第160話 やはり、暴力! 暴力こそがこの世の真理!
応接室の空気はピンと張り詰める。帝国の使者代表であるアークライトと応対するレオルドとシルヴィア。両者は互いに笑い合っているが、内心ではどす黒い感情が渦巻いていた。
「はははっ。でしたら、証拠をお見せして欲しい。私とアークライト様がお会いしたことがあるという証拠を」
「それは水道がなによりもの証拠ではありませんか。あの水道は我々、帝国が開発したものですよ。それをレオルド様に提供したから今のゼアトがあるのです。それが、何よりもの証拠ではありませんか」
「おかしなことを言いますね。私は帝国から技術を提供されていませんし、あの水道は私が独自に開発したもの。帝国のとは似ているようで違いますよ」
「それは、それは、素晴らしい。我々が提供したものを独自に改良を加えたという事ですね。流石はレオルド様です」
「話を聞いていましたかな? あの水道は私が開発をしたのです」
自分が開発したと強調するレオルドに対してアークライトは帝国が技術を提供したという嘘を貫こうとしている。
「はあ……嘘はいけませんよ、レオルド様。あの水道は我々が提供したものです。シルヴィア王女がいるからと言って誤魔化すのはやめていただきたい」
困ったように肩を竦めるアークライトを見てレオルドは内心で怒っていた。
(こいつ、あくまでもその嘘を貫くって訳かよ!)
「うふふっ。お困りのようですから、私のほうでレオルド様から陛下に献上された設計書をお持ち致しましたわ」
「ほう? 拝見させていただいても?」
「構いませんわ。イザベル、設計書を」
「はい。こちらをどうぞ」
いつの間に用意していたのかは分からないが、イザベルはシルヴィアに設計書を渡す。受け取ったシルヴィアは何の躊躇いもなく設計書をアークライトへと渡した。
(よほど自信があるようですね……)
設計書を受け取ったアークライトは軽く目を通した。そして、設計書をシルヴィアに返して、口を開く。
「やはり、我々帝国のもので間違いありませんね。まさか、自分のものと偽って国王に献上するとは……これは由々しき事態ですよ?」
(どの口が言うんじゃい! お前が! 嘘八百並べてる癖に自分の事は棚上げにする気か!)
「ふふっ、あははははははっ! アークライト様。面白い事を言いますね。帝国のもの? いいえ、違いますわ。それは正真正銘レオルド様が独自に開発したもの。そして、なによりも開発者はもう一人いるのですよ」
「ほう。それは是非ともお会いしたいですね。我が帝国の技術をあたかも自分のものだと主張する愚か者を」
「愚か者はあなたですわ。アークライト様。レオルド様と協力して、水道を開発したのはシャルロット・グリンデ様です」
「はい? シャルロット・グリンデ様? ふ、はははははは! おかしいのは貴方の方ではありませんか? シャルロット様はどこの国にも仕えない御方ですよ? どれだけの時の権力者達が彼女を手中に収めようとして返り討ちにあったかご存知ないので?」
「勿論、知っておりますわ。ですが、アークライト様。シャルロット様は国には仕えてはいませんが、ここにいるレオルド様の盟友なのですよ」
「ご冗談を。それこそ、証拠を見せていただきたいですね」
「ええ。でしたら、少々お待ちを」
自信満々な笑みを浮かべてシルヴィアは立ち上がり、応接室から退室する。向かう先はシャルロットの部屋だ。
シャルロットの部屋へ辿り着いたシルヴィアは一度大きく深呼吸をしてから、扉を叩いた。
「開いてるわよ~」
「失礼します」
「あら? シルヴィア? もう対談は終わったの~?」
「いいえ。まだです。シャルロット様。どうか、お力を貸していただけないでしょうか?」
頭を下げるシルヴィアを見てシャルロットの纏っていた雰囲気がガラリと変わり、冷たいものになる。
魔法を使っているわけでもないのに、部屋の温度が僅かに下がったように肌寒く感じるシルヴィアはシャルロットの変化を察知した。
「それは私に国家の問題に関われってことかしら?」
「それは違います。シャルロット様。私ではありません。レオルド様を助けていただきたいのです」
「私に丸投げするつもり?」
「違います。私は有効な一手を使いたいのです」
「へえ~、私を駒代わりにするつもりなのね」
「そう捉えてもらっても構いません。ですが、私はどうしてもレオルド様を助けたい。その為ならば、私はシャルロット様にこの身を差し出しましょう」
「本気? それってなにされても文句は言えないわよ? それこそ、人体実験だってなんだってね」
「覚悟の上です。帝国はかなり強引な手を使ってきました。下手をすれば戦争も有り得るかもしれません。そうなれば、恐らくレオルド様が治めているゼアトは真っ先に狙われる事になります。いかに堅牢な砦に守られてようとも今の帝国が本気でゼアトだけ、いいえ、レオルド様だけを叩き潰そうとすれば容易でしょう。私は、レオルド様に死んでほしくないのです」
「建前は分かったわ。で、本音は?」
「先ほどの言葉が本音ですが――」
「違うわ。王女とかそんなの抜きにして、貴方の、貴方だけの本心を見せなさい」
なにを言いたいのか、何を聞きたいのか。シルヴィアは全て理解した。シャルロットはシルヴィアの心情を理解している。レオルドに恋心を抱いている事も見抜いている。
ならば、王女と言う立場の言葉ではなくシルヴィアという一人の女の本心をシャルロットは聞きたいのだ。
「わ、私は……」
「大丈夫よ。防音結界張ってるから思いっきり叫びなさい」
防音結界、それは言葉通り結界内の音漏れを防ぐ結界だ。内密な話をする時によく用いられる事が多い。つまり、シルヴィアが心の底にある思いの丈を叫んでも問題ない。
「……死んで欲しくない……だって、まだ好きって言ってないのに! まだ私の気持ちをレオルド様に伝えてないのに、死んで欲しくなんかない! いなくなって欲しくない! 国とか立場とかそんな事どうでもいい! 大好きなレオルド様に死んで欲しくないだけ! シャルロット様に軽蔑される事になっても、私はどんな手を使ってでもレオルド様を守りたい。この胸の痛みを心地いいと思わせてくれたレオルド様を私は……愛しているんです。だから、どうかレオルド様を助けてあげて」
「その言葉、確かに聞き入れたわ。任せて、シルヴィア。貴方が愛して止まないレオルドは私が助けてあげる」
一人の女の告白に世界最強の女が動き出す。
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