第147話 簡単そうに見えるだろ? でも、そうじゃないんだ

 レオルドとシャルロットの二人は三十分ほど外に出ていたが、そろそろ頃合いだろうと戻って来た。すると、そこには初々しい二人が待っていた。


 その光景を見た二人は、恥ずかしそうに俯いている二人に聞こえないよう小さい声で話す。


「くっついたのか?」


「いいえ。アレは多分ようやく意識し始めたってところね」


「よく分かるな」


「貴方とは見る目が違うのよ」


「年の功というやつだな」


 小さく笑うレオルドにすかさずシャルロットは魔法を叩き込むが、全て防がれる。


「む〜、腹立つわね」


「ふっ……運命に抗うんだ。お前にいつまでも負ける訳にはいかんさ」


 無駄な所で力を発揮するレオルドに頬を膨らませるシャルロットを見ていたマルコとサーシャは同じ事を思っていた。


(仲良いなぁ〜)


 イチャついている様にしか見えなかったレオルドとシャルロットが、ソファーに座って話は進んでいく。


「さて、色々とあったがサーシャよ。家のデザインはどうなった?」


「あっ……それは……」


 机の上に途中まで描かれているデザインがある。サーシャはそれに目を落としながら、どう答えようかと悩んでいるようだ。


「ふむ。あとどれくらいで完成なんだ?」


「えっと……十分もいただければ……出来る……と思います」


「そうか。なら、頼む。作業の邪魔になりそうな俺とシャルは出て行くから終わったら呼びに来てくれ。俺の居場所は部屋の外にいるメイドに聞くように」


 それだけ伝えるとレオルドはシャルロットを引き連れて応接室を後にする。マルコを残したのは、サーシャがデザインしているのはこれから二人が住む家なのだ。だから、マルコの意見も少しは欲しいだろうという配慮だ。


 応接室を出たレオルドはシャルを引き連れて、執務室へと向かった。レオルドは残っている仕事を片付け始めて、シャルロットを放置している。


「連れて来て悪いが、帰っていいぞ」


「なにそれ〜! ひどくない?」


「だってお前をあの空間に残せるわけないだろ。それより、何もないから帰ってもいいぞ」


「え〜、少しは構ってよ〜。最近、レオルドってばずっと忙しそうにしてて中々遊んでくれないじゃない!」


「仕方がないだろう。俺は本当に忙しいんだから」


「だからって働きすぎよ。屋敷で一番働いてるじゃない。鍛錬も欠かさずによく倒れないわね」


「頑丈だからな。この程度ならどうということはない」


「でも、少しは休憩しなさいよ〜」


「なら、少し手伝ってくれ」


「いや〜!」


 大体いつもこれだ。それらしいことをシャルロットが並べるが、結局は意味がない。レオルドもそれが分かっているが相手をしなければしないで面倒になるので、半ば諦めている。


「ところで、レオルド〜」


「なんだ?」


「貴方ってあの二人の為に家を建てるみたいだけど、魔法で建てる気?」


「それ以外ないだろ。大工でも雇う気か?」


「いいえ〜。ただ、大変よ?」


「なに? どういう意味だ?」


「言葉通りよ。恐らく土魔法で家を建てるんでしょうけど、とんでもなく重労働よ。それこそ、転移魔法陣の施設にした円柱なんかより、よっぽどね」


「なんだと……? 魔力をとんでもなく使うからか?」


「それもだけど、細かい作業が多くなってくるのよ。細部にまで拘るんだから、一日や二日じゃ終わるわけないわ。普通の場合はね、土魔法の使い手が数人で手分けして行う作業なの」


「そうなのか……」


「ただ、貴方は魔力共有をゼアトの住民としてるから尋常じゃない魔力を使えるけど、頭の方はどうかしらね〜?」


「……デザイン通りに魔法を使えば良いだけだろう。難しいことではない」


「そうね。その通りなんだけど、それが案外難しかったりするのよ〜。だって、デザインは絵であって形じゃないもの。絵を立体的に作る作業ってレオルドが思ってる以上に精神をすり減らすわよ〜」


 脅しのような事を言うシャルロットにレオルドは顔を顰める。シャルロットのことばが本当なら、自分はこれからとんでもない目にあうのではと危機感を抱くレオルドであった。


 丁度、書類仕事が片付いた頃に使用人がマルコを連れてレオルドの元へとやってくる。どうやら、サーシャの作業が完了したらしい。


 レオルドとマルコとシャルロットの三人は応接室にいるサーシャの元へと向かう。応接室に着くと、机の上に広がっているデザイン用紙をサーシャはレオルドに渡した。


 受け取るレオルドはサーシャが描いたデザインを見ていく。その横から覗き込むようにシャルロットもデザインを見る。


「へぇ〜。いいんじゃない?」


「ああ。二人で住むなら十分だと思う。機能性もそうだが、やはり内装がいいな。よくここまで描けたものだ」


 褒められたサーシャは顔を赤くして俯いてしまう。マルコがサーシャの肩を叩いて、笑みを見せる。サーシャはマルコの笑顔を見て、嬉しそうに何度も頷いた。


 これで、あとは造るだけである。問題はシャルロットが先程言っていた事だろう。レオルドは少し不安を抱きながら、マルコ、サーシャ、シャルロットの三人を引き連れて家を建てる場所へと向かった。

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