第163話 おんぎゃああああああ!?
帝都へと戻ったアークライトは第二皇子のアトムースに何の収穫も得られなかったことを報告していた。
「この役立ずめ! たかが王国の弱小領主すら連れ帰る事も出来んのか!」
「しかし、兄上。相手にはあのシャルロット・グリンデがついていたのですよ」
「そんな事知らん! 大体、シャルロット・グリンデが相手側にいようとも奴は国家の問題に関わるようなことには首を出さんはずだろう!」
「それがどうやら、レオルド・ハーヴェストにご執心のようでした」
「なに……? それは本当なのか?」
「はい」
「くそっ! どうしてこうも上手くいかない! 転移魔法を蘇らせたレオルド・ハーヴェストを俺の手下に出来れば父上も俺の事を認めていたはずなのに!」
苛立ちを隠せないアトムースは爪を噛む。そんな兄であるアトムースをアークライトは冷めた表情で見詰めていた。
(それはどうでしょうかね……兄上が犯罪組織を使った事は既に陛下には筒抜けでしょうし)
優秀なわりにはゲームだとあっさりと第二皇子に暗殺されてしまう皇帝陛下。これには、一応理由がある。皇帝が信頼していた部下が脅されてしまい、裏切る事になった。そのせいで皇帝も暗殺に気付けずに死んでしまうのだ。
「次の手を考えねば……このままではルクセントが次の皇帝に選ばれてしまう」
苛立つと爪を噛むのが癖になっているアトムースは忙しなく部屋を歩き回る。何か良い考えが浮かぶかと思われたが、アトムースは結局髪を掻きむしって騒いだ。
「あー!!! くそっ! しばらくは、味方を集める! アークライト、お前も手伝え。もしも、断るのならお前の婚約者がどうなるかわかっているな……?」
「わかっております。それで、僕は何をすればいいのですか?」
「有力な貴族の弱みを握り、こちら側へ引き入れろ」
「分かりました。では、早速行ってまいります」
「次はしくじるなよ」
アークライトは去り際に聞こえてきた言葉に奥歯を噛み締めて悔しそうに部屋を出ていく。
アトムースはアークライトの婚約者を人質に取っており、アークライトはアトムースの言う事に逆らえないでいる。
勿論、第五皇子であるアークライトの婚約者には当然のように護衛がついているのだが、護衛の中にアトムースの配下がいたのだ。本来はアークライトが選抜していた護衛だったが、気がついた時には入れ替えられていた。
おかげで、アークライトはアトムースの言う事に逆らう事ができなくなってしまった。
しかし、婚約者を犠牲にすればアークライトはアトムースの企みを暴露出来る。ただ、それは出来ない。アークライトは政略結婚ではあるけれど、婚約者の事を愛している。そう、アークライトは愛する婚約者を犠牲にする事は出来ないから、アトムースに従うことを決めたのだ。
(どこまで
確固たる決意を胸に秘めているアークライトは、たとえレオルド、シルヴィアの両名から恨まれる事になろうとも婚約者を救うと決めているのだ。ならば、立ち止まるわけにはいかない。
忌々しい事であるが、アトムースの言う事に従い有力な貴族を引き入れる為に歩き出した。
しかし、ほかにもやり方はあったはず。レオルドやシルヴィアに恨まれるような事をせずに助けを求めれば良かった。だが、それは出来なかった。
何故ならば、使者の一行はアークライトを除いた全員がアトムースの部下だったからだ。そのせいでアークライトは助けを求める事も出来なかった。
だから、王国に不信感を抱かせるような事をした。これで、王国が動けばアークライトの賭けは見事に成功する事になる。そして、動かなければ、また別の手を考えるだけだ。
(こんな事を言う資格は僕にはありませんけど、どうかお願いします)
世界はもうレオルドが予測できない方向へと動き出した。果たして、レオルドは無事に生き残る事が出来るのだろうか。
それは、誰にも分からないが少なくとも今のレオルドは間違いなくしぶとい。生き残る為ならば手段を選ばないはずだ。
持ち得る限りの全てを使ってレオルドは抵抗することだろう。そうなれば、どうなるか見物である。
そして、その頃話題のレオルドはと言うと自動車製造に張り切っていた。
「よし、四十キロの壁を越えたがァァァァァッ!?」
時速四十キロを越えた途端に部品が破損して動かなくなる。レオルドは雄叫びを上げて車から飛び降りて破損箇所を見つける。
そこへ、作業員達が集まり、またダメだったと肩を落とすのであった。
次こそは次こそはと何度も諦めない作業員達は今日も頭を悩ませ、時には喧嘩をして、それでも完成を目指して共にがんばる。
一緒になって汚れるレオルドも笑いながら作業を進めていく。この先に何が待ち受けてるかも知らずにレオルドは自動車製造に励むのであった。
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