第146話 目隠れは一つの属性じゃん!
魔王シャルロットに囚われた姫君サーシャを救うべく、勇者マルコと荷物持ちレオルドの新たなる伝説が幕を開ける、なんて言うことはなくレオルドとマルコは屋敷へと帰ってきた。
マルコは急ぎたかったが、レオルドの屋敷なので走る事は出来ないから早足で応接室へと向かった。
「サーシャッ!」
そこにサーシャの姿はなかった。あったのは、途中まで書かれている二人の家のデザインだけであった。
「そ、そんな……サーシャ!」
悲観に暮れているマルコだが、別にサーシャは本当に攫われた訳ではない。単にシャルロットがオシャレを教えているだけだ。
しかし、二人がそんな事を知るはずもない。なので、マルコはサーシャが連れ去られてしまったと勘違いしている。
「マルコ。別にサーシャが危ない目に遭っているわけではないぞ?」
「え? でも、サーシャはいないんだぞ!」
「いや、多分だが――」
レオルドが喋っている途中に応接室の扉が勢い良く開かれる。振り返った二人の先にいたのはシャルロットである。
「シャルか。もう少し、静かに入って来れないのか」
「ごめ〜ん。あっ、そんな事より見せたい子がいるのよ〜」
「見せたい子? お前、まさかここにいた女の子を連れてったのか?」
「そうよ〜。可愛い顔してるのに、オシャレの一つもしてないからちょ〜っと魔法をかけてあげたの」
「洗脳したのか!?」
「女の子が魔法って言ったらお化粧でしょ!」
「女の子?」
はて、と首を傾げるレオルドに魔法が放たれる。しかし、魔法はレオルドの目の前で見えない壁にぶつかったように消し飛んだ。
「何よそれ〜! もしかして、私と同じ?」
「ふっ……」
「着々と腕を上げてるわね〜!」
不敵に笑うレオルドと悔しそうなシャルロットと置いてけぼりのマルコ。二人のじゃれ合いが終わると、シャルロットが扉の外に隠れているサーシャを引っ張ってきた。
「ほら〜隠れてないで、見せてあげなさいよ〜」
「やっ……あの……わ、私は……」
シャルロットが引っ張ってきたのはサーシャなのだろう。ただ、見た目は大きく変わっている。ボサボサだった髪はストレートに伸ばされており、隠れていた目元はカチューシャによって見えるようになっていた。
元々、顔が良いと言うのは本当だった。大きな瞳の下に一つある泣きぼくろは、大人の魅力を感じさせている。
「ほう……」
思わずレオルドも感心したように息を吐いてしまった。そして、何の反応も見せないマルコに顔を向けてみると固まっていた。
恐らく、サーシャの化粧した姿を初めて見たから驚いて固まっているのだろう。
「綺麗だ……」
素晴らしい。何一つ無駄に取り繕わない褒め言葉だ。心の底から思ってるからこそ、出てくる純粋な気持ちだと言うことがよく分かる。
「あっ……え……」
マルコの一言にサーシャは顔を真っ赤にして照れてしまう。今までマルコが褒めた事はなかった。容姿について、マルコが何かを言う事はなかったのだ。
そんなマルコがたった一言だが、サーシャの容姿を見て褒めたのだ。サーシャからすれば、それは最上の喜びであっただろう。
「凄い綺麗だよ、サーシャ。うん。オイラびっくりした。これなら街の人達は放っておかないよ」
「わ……わた……私は……マルコだけに見てて貰えれば……それで……」
甘い空間が支配する。このままでは、レオルドとシャルロットは弾き飛ばされてしまうだろう。
だからと言って邪魔をするわけにもいかないし。昔からよく言うだろう。
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ね、と。
静かにこっそりとレオルドとシャルロットは応接室を出て行った。二人は屋敷の外へと出て中庭で体育座りをする。
「青春だなぁ……」
「青春ねぇ……」
シャルロットは青春と言うのは無理があるかもしれないが、レオルドはまだ十六歳の学生だった身だ。まだまだ、青春を謳歌出来る年齢である。
「どれくらいしたら戻れると思う?」
「う〜ん。流石に最後まではいかないと思うから、三十分くらいでいいんじゃない?」
「そっか〜。三十分もいるんだなぁ……」
そんなにいるとは思わないが、念のためであろう。シャルロットの言う通り最後まで事を進める気はないはずだ。
二人が退場した応接室ではマルコとサーシャが困ったように笑いあっていた。
「ははっ、ははは。レオルド様とえっと……」
「シャルロットさんだよ……」
「シャルロットさんか。えっと、サーシャはシャルロットさんにその化粧をしてもらったのか?」
「う、うん……似合わないよね?」
「そんな事ないよ! オイラがさっき言ったのは本当の事だから!」
「えぅ……エヘッ……あ、ありがと」
「うっ……」
「ど、どうしたの? やっぱり、私がき、気持ち悪い?」
「違うっ! その……本当に可愛くて……それでちょっと……オイラ今更恥ずかしくなってきたんだ」
「えぇっ? な、なんで?」
「だ、だって……オイラずっとこんな可愛い人と一緒に住んでたんだって……」
「あっ、あぅぅ……」
初心な二人である。ここにレオルドとシャルロットがいたらチンパンジーか、もしくは小学生のように盛り上がっていただろう。出て行って大正解だ。
レオルドとシャルロットが戻ってくるまでの間、二人は見詰め合う事はあったが終始無言であった。
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