第161話 外交って難しいよね
応接室に残されたレオルドとアークライトはしばらく沈黙している。使用人が注いだ紅茶を飲みつつ、互いの出方を探していた。
「シルヴィア王女は遅いですね。もしや、嘘が露見してしまう事を恐れてお逃げになったのでしょうか? そうでしたら、これは少々国際問題になり得るかもしれませんね」
「脅迫ですか?」
「いえいえ、そのようなつもりはありませんよ」
(ちっ。こいつ、法律さえなけりゃぶん殴ってるぞ)
怒りを抑えるレオルドに対してアークライトは上機嫌な様子紅茶を口に含む。丁度、アークライトが紅茶を口に含んだ時、応接室の扉が勢い良く開かれる。
「何事ですか?」
「は~い。私、登場!」
現れたのはシャルロット。レオルドは色々と察して天井を見上げた。
「失礼、レオルド様。こちらの女性はどちら様でしょうか?」
「先程、殿下が申し上げていたシャルロット・グリンデ。本人ですよ」
「そんなまさか……私を騙そうとしているのですか?」
「そのようなつもりは一切ありませんよ」
「では、証拠を――」
「これでいいかしら?」
転移魔法で目の前に姿を現すシャルロットにアークライトは大きく目を見開く。
(バカな! 転移魔法だと……! 魔法陣を使わない単独での使用は王国では出来ないとの情報だ。なのに、今単独で使用してみせた……)
「あ、貴方は本当にシャルロット・グリンデ様なのでしょうか?」
「ええ。そうよ。まだ、何か証拠が必要かしら?」
(もし、彼女が本物なら機嫌を損なうわけにはいかない! いや、それよりもまさか本当にレオルドはシャルロットの盟友というのか!)
完全に信じたわけではないがアークライトは目の前にいる
しかし、本当にレオルドの盟友なのだろうかと疑う。
「一つ、お尋ねしたいのですがレオルド様とはどのようなご関係でしょうか?」
「友人よ」
(ああ、何と言う事だ。まさか、本当にそうだったとは……強引にでも転移魔法を持ち帰ることが出来ればと思っていましたが……これは無理そうですね)
本物かどうかは置いといて転移魔法を単独で使用するシャルロットを敵には回したくないので、アークライトは全てを諦める事にした。
「ふう……いいでしょう。今回の件につきましては、一旦保留ということにしておきましょうか」
(はあっ!? こいつ、ふざけてんのか! 喧嘩ふっかけて来ておいて、状況が悪くなったら逃げようってか!)
流石に見過ごす事は出来ない。第五皇子であろうと第四王女がいる中、真っ赤な嘘をつき難癖つけてきたことをなしにする事は出来ない。
それはあまりにも王国を侮辱しすぎている。王国の威厳に関わる事だ。ここで、アークライトをただで帰す訳にはいかない。
「散々、嘘つきよばわりしておいて謝罪もなしに帰ろうとするのはいかがなものかと思いますが?」
「おや、いつ私がそのような事を?」
「惚けないで下さい。アークライト様。シャルロットが開発者と知って、手の平を返したではありませんか」
「はいはい! そこまで!」
一触即発といった雰囲気の中、シャルロットが手を叩いて止めに入る。
「これ以上はお互いに譲れなくなるでしょう? ここらで終わりにしておきなさい」
シャルロットの言っている事は間違ってはいない。このまま、両者の熱が冷めなければ最悪帝国と王国は戦争にまで発展していた。
第五皇子であるアークライトは帝国の総意と言ってもいい立場で、レオルドの態度次第では強引に戦争へと発展させる事も可能だった。
しかし、それをしないのはシャルロットの存在が大きすぎた。世界最強の魔法使いが王国に味方をすれば、大陸一の帝国といえども無事では済まないだろう。
ただ、アークライトは知らなかった。シャルロットが今回動いたのは一人の女の思いゆえにだ。この場は収めることはしても、戦争になればシャルロットは動かない。どちらの陣営にもつくことはない。
「しかしな――」
納得出来ないレオルドは反論しようとしたが、シャルロットから放たれる本気の殺気に押し黙る。
「レオルド。私は貴方の友人ではあるけど、味方ではないわ」
「っ! そうか。そういうことか」
恐らくシャルロットはシルヴィアと何らかの契約でもしたのだろうとレオルドは推測して、それ以上は何も言わずに沈黙する。
対してアークライトはこれ以上の追及がない事に満足する。
(はあ……一時はどうなるかと思いましたが、なんとかなりましたね)
かなり強引な手を使いレオルドを追い込もうと画策したが、シャルロットの登場で有耶無耶になってしまった。
唯一、収穫があったと言えばレオルドにはシャルロットがついていると言うことくらいだ。
(これは兄さん達にどやされますね)
帰った後のことを考えるアークライトは憂鬱な気持ちになるのであった。
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