第145話 急げ! 手遅れになるぞ!

 さて、レオルドの心に深い傷が残ってしまったが三人はゼアトへと戻って来た。一先ず、レオルドは二人の新居を用意してやろうと意気込む。


「よし。まずはお前達の新居を用意しよう。立地条件など詳しい話をしようじゃないか」


「ええっ!? 悪いよ、レオルド様。オイラ達は王都と同じような集合住宅でいいよ」


「すまん。ゼアトには宿泊施設があっても集合住宅なんて無いんだ」


「えっ?」


「驚くのも無理はないだろう。だが、ホントの事なんだ。ゼアトには集合住宅はない!」


「そんな……じゃあ、明日からの生活はどうすれば……」


「だから、新居を用意すると言っている。サーシャ。どのような物件に住みたいか希望を自分でデザインしてくれ。マルコは立地条件などの相談だ」


 急展開過ぎてついていけない二人を置いて、レオルドはどんどん話を進めていく。


「何を惚けている。お前達はこれからゼアトに住むことになるんだ。家は大切だろう。生活の基盤となるのだから」


「それはそうだけど、オイラ達お金はあんまり……」


「支払いはいらん。気が済まないのなら働いて返せ」


「えっ……働くのは当たり前だけど、返さなくていいのか?」


「恐らく、お前がこれから俺と一緒に働けば莫大な利益が生まれるだろう。だから、この程度は問題ないさ」


「まだ、成功するって決まったわけじゃないのに……」


「そうだな。失敗するかもしれん。でも、俺は必ず成功すると信じている。いいや、必ず成功させる」


「お……おお……! 信じる! オイラ、レオルド様を信じるよ!」


 信者を確保した。レオルドは従順なる下僕となる信者を見事に生み出した。これがカリスマの力なのだろうか。


「とりあえずは俺の屋敷に来て相談だな。マルコ、サーシャついてこい」


「おう!」


「は、ははいっ!」


 二人を引き連れて屋敷へと向かう。レオルドは二人を屋敷の中へと通して、応接室に向かった。まずは、先程もレオルドが説明したように二人の新居を作らねばならない。

 なので、レオルドはサーシャに間取り図や外観をデザインして貰う。レオルドはマルコを引き連れて、どの辺りに家を建てたいかを検討する。


「う〜ん、オイラとしては作業する為に人様の迷惑にならない場所がいいな」


「それは工房の話だろう。今は、お前が住む為の新居だ。利便性などをよく考えろ」


「え〜っ……う〜ん……難しいなぁ」


 いきなり、新居と言われても難しいだろう。元々、マルコは集合住宅に部屋を借りていたが基本は工房で寝泊まりする事が多かったというのだ。むしろ、部屋でよく生活をしていたサーシャにこそ聞くべきだろう。

 ただ、サーシャの場合はレオルドと上手く話せないので難航するのは間違いない。それに、サーシャは今頃デザインを作っているので、土地選びを決めるのはマルコしかいないだろう。


「う〜ん……」


 悩んでいるマルコにレオルドは助言をする。


「マルコ。難しく考えなくていい。ここがいいと思う場所を選べばいいんだ。ただし、誰も使ってない土地に限るけどな」


「でも、やっぱり悪いような……」


「はあ〜……」


 これはしばらく時間がかかりそうだと頭を抱えるレオルドであった。


 その頃、屋敷の方でサーシャは二人の新居になる家のデザインを描いていた。心なしか、いつもより作業に捗っているように見える。


「エヘッ……エヘへッ……」


 妄想の世界に浸っているようだ。どうやら、二人の新居というワードにサーシャは心ときめいていたらしい。そのおかげで、作業が捗っているのだからよしとしよう。


 すると、その時応接室の扉が開かれる。入ってきたのはサーシャと会わせてはいけない人物ナンバーワンかもしれないシャルロットである。


「レオルド〜。帰ってきたんでしょ〜!」


「ひゃっ……えっ……だ、誰?」


「ん〜? そういう貴方の方こそどちら様?」


「あ、えっと……わ、私は……」


 緊張して上手く喋れないサーシャにシャルロットはグイグイと近づいていく。至近距離にまで詰められてサーシャは身体を仰け反らせるように離れるがシャルロットがそれを許さない。


「ねえ、ちゃんとこっち見て」


「ひぇ……ひゃ、はい」


 顔を合わせる二人はしばらくお互いの顔を見詰めあったまま動かない。


「貴方、名前は?」


「サ、サーシャ……です」


「そう。サーシャ。うん、サーシャ!」


「は、はひ……」


「貴方可愛い顔してるんだから、髪で顔を隠すなんて勿体ないわ! 女の子ならオシャレしなきゃね!」


「えっ、えっ、あの……えっ?」


 混乱しているサーシャを無理矢理連行してシャルロットは応接室を出ていく。どのような事をさせるのかは容易に想像出来る。

 果たして、サーシャは無事に生還出来るのだろうか。それは、レオルドとマルコが帰ってくるまで分からないだろう。


 外にいたレオルドとマルコは土地選びが終わり、屋敷へと帰宅している最中だった。


「しまったな。シャルが屋敷にいた事を忘れてた」


「シャルって誰だ? レオルド様の友人か?」


「まあ、そんなもんだ。ただ、やたら構ってちゃんだからめんどくさい面もある」


「へぇ〜。悪い人ではないんだろ?」


「ああ。悪いやつではないが……サーシャが心配だな」


「えっ! なんでだ!?」


「シャルの性格上サーシャに何かするのは間違いないからな。伝え忘れていた俺も悪いが、早く戻るぞ」


「ああ! サーシャが危ない!」


「いや、危なくはないのだが……」


 急いで戻るマルコはレオルドを置いて駆けていく。その後を追い掛けるレオルドは、多分大丈夫だろうと呑気に考えていた。 

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