第151話 ふむふむ、ほうほう

 二人の新居に帰ってきた三人は中へと入っていく。


「う~ん。やっぱり扉がないって不便じゃない?」


「仕方ないだろ。魔法では金具まで作れなかったんだから」


 実はマルコとサーシャの家には扉がない。防犯機能が酷すぎるのだが、仕方がない。レオルドの言うとおり、魔法では金具まで作れなかったのだ。


「錬金術でも覚えるか……」


 運命48ゲームにも存在していた錬金術。練成陣を用いて、金や銀を生み出すといったものだ。


「無理よ~! 貴方が異世界の知識を使っても錬金術は不可能よ」


 その通りである。運命48ゲームであったなら、錬金術師に素材を渡して別の素材にしてもらうといった簡単な作業であるが、ここは現実である。ゲームのように簡単にはいかない。


 しかし、メインヒロインの中には錬金術師がいる。彼女を引き込む事が出来たのなら、話は変わってくる。


 ただ、どこで会えるかと言えば学園である。レオルドは退学しているので会う事は出来ない。では、他の錬金術師を探せばいいとなるが、大体の錬金術師は誰かに雇われていたりする。


 そして、残念な事にゼアトには錬金術師はいない。


「賢者の石くらいなら作れそうだが」


「それ、全ての錬金術師の悲願よ? 本気で言ってるわけ?」


「……」


 レオルドが持つ真人の記憶では簡単に作っていたりするが、これ以上の話は禁忌なので触れてはならない。


「すまん」


「別に怒らないけど、本人達には絶対しちゃいけない話だからね?」


 素直に警告を聞き入れるレオルドは錬金術について忘れる事にする。

 二人が錬金術の話をしている間に、マルコはサーシャの元へと着いていた。


「ただいま、サーシャ」


「お、おか、おかえり……マルコ」


「レオルド様に頼まれてた結婚式場のデザインはどうなってる?」


「い、一応は……」


 どうやら、レオルドに注文されていた結婚式場のデザインは完成しているらしい。あとは、レオルドに見せるだけだが、果たしてどうなることやら。


 話をしていた二人が遅れてサーシャの元へとやってくる。サーシャは完成した結婚式場のデザインを持ってレオルドへと近付く。


「レ、レオルド様。こ、これ!」


「ああ。デザインが出来たんだな。ありがとう」


 お礼を述べてからレオルドはデザイン用紙を受け取り、広げてじっくりと見詰める。その様子を見てサーシャは目をギュッと瞑っている。どのようなことを言われるか分からないからだ。

 もしも、悪口を言われたらどうしようかと怯えるサーシャである。


(石造りで色鮮やかなガラスに幻想的な模様か……。椅子は教会と似たような長椅子だが、花を飾るのか……。ふむふむ……これを作ろうとしたら、相当な時間がいるな。ガラス職人を手配して、木工職人にも依頼を出して……うん!)


 長い長い時間がサーシャに恐怖を与えた。新居の時と違ってレオルドが長考していたから、サーシャはきっとダメなんだと勝手に思い込んでしまっている。


 だが、それは誤解である。


 芸術的センスのないレオルドでもサーシャが描いた結婚式場のデザインは素晴らしいものだと思っている。ただ、建設予定などを考えているから、長い時間黙ってしまったのだ。


「サーシャ。君がゼアトに来てくれた事、本当に感謝する」


「へ……?」


「見ろ、シャル。これはお前でも凄いって言うデザインだぞ」


「どれどれ~。ええ! 何これ! 凄いわ! 本当に! 教会が元なんでしょうけど、全然イメージが違うわ! こんな素敵な場所で結婚できるなんて幸せものよ!  絶対これは作るべきだわ!」


「そうかそうか。なら、お前も手伝ってくれるよな」


「え?」


 呆けるシャルロットの両肩を掴み、レオルドは目を細める。


「い、いや……」


「逃がすか!」


 逃げ出そうとするシャルロットを捕まえるレオルドは、決して逃がすまいと羽交い絞めにする。


「転移しても密着してるから逃げれんぞ!」


「嫌~っ! 離して、変態レオルド!」


「黙れ! お前が手伝うと言うまでは離さんぞ!」


 傍から見れば犯罪である。シャルロットを羽交い絞めにして逃がさないようにするレオルドはどこから見ても性犯罪者にしか見えない。


「だって、今日だって凄く疲れたのに! その結婚式場を作ろうとした日には私働きすぎて死んじゃうわ!」


「安心しろ! 俺達が作るのは外観までだ! 他はその手のプロを集めるから大丈夫だって!」


「本当?」


 目を潤ませて背後にいるレオルドを見詰めるシャルロット。健気な目で見てくるシャルロットにレオルドは躊躇いが生まれる。


(うっ……可愛いな、ちくしょう!)


 年齢のことについては触れてはならないが、見た目は二十台前半のシャルロットである。整った顔をしているのだから、可愛いと思うのは仕方のないことだ。


「ああ、本当だ……」


「……なら、手伝ってもいいわ」


「誓えるか?」


「誓うわ」


「よし。じゃあ、よろしくな」


 そう言ってシャルロットを解放してレオルドはシャルロットに握手を求めた。


「言っておくけど、外観までだからね」


「それで十分だ」


 取り繕うことのない純粋な笑顔を浮かべるレオルドにシャルロットは観念したように溜息を吐いた。


(はあ~。ずるいわ~。そんな顔されたら期待に応えたくなるじゃない、バカ……)


 明日から忙しくなるだろう。バルバロトとイザベルの為にレオルドは駆け回ることになる。それでも、レオルドは必ず成功させる為に努力を惜しむ事はしないのだった。

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