第153話 頑張った甲斐があるってもんよ~

 随分と時間は掛かってしまったが、ようやく全ての準備が整った。バルバロトとイザベルの結婚式が遂に行われる事となった。


 思えばレオルドが発案してから半月も過ぎていた。考えなしの行動ではあったが、辿り着くことが出来たのだ。

 結婚式場もレオルドとシャルロットの汗と涙のおかげで無事に完成している。


 後は、参加者である親族と友人の来訪を待つだけとなっている。


 バルバロトの方はそこまで問題ないのだが、イザベルの方は少し問題が起こった。王家直属の諜報員であるイザベルは天涯孤独の身らしく、親族がいないという。ただ、友人はいるようで式には参加するらしい。


 しかし、参加者の中にシルヴィアがいるのだ。


 友人枠というわけではない。元上司という立場だ。どうやら、イザベルが報告したらしく、報告を聞いたシルヴィアは自分も是非参加したいという旨を伝えてきたので断るわけにもいかず、参加が決まった。


 おかげで新郎のバルバロトは式当日でもないのにガチガチに緊張している。


「どうした、バルバロト? 独身最後の夜は、やっぱり寂しいのか?」


「違いますよ! 殿下が来るんですよ! 殿下が! 明日が本番だってのは分かりますけど、緊張するに決まってるじゃないですか!」


「話を聞いたときは俺も驚いた。まさか、殿下が参加するとは思わなかったからな。祝福の言葉だけと踏んでいたのだが、予想が外れてしまった」


「こんな大事おおごとになるなんて思いもしませんでしたよ」


「すまん。やっぱり、余計なお世話だったよな……」


「い、いえ! そういう意味で言ったわけじゃないですよ。レオルド様には感謝してるんです。私は貴族の三男坊で家督を継げず、騎士となってそれなりの人生を送るものだと思っていたのに、このような素晴らしい催しを開いてもらえるなんて夢にも思わなかったのですから」


「そうか。その言葉を聞けて俺も頑張った甲斐があるというものだ」


 独身最後の夜にバルバロトはレオルドと酒を飲み交わす。これから、先の人生は家族を優先する事が増えるだろう。もしかしたら、レオルドや友人と気兼ねなく酒を飲む機会も減るかもしれない。

 そう考えると、バルバロトはやはり寂しいと思ったのだった。


 翌日、レオルドは明朝にギルバートとバルバロトの三人で鍛錬に励む。


「ふむ。今日ですな」


「ああ。今日だな」


「……吐きそうです」


 当日の朝になったら、余計に緊張するバルバロトは吐き気を催している。ガチガチに緊張しているバルバロトをレオルドとギルバートは、緊張を解すように場を和ませる。


「まあ、落ち着け。モンスターパニックの時に比べたら、結婚式など可愛いものだぞ」


「そうですな。司会者として私も頑張りますので、バルバロト殿にも頑張っていただきたいものです」


「やはり、仲人を俺がやるべきか?」


「坊ちゃまは二人の馴れ初めを知らないですから、私が務めましょう」


「からかうのはやめてくださいよ……」


「はははっ。それより、大丈夫なんだろうな?」


「内容は頭に入ってますので大丈夫です」


「でしたら、問題ありませんな。最高の晴れ舞台としましょう」


 鍛錬が終わり、バルバロトはいよいよ準備を進める。新郎に相応しい純白のタキシードを身に纏い、式場の横に作られた建物で待機する。


 続々と集まってくる親族と友人達を案内人を務めている使用人達が結婚式場へと案内していく。誰も彼もが結婚式場に入ると驚きの声を上げて感動に震えていた。


 サーシャのデザインの元、レオルドとシャルロットの努力の結晶は参列者の心を見事掴む事に成功した。


 全ての準備は整った。後は新郎新婦の入場を待つだけである。


(ここまで準備するの大変だったな~。二人が喜んでくれればいいんだけど……正直言ってやりすぎたし、余計なお世話だもんな……)


 不安を抱いているレオルドを置いて、結婚式が始まる。今回、レオルドが提案したのは真人の記憶にある人前式であった。

 宗教が絡むと面倒な事が起こりそうだったので、レオルドは人前式を提案したのだ。人前式ならば、自由に行えるので今後真似をする人が増えるかもしれないという思いもあった。


 さて、司会役のギルバートが壇上に上がり始まりの挨拶をしてから新郎新婦の入場となった。式場の真ん中を二人が歩いて来る。


 無垢なる純白のタキシードを身に纏うバルバロトと穢れを知らない純白のウエディングドレスを身に纏い、ベールを被ったイザベルを見た参列者はあまりの美しさに息を呑む。


 やがて、二人が壇上へと上がり、参列者へと振り返る。マイクを作ることが出来たらよかったのだが、流石に無理だった。

 だから、バルバロトは大きな声で永遠の誓いを宣言した。


「本日、お集まりしていただいた皆様に感謝を。私は今日、この日を以って、イザベルを妻に迎えます。生涯愛する事を誓い、死が二人を別つ時まで共に歩む事を誓います。どうか、皆様末永く見守りください」


「夫となるバルバロトと同じ思いです。この先、どれだけの苦難があろうとも夫婦で乗り越えてみせます。だから、どうか皆様よろしくお願いします」


 祝福の言葉が参列者席から溢れ出る。中には感動したように立ち上がり拍手を送っている者もいる。二人は多くの祝福を受けながら、指輪の交換を行い、誓いのキスをした。


 その後は式場を出て、ブーケトスが始まる。花嫁が持つ花束を投げるので、独身女性が集められる。ただ、どういう意味なのか良く分かっていないので司会役のギルバートが軽く説明すると、何故かやる気に満ち溢れる独身女性の姿が見られた。


 見事にブーケトスを勝ち取ったのはイザベルの同僚であった。彼女にも幸せが訪れる事を願う。


 そして、次は披露宴となる。

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