第152話 東奔西走なんのその

 翌日から、レオルドは走った。それは、もう東から西へ、北から南へ忙しく走った。ゼアトでの仕事に加えて王都にガラス職人の手配などで東奔西走である。


 それだけ忙しくなっても鍛錬は決して怠らなかった。運命に抗うのだから、一日たりとも無駄には出来ない。たとえ、どれだけ忙しかろうと強くなる努力は惜しむことはあってはならないのだ。


 レオルドは休む暇もなく働き続けており、午前に結婚式場の工事。午後は王都でガラス職人との打ち合わせ。


 サーシャから受け取ったデザインを元にガラスの制作をお願いするレオルドはどれだけの時間が掛かるのかを聞いた。


「うーん、これだけの模様を描くと時間が掛かるなぁ」


「具体的にはどれくらいだ?」


「三日、いや、五日くれ。それだけあれば、いけると思うから」


「わかった。では、五日後に取りに来る。頼んだぞ」


「任せてくだせえ!」


 王都のガラス職人の元からレオルドは次の場所へと向かう。そこは服屋であった。ただの、服ではなく貴族にドレスやコートを売っている店だ。レオルドはそこでウェディングドレスの制作依頼をするつもりだった。


「店主に話がしたい。時間はあるか?」


「失礼ですがお客様は?」


「レオルド・ハーヴェストだ。出来れば急いで欲しい」


 店員は客がレオルドだと分かると大慌てで店の奥へと消えて行く。すると、慌てたように店主らしき初老の女性が現れる。


「これはこれはレオルド様。本日はどのようなご用件でうちにいらっしゃったのでしょうか?」


「急ですまないが、作ってもらいたい服があるんだ」


「作ってもらいたい服? はて、どのようなものでしょうか?」


「実は――」


 ウェディングドレスについてレオルドは説明をしていく。話を聞いている初老の女性は、最初こそ眉を顰めていたが話を聞き終わる頃にはレオルドの手を取り大絶賛であった。


「素晴らしい! レオルド様! きっと、結婚のイメージがさらに飛躍しますよ! うちを選んで頂き、本当にありがとうございます!」


「礼はいい。出来そうか?」


「もちろんでございます! ただ、オーダーメイドとなりますと着用する御方を一度連れて来て貰いたいのです。採寸をしなければなりませんので」


「わかった。他には何かいるか? 金に糸目はつけないぞ」


「いえいえ! もう十分でございますよ。これ以上は貰い過ぎてしまいます」


「そうか。ならば、後から夫婦となる二人を連れて来るから頼むぞ」


「お待ちしております!」


 張り切っている店主に別れを告げてレオルドは王都を駆け回る。花屋に宝石店とレオルドは回っていく。


 夕暮れになり、レオルドは一度ゼアトへと転移魔法で戻る。文官達が纏めていた書類を整理してから、レオルドは魔法の鍛錬を行ってから就寝をとった。


 明朝、目を覚ましたレオルドはギルバートとバルバロトとの三人で鍛錬に励む。ギルバートと組み手を行い、バルバロトと剣を交わせる。

 まだ、レオルドはギルバートから一本をとる事が出来ない。そして、剣術のみの勝負ではバルバロトにも勝てない。ただ、バルバロトとは魔法を使用した場合は勝率が三割を越えている。


 しかし、まだ三割である。これは、バルバロトがレオルドに負けじと鍛錬を積んでいる成果だ。レオルドがゼアトに来た頃のバルバロトならば、勝負にはならなくなっていただろう。


「坊っちゃま。そろそろ、お時間です」


「もう……か……」


 疲れ果てて地面に大の字に寝転がっているレオルドにギルバートは予定の時間が来ている事を教えた。起き上がるレオルドは汗を流すために、風呂に入りさっぱりした所で朝食をとる。


 手早く朝食をとると、レオルドは現在建造中である結婚式場の工事現場へと向かう。そこには、安全メットを被ったサーシャと欠伸をしているシャルロットにマルコと他作業員が揃っていた。


「よし、では、本日の作業を開始するっ!」


 号令の元に作業員達が動き出す。基本はレオルドとシャルロットの荒削りな造りで細かい部分を他作業員が進めていく。そこをサーシャが指示を出して補っていく形だ。

 サーシャ監督の下、レオルドとシャルロットはひいひい言いながら作業を進めていった。理想を追い求め、完璧を望むサーシャはとても厳しかったのだ。


 そして、午前中の工事が終わると休憩に入るのだがレオルドだけは別行動になる。

 レオルドはバルバロトとイザベルを連行して転移魔法で王都へと向かう。王都へと着いた三人は、服屋へと向かう事になる。


 レオルドが注文していたウェディングドレス製作のためにバルバロトとイザベルをデザイナー達に丸投げする。

 困惑していた二人が質問しようにもレオルドは既に別の場所へと向かっていた。


 ガラス職人のいる工房へと向かい、進捗を聞いてみると五日ではなく四日に変更となった。これならば、早く結婚式を開く事が出来るかもしれないと喜ぶレオルドだった。


 しかし、ここで一つ思い出した。


「バルバロトは結婚指輪とかどうしてるんだ?」


 気になったレオルドは服屋にいるバルバロトの元へと向かう。すると、そこには放置されているバルバロトがいた。どうやら、妻になるイザベルが奥の方で採寸されているようだ。男と女の違いだろう。


「バルバロト。丁度良かった。お前に聞きたいんだが、結婚指輪は用意してるのか?」


「え? 指輪なんてないですよ」


(どうやら、お互いの指に嵌める様なことはしないのだろう。夫婦の契りを神父の前で結んでお終いなんだろうな)


 結婚したことはないレオルドだが、これは外してはならないだろうとバルバロトに結婚指輪のことを説明する。


「そんな事をするんですね……確かに指輪があればその人のものだと証明になったり出来ますね」


「理解したか? ならば、指輪を用意しに行くぞ」


「えっ、今からですか!?」


「善は急げだ。行くぞ、バルバロト」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、レオルド様!」


 急かすようにバルバロトを連れて行くレオルドは宝石店へと向かった。余計なお節介ではあるが、レオルドはバルバロトには幸せになってもらいたいと心の底から思っていた。

 前にも言ったようにレオルドはゼアトに来て、初めて自分を認めて受け入れてくれたバルバロトには救われたのだ。

 だからこそ、バルバロトには幸せになってもらいたいとレオルドは色々とお節介を焼いているのであった。


 勿論、イザベルもだ。ただ、バルバロトほどではないとだけ言っておこう。

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