第154話 うおおおおん、俺の方こそありがとうやで~

 披露宴となり、場所は変わる。式場は力を入れたが披露宴の会場は多くの人を呼べるようにした広いだけの建物である。


 それでも十分であった。用意されたテーブルに着く参加者たちは新郎新婦の再登場を待つだけとなる。


 そして、司会役のギルバートの進行によりお色直しをした新郎新婦が再登場する。先程の純白なタキシードから、銀色シルバーのタキシードになっているバルバロトと純白のドレスから可愛らしいピンクのドレスに変わっているイザベルを見た参加者は騒然とする。

 まさか、新しい衣装になるとは思ってもいなかったからだ。


 常識が変わる。今日という日が歴史を動かすかもしれない。新たな結婚式は多くの参加者に深く脳裏に刻まれる事となった。


 披露宴は順調に進んでいき、やがて終わる事になる。それは当たり前の事だが、楽しい時間が終わるのはとても寂しい。


 だけど、いつまでもこの時間が続くわけではない。だから、区切りをつけるのだ。ギルバートが終わりの挨拶をしようかとした時、新郎新婦の二人が止める。


「この場を借りて私達の主であるレオルド様に伝えたい事があるのです!」


 このことを知らなかったレオルドは戸惑うように周囲を見回している。


(えっえっ!? なに? 何を言われるの!?)


 座っていたはずの二人が立ち上がり、レオルドの方へと身体を向ける。二人に見られているレオルドは身体が固くなってしまい動けないでいた。


「レオルド様。この度は私達夫婦の為にありがとうございます! 貴方に仕えることが出来て私達は幸せです!」


 バルバロトの言葉に思わず泣きそうになってしまうレオルドだったが、バルバロトの伝えたい気持ちはまだ終わっていない。


「思えばレオルド様がゼアトに来てから、私の生活は一変しました。貴方に剣を教える日々は私にとって生涯の宝物となりましょう。そして、貴方のおかげで妻と出会うことも出来ました。全てレオルド様、貴方のおかげです。どうか、これからも夫婦共々よろしくお願いします」


 嘘偽りのない感謝の気持ちだった。頭を下げている二人を見て、レオルドは涙が溢れそうになった。


 余計なお世話なのではとずっと不安に思っていたレオルドは二人からの感謝を込めた言葉を聞いて報われた。


 やってよかったと。


 レオルドは心の底からそう思った。


 二人の言葉により結婚式は無事終了となる。参加者達を見送っていく中、レオルドはぼんやりと考えていた。


(……運命を覆す事が出来たら俺も誰かと結婚するのかね)


 いずれ来るであろう死の運命。運命48ゲームでは主人公ジークフリートがどのヒロインを選んでもレオルドは死んでしまう。死因は色々あるが、死を避けることは出来ない。


 だから、レオルドは結婚のことなど微塵も考えた事がなかった。もしも、未来があるのならレオルドは今回の一件で結婚も悪くはないと考えを改める事になる。


 ただし、相手がいればの話だが。


 レイラの言うとおり、いずれは政略結婚をすることになるだろう。恐らくだが、国にとって影響力のある女性とだ。そうなれば、公爵家か王族辺りであろう。


 レオルドはシルヴィアの方を一度見て、漠然と考える。


(シルヴィアとか? いいや、彼女は断ったからないだろう。ジークがハーレムか王女ルートに行ってない限り、俺と同い年の第三王女辺りが無難な所か……あれ? そうなると、シルヴィアはどうなるんだ? ゲームだったら、シルヴィアの能力を危惧した魔王が手下を送り込んで暗殺する予定だけど……)


 運命48の場合はジークフリートがハーレムルートか王女ルートに突入するとシルヴィアは魔王に目を付けられて暗殺されてしまう。

 ただ、それ以外だとどうなるかは描写されてはいない。サブヒロインであるシルヴィアはあまり物語に関与しないのだ。だから、シルヴィアがどうなるかレオルドはわからなかった。


 シルヴィアのスキルが破格なので他国へ嫁がせることはないはずだ。無難なところでいけば有力な貴族の下へと降嫁するだろう。

 これ以上考えるのはやめようとレオルドは頭を振って忘れる事にした。


 二人の結婚式が無事に終わり、いよいよレオルドは次の計画を実行する事になる。マルコという天才が発明した車を実現させる日がやってくるのだ。


 そうと決まればレオルドは行動を移す。マルコを捕まえて、今後の計画を練っていく事にする。


「マルコ。お前が考えている車だが、明日から本格的に計画を実行させるぞ」


「お、おお! でも、工房とかはどうするんだ?」


「ある程度広い建物を作るつもりだ。デザインに拘る必要はないからすぐに出来る」


「なるほど。じゃあ、ホントに?」


「ああ! 世界の度肝を抜いてやるぞ!」


 二人の男が決意を胸に立ち上がる。これから、成すのは産業革命だ。レオルドには既に未来が見えていた。自動車産業を興せば、どれだけの経済効果が産まれるかなど分かりきっていることだった。


(ふっふっふ! 夢が広がるな!)


 不気味そうに笑うレオルドを見てマルコは若干引いていた。いい人なのではあるのだが、時折おかしなことをするので、少しだけ心配するマルコである。


 レオルドの目論みは成功するのか。それとも失敗するのか。それは分からないが、どちらに転んでも面白そうなのは確かである。

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