は大国ですよ。それに、軍事力も王国の十倍はあります。戦争にでもなれば……」
「分かっていますわ。それでも、我々王国は黙ってる訳にはいきませんの。それに、少しおかしい事もありますから」
「おかしい事ですか?」
「はい。現皇帝はどちらかと言えば保守派の方ですからこちらを刺激するような事はしないはずなんです。恐らくですけれど、皇子、皇女の方々が暴走した結果だと考えていますわ」
(うーん……だとしたら、第二皇子か?
ゲームの攻略知識を思い出して、レオルドは第二皇子を怪しむ。もしも、今回の事件に関わっているなら納得の出来る行動だ。
第二皇子は過激な人間である。ぶっちゃけると昔のレオルドと大して変わらない。ただ、レオルドよりも身分が高く、使える手下を従えてるので
さて、そんな第二皇子を怪しんでいるレオルドだがどうする事も出来ない。強いて言えば、ゼアトの守りを強化するくらいだ。
(せめて、ジークの状況を知れればなぁ……どういうルートに進んでるか分かるんだけど……。時期的には、そろそろ聖女と皇女が学園に転校してくる頃か?)
本当の理由は別だ。皇女の方は皇位継承権の争いから逃げてきて、聖女の方は教皇の企みを阻止する為に。
勿論、それらは全て
(ハーレムルートなら両方を解決するんだから、流石主人公だよなぁ……)
「どうかしましたか、レオルド様?」
「いえ、なんでもありません」
「そうですか? 何やら、考えていたようですけど……?」
「申し訳ありません。別の事を考えておりました……」
「まあ! 大切なお話をしているのに、別のことですか? ちなみにどんな事を?」
「完成するまでは秘密にしておきたかったのですが、馬車に代わる発明をしてるんです」
「ええっ!? 馬車に代わる発明ですか……? ちなみに今拝見する事は可能ですか?」
「まだ試作機ですからお見せするのは、恥ずかしいですね……」
「どうしてもダメでしょうか?」
瞳を潤わせて見詰めるシルヴィアにレオルドはたじろぐ。
(うっ、可愛いなぁ……! まあ、でも、ちょっとくらいは構わないか)
シルヴィアの魅力に負けてレオルドは、まだ完成していない車を見せることにした。二人は、イザベルとギルバートを引き連れて車を製作している工場へと向かった。
そこでは、マルコが試運転をしている姿があった。しかし、まだ完成には至らず壊れては修理するという作業を行っている。
「あの、アレが車というものですの?」
「ええ。まだ完成はしてませんが」
「ええ? でも、普通に動いていますけど?」
「アレはダメです。本来ならもっと長く走り、もっと速く走れるんです」
「それは、すごいですわね。あの……完成した暁には是非とも呼んでもらえないでしょうか?」
懇願するように両手を組んでレオルドに迫るシルヴィア。第四王女の頼みを断れることは出来ない。
それに、レオルドは断るつもりは一切ない。だから、笑顔を浮かべて返事をする。
「ええ、是非ともお呼びしましょう。いずれは、陛下にも乗っていただきたいものですから」
「ふふっ! とても嬉しいです! 楽しみにしていますわ!」
年頃の少女らしく喜んでいるシルヴィアを見て、レオルドはまた頑張ろうと思えた。だって、こんなにも綺麗な子が喜んでくれているのだから。男として応えない訳にはいかなかった。
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