第159話 駆け引きって言葉知ってます?
シャルロットによって散々からかわれてしまった二人はようやく落ち着きを取り戻した。気まずい空気になりながらも、イザベルが用意してくれた紅茶を飲んで一息つく。
二人が落ち着きを取り戻した時、応接室へギルバートが入室してくる。そして、ついに使者の一行がゼアトに到着したとのこと。
「わかった。ここまで案内するように頼む」
「はっ」
ギルバートが応接室を出ていき、レオルドは緊張により大きく息を吐いた。
「ふう〜〜〜……」
「緊張されています?」
「お恥ずかしながら、緊張してますよ。一体、どのような人物が来るのか。どのような事を言われるのか。考えたらキリがありませんが、何にしても緊張します」
「ふふっ。大丈夫ですわ。私がついていますもの。レオルド様だけに負担はかけませんので、ご安心下さい」
「ははっ。これは心強い。でしたら、今回はお言葉に甘えさせて頂きます」
今回は本当にシルヴィアがいてくれて良かったと思っているレオルドは任せることにした。本来ならば、自分がどうにかしなければならない問題であるが、荷が重すぎるのだ。
その後、ゆっくりと使者の一行が屋敷に来るのを待つ二人。特に喋ることもなく、イザベルが注いでくれる紅茶を飲みながら待ち続ける。ティーカップを置く音だけが応接室に響いた。
それから、どれだけ経っただろうか。時計を見れば、既に三十分以上が経過していた。ゼアトに到着したと言うのに、どれだけ待たせればいいのかと少々苛立ち始めるレオルド。対して、シルヴィアはただ静かに待っていた。
そして、ようやく屋敷に使者の一行が来訪する。
「レオルド様。こちらへどうぞ」
シルヴィアが自分の横を叩いてレオルドを移動させる。上座であるソファーにレオルドは移動して、シルヴィアの横に座る。
レオルドが移動した頃に、ギルバートが使者の一行を応接室へと案内して、応接室へ使者の一行が到着した事をギルバートが伝える。
「レオルド様。お客様をお連れ致しました」
「うむ。通せ」
応接室に使者の一行が入室してくる。扉が開かれて、入ってくる使者の一行を見て、レオルドは目を見開くことになる。
(ば、馬鹿かよ! なんで、ここに第五皇子が来るんだ! 普通は陛下に許可を取ってからだろうが!)
(第五皇子が自ら……帝国は何を考えているのでしょうか……? 恐らくはレオルド様が目的なのでしょうが……懐柔するつもり? いいえ、それならば他の者を送ってくるはず。第五皇子が来たということは、少なくとも帝国は本気でレオルド様を手中に収めようとしている? 何にしても必ず阻止せねばなりませんわ。国の為にも私の為にも!)
顔にこそ出ていなかったが、シルヴィアもレオルドと同じように驚いていた。まさか、帝国の第五皇子が来るとは想像もしていなかった。
しかし、第五皇子が来たからと言って引き下がる訳にはいかない。シルヴィアは国の為、そして己の恋の為にもレオルドを帝国に渡さないと奮起する。
(おや? 何故ここに第四王女が? ああ、我々が来訪する事を知って慌てて駆け付けてきたのでしょうね。でしたら、少々手を変えましょうか。元々、考えていた手よりは有効でしょう)
第五皇子ことアークライト・ランギス。ランギス帝国の第五皇子にして、今回使者の一人としてレオルドの元へとやってきた。
「お久しぶりですね、レオルド様。この度は、伯爵への陞爵おめでとうございます。我々もレオルド様の活躍を耳にしており、大変喜ばしい限りです」
まるで、何度も会ったことがあるように振る舞うアークライトにレオルドはこめかみに青筋を立てる。
(こいつ! 見え透いた嘘を!!!)
声を荒らげて否定しようにも相手は帝国の第五皇子である。荒立てる訳にはいかない。落ち着いてレオルドは返答しようとしたが、アークライトが逃げ道を塞ぐように畳み掛ける。
「我々が提供した水道は役に立っているでしょうか? ああ、いえ、お答えしなくても結構ですよ。ここへ来るまでに住民達の様子を見ましたが、十分に役立っているようで安心しました」
(じゃあ、聞くなよなっ! いや、突っ込んでる場合じゃない。こいつ、殿下を疑心暗鬼に陥れる気か! くそっ、姑息な手を使いやがって!)
(さて、王女の反応は?)
アークライトは先制攻撃を済ませて、シルヴィアの方へ目を向ける。そこには、一切動じることのないシルヴィアがいるだけである。
(動揺していない? 少なくとも、何かしらの反応を見せると思ってましたが、これは中々に手強いとみましたね)
(なるほど。あたかも帝国とレオルド様が繋がってるように見せかけて、私を動揺させるつもりでしたか。悪くはない考えですね。疑心暗鬼に陥れば、レオルド様の立場は悪くなり、王国に居づらくなる。その弱った所を助けて手中に収めようとしたのでしょうが、そうはいきませんよ)
アークライトの思惑を見抜いたシルヴィアは微笑みを浮かべて可愛らしく首を傾げる。
(失敗ですねー、これは。レオルド・ハーヴェストは諦めて、転移魔法だけは何としてもいただきましょうか)
どうやら、失敗したと悟ったアークライトはシルヴィアの微笑みに対してニッコリと笑顔で返した。
「さて、アークライト様はどのような用件で我がゼアトを訪れたのでしょうか?」
出だしから疲れたレオルドはアークライトへと問い掛ける。何故、ゼアトに来たかを。本題へと入るレオルドにアークライトは口を開く。
「それは、レオルド様もご存知でしょう? 我々は技術提供をしました。報酬を支払ってもらおうと思って、わざわざ帝都から来たのですよ」
(ぬけぬけと嘘つきやがって……)
呼吸するように嘘をつくアークライトに呆れながらも、レオルドはまともに相手をする気はないので適当に返す事にした。
「はて? 仰ってる意味がわかりませんね。帝国が技術提供? そもそも、私とアークライト様は初対面ではありませんか」
「おやおや、シルヴィア王女がいるからと言って嘘をつくのはよろしくありませんね。我々は確かに技術提供をしたはずですよ」
(あくまでその手で来る気か……)
(さあ、どう切り返します?)
互いに譲らない交渉は、無事に終わる事が出来るのだろうか。
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